19_爆裂ポーションキャンディ
第19話です。
『美味しいポーションを作ろう!』の回です。
ルナは昔からファンタジーものを読む時に『ポーションってどんな味なんだろう』と夢を膨らませている子供だったと思います。
19_爆裂ポーションキャンディ
私とビョルンさんが『ビジネスパートナー』としての契約を交わして三日後の早朝。
ドォンッ!!
ギルド裏の作業場に、鈍い破裂音が響いた。同時に、鍋から噴き出した緑色の煙が充満し、周囲には甘ったるい樹蜜と薬草の混じった、ねっとりとした液体が飛び散る。
「うぇげっほごほごほ!」
ビョルンさんと二人で甘い香りに噎せて咳き込む。ポーションまみれでベタベタになった前髪を振り払い、顔を顰めた。鑑定グラスにも樹蜜がこびりつき、視界が滲む。
全身をベタベタの液体に覆われながら、ルナは小さくため息をついた。隣に立っていたビョルンさんも、エルフの長い髪の先から緑色の液体を滴らせている。
「やはり、樹蜜の扱いは困難か」
ビョルンさんは冷めた口調で言ったが、彼の眉間に刻まれた深い皺は、内心の苛立ちと焦りを物語っていた。彼のポーション改良への意欲は、私と同じくらい強いことを感じられるのは、素直に嬉しいと感じた。しかしながら状況は芳しくない。
「ポーション原液に樹蜜を加えて再加熱すると、急激に発泡するようだ」
「加熱によって、なにか成分が変化するんでしょうか…?」
文献を読み漁ったり、鑑定グラスを駆使したけれど私のスキルでは有益な情報は得られなかった。完全な手詰まりで、「飲みやすいポーション作り」そのものが暗礁に乗り上げているのは明白で、二人とも焦りを露わにしている。
「このままじゃポーションの売上をあげることは難しい。効果があるものを燻らせておくなんて、多大な損失です」
汚れた鑑定グラスを拭いながら、ふと作業場の火に目をやった。火力は一定ではなく、風に吹かれてゆらゆらと不安定に揺らぎ続けている。髪にくっついたポーションは固まってしまい、パリパリに碎ける。
破片を摘んでパキッと噛み砕いてみると、樹蜜の甘さとハーブの香りが広がってまるでミントキャンディのような味わいになった。
「味は悪くないのになぁ」
昔縁日の屋台で見た飴細工を思い出す。職人がバーナーで炙り柔らかくした飴を器用に金魚や花の形にする、まるで芸術作品のような飴細工。
あれ、小さい頃に欲しくてたまらなかったんだよなぁ。
『どうせ食うんだから、見た目なんてどうでもいい』
なんて言って祖母には買ってもらえなかったけど、こっそり祖父が買ってくれたんだっけな。
「飴細工…」
「なに?」
「もしかして火加減にヒントがあるとか」
「火加減だと?」
「はい。この樹蜜と薬液の反応は非常に繊細です。少しでも温度が上がりすぎると爆発する。逆に火力が弱すぎると固形化が進む。つまり、この作業には一定温度での加熱が絶対条件なのではないでしょうか」
ビョルンさんを見上げて、ある提案をしてみる。
「ビョルンさんって、火魔法も使えます?」
ビョルンはルナの問いに答えず、右手を前に突き出した。
「問答無用」
彼の掌の上には、周囲の薬草を焦がしそうなほど鮮やかな真紅の火の玉が出現した。その火の玉は、ビョルンさんの繊細な魔力制御によって、大きさも熱量も完璧に固定されているように見えた。
「おぉ、さすが!」
感嘆の息を漏らすと、当然だというように得意げに鼻を鳴らした。
「じゃあ炎を同じ温度でキープすることは可能ですか?」
「論理的に可能だ。だが、魔力の消費は大きい」
ビョルンさんは一度火の玉を消し、静かに答えた。
「なるほど。では今日の晩御飯は栄養満点のものをご用意します。それなら可能ですか」
「…いいだろう」
