22_屈辱を叩き込め!ストレス解消肉たたき戦法
第22話です。
今回は前回のパワハラ野郎をボコボコに…とはまだできず、現代人らしくストレス発散する回です。ビョルンさんはきっと、ルナを怒らせないことを誓うでしょう
22_屈辱を叩き込め!ストレス解消肉たたき戦法
嫌なことがあったあとは、ストレス解消に限る。やはりストレスは体に毒だ。ギルドの裏手にある作業場に戻ると、市場で手に入れたアンバーボアの塩漬け肉と『夕日の果実』ことオレンジの実を丁寧にテーブルに並べた。
「とにもかくにも、腹が減っては仕事はできぬ!…ということで晩御飯にしましょう、ビョルンさん」
ビョルンさんは先程の険しい顔のまま、どっかりと椅子に座りこんだ。やっぱり今日は魔法を使いっぱなしで疲れてしまったようだ。今、私がしなければならない仕事は彼を精一杯労ることだ。
「今から作るので、もう少し待っててくださいね。魔力補給も栄養補給もできる、美味しいご飯をご馳走します」
「食堂の飯でも不足はないが」
お腹がすいているのか、余計に不機嫌そうな顔になる。だがここは譲れない。昨日読ませてもらったビョルンさんの売上帳簿を取り出すと、ずいっと目の前にかざしてみせる。
「いいですか、ビョルンさん。負債完済のためにはまずは経費の見直しです。毎食外食だなんてしていたら直ぐに破産してしまいますよ!今日からは極力自炊しますからね!」
「食堂の飯は相場より安い」
「それでも出費は出費です。削れるところは削らないと」
「……了解した」
私の気迫に押されたビョルンさんはたじたじと答え、そっぽを向いた。
「その代わり、ポーションキャンディの売れ行きが軌道に乗ったらお祝いしましょうね」
まるで子供に言い聞かせるように話すと、ビョルンさんは拗ねたように耳を下げた。ビョルンさんの目と耳は本人よりも雄弁でとても助かる。
「さてと。まずはお肉を塩抜きして、そして…」
食堂からお借りした、私の腕ほどの大きさの肉たたき棒を取り出す。
「叩きます!それはもう、とことん、柔らかくなるまで!」
「はぁ…」
「先程の屈辱を!こいつに全部ぶつけてやります!」
ダンダンダンダン!!
コップが揺れるほど大きな音を立てながら、私は肉たたき棒で肉をしこたま叩きつけた。これは硬いお肉を柔らかくするための必要なプロセス。
決して私の憂さ晴らしのためなんかじゃないんだから!
先程の役人の顔を思い浮かべながら、肉叩き棒を肉に叩きつけた。
「チックショー!!なんなのよ、あのエロオヤジ!!ほんっとありえない!セクハラ!コンプラ違反!!それでも役人かっつーの!!」
「お、おい」
「しかもアニタさんを困らせるなんて!もうほんと、腹立つ!」
ビョルンさんがまるで叱られた犬みたいに縮こまってドン引きしているのに目もくれずに、私は肉を叩く。随分と肉が柔らかくなったところで手を止めて、ふうと一息ついた。
「これでよし。柔らかくしたお肉を焼いていきましょう。…あれ、どうかしましたか?ビョルンさん」
「お前を怒らせるのは、避けるべきリスクだということはよく分かった」
「何言ってるんですか。ビョルンさんには怒るわけないでしょ」
「…そうか」
ビョルンさんはどこか遠くを見ているような目で、そう答えた。
「では肉を焼いていきます。お皿を出して待っていてくれますか?」
「了解した」
フライパンに木の実の油を引いて、じっくりと肉を焼いていく。ある程度肉に火が通ったら、絞っておいた果実のジュースと臭み消し用のハーブを入れて煮込む。オレンジの甘酸っぱい香りが、作業場を満たした。
「よし」
「完成か?」
「いえ、まだですよ。今から味を整えていきます」
後ろから期待するように覗き込んできたビョルンさんは、どこか残念そうに椅子に座り直した。
味見用の小皿にソースを掬って、ひとくち舐めてみる。塩漬け肉のおかげで塩味が出ているけれど、まだ深みが足りない。そういえばこの世界には蜂蜜があったよな?と、作業場の棚を見るとちょうどよく蜂蜜壺が目に止まった。
「ビョルンさん、蜂蜜を小さじ一杯分使っても?」
「好きにしろ」
「ありがとうございます」
蜂蜜は色の濃い黄金色で、トロリと美しく垂れる。これならよりコクのあるソースができそうだ。フライパンにひとさじ垂らし、塩で味を整えたあと、またひと煮立ちさせる。ようやく肉に火が通って、オレンジ色のスープがとろみを増してつやつやと光り始めた。
「お肉が柔らかくなるまで煮えたら皿にあげて、ソースを掛けて…」
『黒の炸裂丸』(黒胡椒)をパラパラとふりかける。
「仕上げにハーブを添えて…『アンバーボアと夕日の果実ジュースのさっぱり煮込み』の完成です。さぁ、めしあがれ!」
ビョルンさんの前に、豪快に煮込まれた肉と、果実の色鮮やかなソースが絡む料理を置いた。そして食堂で安く譲ってもらった黒パンを添える。食物繊維も大切な栄養源、一緒に取ってもらうことでより満足感のある食事になるはずだ。
「…いただきます」
ビョルンさん両手を合わせたあと、冷静さを装いながらもすぐにフォークを手に取った。そして大きな口を開けて、ひとくち。
「お味はどうですか?」
「…」
ビョルンさんは無言で肉を一口、そして二口と口に運ぶ。そのフォークを持つ手が止まらないのを見るに、お口には合ったようだ。
「……悪くはない」
ビョルンさんは目を皿に向けたまま、ボソリと呟いた。
「塩気の強い肉に、果実の酸味と蜂蜜の糖分。体力と魔力の回復効果を感じる」
彼は味ではなく、あくまで栄養計算の結果として評価した。そんな素直じゃない様子にクスリと笑う。
「ふふ、良かったです。じゃあビョルンさん、食後もポーションキャンディの仕込み、手伝ってもらいますからね」
「…さらなるエネルギー補給を要求する」
「はいはい、おかわりですね」
彼はそう言うと、空になった皿をこちらに差し出してくる。私はやれやれと笑うと、ひときわ大きなお肉をビョルンさんの皿に置いた。
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※次回更新は1月23日18時です




