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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
04_VS 魅了の魔女 ハル編

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56_商会長たる所以

「ルナ嬢、ビョルン君! 無事の到着で何よりですぞ」


 噂をすればなんとやら、玄関ホールでバジルさんが出迎えてくれた。バジルさんは以前会った時以上に上質なシルクと毛皮の上着を身に付けていて、この邸宅の主人に相応しい風貌をしていた。しかし表情は人懐こく、ビョルンさんに握手を求め、私の手の甲には口付けを落とした。


「お招きいただき感謝いたします、バジルさん」


「なに、堅苦しいのはよしてくれたまえ、ルナ嬢。君には商談成立の恩があるのだからね。それに、ビョルン君にも」


「ビョルンさんにも?」


 バジルさんは他の商人たちと比べてビョルンさんに友好的だと思っていたけれど、二人にどんな関係があるのか聞いたことはなかった。興味津々に聞き返すと、バジルさんはにっこりと笑って教えてくれる。


「以前、我が商会で流行病が出てしまった時のことだよ。彼は治療薬を、しかもほとんど無料で譲ってくれたんだ」


「そうだったんですか?」


「いくら言っても、代金を受け取ってくれなくてね。その時は流石の私もどうしようかと思ったよ」


 はははと豊かな髭を揺らしながら笑うバジルさん。その表情はビョルンさんへの純粋な感謝で満ちていた。


「あの時から私は、どんな形であれ君の力になろうと思っていた。本当に感謝しているよ」


「流行病が外部に漏れれば、商人ギルドが責任を問われる。俺はそのリスク回避のために動いたまで」


 なんともビョルンさんらしい答えだけれど、ここは相棒として釘を刺しておこう。


「ビョルンさん、こういう時は『どういたしまして』っていうんですよ。相手の感謝の言葉は真摯に受け取らないなんて、誇り高いエルフのすることですか?」


 私に釘を刺されると思っていなかったのか、あからさまに狼狽えるビョルンさん。そして、そんなビョルンさんの反応に驚くバジルさん。


「これは驚いた! ルナ嬢にはビョルン君も頭が上がらないのだねぇ」


「そういうわけでは」


 言い淀んだビョルンさんに対して、バジルさんは笑って肩を叩く。 


「いいんだ、ビョルン君。紳士たるもの、いついかなる時も、淑女の言葉には耳を傾けるべきなのだよ。それが円満の秘訣というものさ」


 にこりと笑うバジルさんが、なにかに気づいたようにさらに表情を明るくする。バジルさんと同じ方向に視線を向けると、一人の妙齢のご婦人が立っていた。


「あぁ、バーバラ! こちらは商人ギルドのビョルン君とルナ嬢だ。ご挨拶を」


「わたくしはバジル商会副商会長、並びにバジルの妻バーバラと申します。この度は我が商会主催の舞踏会にお越しくださり、誠にありがとう存じます。お二人を歓迎いたしますわ」


 バジルさんの傍に立ち、婦人は恭しく首を垂れる。その姿は貴婦人そのものの気品を放っており、私たちも深く頭を下げた。


「歓迎に感謝いたします、バーバラ副商会長。本日もお美しくていらっしゃる」


「まぁ、ビョルン様! お久しゅうございます」


 ビョルンさんはバーバラ夫人の右手を恭しく取ると、軽く唇を押し付けた。それは他の紳士に引けを取らないほど堂々とした優雅な動きで、周囲にいたご令嬢方の視線を釘付けにしてしまう。


 それもそのはず。エルフとしての美しさと、堂々とした対振る舞いが合わされば、彼はまるで物語の登場人物のように浮世離れした美男子なのだから。


「副商会長、本日の同行者をご紹介させてください。彼女はルナ、現在は私とともに商いをしております」


「ルナと申します。本日はお招きくださり、感謝いたします」


 正直なところ、今のビョルンさんの隣に立つというのはなかなかにハードルが高い。現に今、玄関ホールの片隅で


『どうしてあんな小娘を隣に置いているのかしら』


 なんて言われている始末。うん、まぁ、わかるよ。こんな芋女は美麗なエルフには似合わないですよね。


 しかし、ビョルンさんは堂々とした姿勢を崩さず、私の肩を抱いた。ちょっとちょっと、いきなり大胆すぎませんか!?


「彼女は非常に優れた商人です。知性と才能に優れ、淑女としての慈悲深さも持ち合わせている。私には過ぎたパートナーです」


『ビジネス』パートナーね! いきなり言うからびっくりした!


 突然のことに顔が赤くなる私を無視して、ビョルンさんは言葉を続ける。


「あら素敵。ビョルン様がそうおっしゃるのでしたら、きっととても優秀なお方ですのね。可愛らしいだけではなく聡明でいらっしゃるなんて、とても魅力的なパートナーを見つけられましたのね」


「自分の身には余る幸運です」


 バーバラ夫人の口調はとても穏やかだが、有無を言わせないという圧を感じる。そのプレッシャーは私に向けたものではなく、周囲のご令嬢や見物客に向けてのものだろう。客への無礼は許さないという確固たる意思を感じる。


「お二方も、舞踏会をお楽しみくださいましね」


 バーバラさんは一礼して、招待客を迎えるために入口に戻って行った。


「お美しいお方ですね……」


「あの方こそ、淑女というものだ」


 お前も見習え、と言外に言われている気がして、ぐぅと唸る。


「して、お二方」


 バジルさんの顔から一瞬だけ、笑顔が消える。


「『例のもの』をお預かりいたしましょう」


「あぁ、こちらに」


 それは『水鏡の妙薬』のことだ。ビョルンさんは懐から小さな木のケースを取り出すと、バジルさんに差し出した。


「おぉ……! さすがはビョルン君、見事なものだ」


 箱を開けて小瓶を確認すると、バジルさんは満足そうに目を細めた。あまりに堂々と開けるので私は内心穏やかではないけれど。


「こういう時こそ、堂々と胸を張るものですぞ、ルナ嬢」


「は、はい!」


 私の心を見透かしたようにバジルさんはウィンクをした。


「舞踏会開始まで、まだ時間がありますからな。ダンスを楽しむのはいかがかな?」


「そうですね、お気遣い感謝いたします」


 社交ダンスなんてやった事がないから、流石に無理。と言痛いのをぐっと堪えて微笑む。ビョルンさんは肩を竦めて不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「では後ほど、お会いしよう。それまではぜひ、ごゆるりとお楽しみください」


 バジルさんは堂々とお辞儀をして、中央ホールに入るように促してくれる。私たちは二人同時に頷いて、玄関ホールをあとにした。


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