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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
VS 領主夫人ハル編

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61/66

61_魔女の理想郷

第61話です。

今回はハルがこの世界でどのような地位を築いたのか、の回です。同じ日本人でも、ハルとルナは仲良くなれないタイプでしょう

私たちが持ち直したことで、ハルは機嫌を損ねたようだ。

 

曲がクライマックスになると共に大きくホールに響き渡る。そしてハルはホールの中央に躍り出て、主役とばかりに堂々とした顔で笑ってみせる。


そして伯爵と共に大きく回って、派手に最後のポーズを決めた。その瞬間に割れんばかりの拍手と歓声が湧き上がって、ハルは非常に満足そうな表情を浮かべた。 

 

「やっと、終わった……」


「雄鶏の方がまだマシに踊るだろうな」


「すみませんでしたね!こっちも精一杯頑張ったんですよ」


ビョルンさんの軽口に噛み付くと、彼はククッと喉で笑った。いつもよりもよく見える端正な顔が眩しい。


「まぁ、一曲分踏ん張ったことは……褒めてやらんでもない」  


偉そうに鼻を鳴らし、少しだけ目元を緩めるビョルンさん。


「お褒めの言葉として受け取っておきます」  

 

曲が終わったことに安堵しながら、最後にパートナーに一礼をして終局を迎えた。正直、今ここでぶっ倒れてしまいたいくらいには疲れた。すごく疲れた。踏まれた爪先が痛いし、膝が笑ってしまいそう。

 

だがハルは対照的に先程の激しさを忘れさせるほど優雅に、そして美しく中央を陣取っていた。

 

その表情からもわかる通り、自分がこの世界の中心であると一点の疑いもなく信じているのだろう。彼女が扇を広げて妖艶な一瞥をくれるたび、フロアの周囲にいた者たちが、堰を切ったように彼女の元へと群がっていった。

 

男たちが欲望を剥き出しにして叫ぶ一方で、淑女たちは顔をこわばらせ、必死に『正解の笑顔』を貼り付けてハルを褒め称えた。

 

「まあ、ハル様……。今宵も眩いばかりの美しさですわ」

 

「ええ、本当に。王都の流行など、ハル様の前では無意味。そうですわよね、皆様?」

 

一人の淑女が震える声で周囲に同意を求めると、他の女性たちも弾かれたように、何度も、何度も首を縦に振る。


「ビョルンさん、気付きました?」


「あぁ。女達は魔女の術には掛かっていない」

 

この場の淑女たちはハルの不興を買って領主の機嫌を損ねるという事態を避けたいのか。生存本能的な恐怖に支配された哀れな人形に他ならない。

 

「術にかかってくれていた方が、手間が省けたものを」


「そうですか?この状況は使えますよ」


「何を企んでる」


「女の同調圧力の怖さはよく知っているんです」

  

女の敵は女、とはよく言ったもので。会社員時代、成績だけは良かった私に対して女性陣の目はとても冷たかった。それまで親しくしていた同期も、先輩社員の圧力に負けて私をこき下ろすようになったこともある。


「目的を見失うなよ」


過去への怒りに囚われかけた時、ビョルンさんの手が肩に触れる。その温もりで、冷静さが戻ってきた。 


「分かっています」  


彼女たちはいわばハルに抑圧された鬱憤が溜まった民衆と同じ立場だ。夫や息子、父親までもがハルに鼻を伸ばしているものだから内心は穏やかではないだろう。ということはハルの権力が揺らいだ時、きっと彼女たちの声は私たちの力となるだろう。

 

そして男たちはというと。

 

「ハル様! 王都より取り寄せた最高級の絹織物でございます!」

 

「夫人、私の鉱山で採れたばかりの紅蓮宝玉ルビーをぜひ!貴女にはこの色こそが相応しい!」

 

貴族や商人が差し出す織物や宝石を、ハルは扇で顔を半分隠したまま、ひどく退屈そうに眺めていた。

 

「あら、素敵。……だけど前に貰った方が綺麗だったわ。ね、旦那様」

 

「我が愛の前では、民からの貢ぎ物など小鳥の涙に等しいものだ」

 

「まぁ、旦那様。そんなことを言ってしまってはかわいそうよ。彼らにはこれが精一杯なんだから」

 

「そうか、そうか。我が妻は慈悲深く美しいな」

 

伯爵は愛おしげにハルの腰を抱いて、恍惚な表情を見せる。ハルは人形のような完璧な笑みで、伯爵に微笑みを返した。

 

彼女にとって金で買えるものなど、もはや道端の小石を並べられるのと大差ないらしい。それに領主という絶大なパトロンが付いている以上、財力で賄える産物で競うのは分が悪い。

 

しかし、ハルの『退屈な表情』を覆す瞬間こそが、男たちの狂気をさらに加速させるのだ。哀れな羊は震える体を割り込ませ、ハルの前に躍り出た。

 

「ハル様。こちらは我が一族が代々守り抜いてきた、港の通行権利書にございます。これさえあれば、この領地の物流は全て貴女の意のままに……!」

 

上等そうな毛皮の上着を羽織った商人が、金の腕輪と指輪を飾った手で紙束を差し出す。その瞬間、会場が大きなどよめきに包まれた。

 

だが、ハルは喜ぶどころか冷たい表情でそれを指先で軽く弾くと、跪く商人をヒールで蹴り上げた。

 

「私、難しいことは嫌いなの。私にそんな面倒な仕事を押し付ける気?」

 

「な……」

 

領地運営を支えることも伯爵夫人の仕事であるはずだ。しかしハルはそれを幼稚な理由で不要と断じて突っぱねた。領主にとって相当の痛手の筈だが、領主は妻の機嫌を損ねた商人に対して怒りの表情を見せる。

 

「我が妻の表情を曇らせた罪は重い。この者を地下牢送りにせよ!」

 

「はっ」

 

領主に命じられた近衛兵たちは商人を囲んで、会場から引き摺り出そうとした。これには領主命令となれば誰も口を挟むことは許されない。

 

「なぜですか!?私はただ、ただハル様のために……!」

 

哀れな商人の言葉は誰にも聞き届けられることはなく、重い扉が無慈悲に閉じられるだけだった。


「なんてことを……」

 

「騒ぎを起こすなよ」

 

「でも、このまま放っておけませんよ」

 

こんな横暴をまざまざと見せつけられておいて、じっとしていられるわけがない。


「まだだ」 


ビョルンさんは静かに、威圧するように言った。


「その時が来たら、存分にかましてやれ」


挑発的にすっと細められるライムグリーンの瞳。その冷静さとは程遠い目に、私は口角をあげた。


「その時は一緒に、ですよ」

  

今はまだ、動くわけにはいかない。エリザベスさんが到着するまでは、この茶番劇に耐えなければならないのだから。


でも、この茶番劇が一刻も早く終わってほしい。そう願うしかなかった。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

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※次回第62話『ヘンゼルとグレーテルを救いだせ!』更新は2月18日12時です

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