ここで諦めるなんて絶対に嫌だ。私は私に出来ることを全力でこなそう、だからどうかビョルンさんも頑張って欲しい、という思いを込めて頭を下げる。するとビョルンさんは真剣な眼差しで頷いてくれた。
「よし、ではお願いします!」
「効率的ではないが、いいんだな」
「成功すれば、このポーションは誰にも真似できない付加価値を持つことになります」
ビョルンさんは溜息をついたが、彼の顔にはすでに挑戦者の表情が戻っていた。彼は新たな薬液の入った鍋の前に立ち、その右手から再び赤い炎を灯す。
「その炎をもう少し絞れますか」
「こうか」
「もう少し…あ、そこ!」
「了解した」
ビョルンさんはこちらの指示に従い、炎を細く、しかし熱量を保ったまま制御する。その集中力は凄まじい。
細く搾った炎はバーナーのように勢いよく燃え上がる。慌ててビーカーを炎にかざし、少しずつ慎重に樹液を加えていく。緑色が徐々に若葉色に変わり始め、水泡が浮かぶ。ビョルンの完璧な火加減のおかげで、一度も発泡することなく薬液は煮詰まっていった。
「今だ…!」
火からポーションを放すと、ポーションは淡く若葉色に光ったまま粘度の高い液体状に保たれていた。
「爆発、しない…!」
「だがこの粘度の高さでは飲み下すことも難しそうだ」
「確かに。…あ!少しだけそのまま待っててください!食堂にアレがないか聞いてきます!」
「おい、待て、このままだと…!?」
「そのまま温度をキープしていてください!」
「クソ…!」
ビョルンさんは悪態をつきながらも、さっさとしろと顎をしゃくった。私は大慌てで食堂に一目散に走った。
「ビョルンさん、戻りました!」
食堂からお借りしてきたのは銅製の金型。焼き菓子用の正方形の小さなキューブの形をしたものを拝借してきた。熱したポーションを流し込んで、再度ビョルンさんにお願いをする。
「風魔法で乾燥させて貰えますか?」
「まったく、人使いの荒い……」
ビョルンさんは魔法でささやかな風を起こして、爆発させないよう慎重にポーションの温度を下げていく。そしてついに、ポーションは金型の中で固まり、淡い萌黄色にキラキラと光っていた。
「やりましたよ、ビョルンさん。これこそ新しいポーションです」
ルナは金型から固形物を取り出す。その表面は光沢を帯び、見た目も美しい。ビョルンさんは珍しく肩で息をしながら、怪訝な顔でそのポーションを見つめた。
「これがポーションだと?」
「えぇ、そうです。『ステータス鑑定』!」
鑑定グラスをかけて、完成品を覗き込む。
「『ポーションキャンディ』。効能:疲労回復。鑑定結果は……樹蜜によって吸収効率が上がっています。一粒で瓶の三分の一の効果が出そうです」
「効果は上々か」
「はい。残る課題は…味と食感ですね」
二人で目を見合せて、ゴクリと喉を鳴らす。そして二人同時にポーションキャンディを摘んで。
「いざ、実食!」
ルナとビョルンはポーションキャンディを口に放り込んだ。
「「うっ……!!」」
二人同時に呻く。
「ビョルンさん、これは…」
「…あぁ」
「「悪くない」」
ビョルンさんの先の言葉を見越して被せると、彼はバツが悪そうにそっぽを向いた。そう、本当にこのキャンディ、悪くない味なのだ。
少し辛めのミントキャンディのような爽快感と、ハーブのような爽やかな苦味、そして最後に舌に残るのは樹蜜のほのかな甘み。そのキャンディを例えるならハーブ系の『のど飴』だろう。
こうして私たち共同開発の商品、ポーションキャンディの完成したのだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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※次回更新は1月20日18時です




