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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
07_漁業都市(ポルタ・サレ)編

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153_晩餐と本音

 アールさんが最後に用意してくれたデートプランは、展望台の近くに立つ、高級そうなレストランだった。身なりのいい紳士淑女に囲まれて緊張していたの(つか)の間。アールさんの軽快(けいかい)なトークで緊張もほぐれて、私達は絶品の晩餐(ばんさん)舌鼓(したづつみ)を打った。


「んん……! この白身魚のカルパッチョ、最高に美味しいです。白身がぷりっぷりで、でもアッサリしていて果実酒にも合いますね!」


 私は好物の魚料理を食べてご機嫌だった。肉厚だけど淡白な身に、特性のソースが絡んで本当に美味しい。あっさりした味わいだけど、満足感がある。 


「ルナさんは、魚がお好きなんですか?」


「はい。祖父もよく魚とお酒で晩酌をしていました。私が一度お酌をしたときなんて、感激して泣いちゃって」


 遠い昔の記憶だ。幼い頃、祖母を真似(まね)て祖父に酒をついであげたことがある。感動屋の祖父は何故か涙ぐんで、『お嫁に出したくない』なんて言ってたっけ。 


「……って、こんな話つまらないですよね。すみません」


「とんでもない! ルナさんのご家族や故郷の話、とても興味がありますよ。続けてください」


 アールさんは気を悪くするどころか、興味深そうに話の続きを促してくれた。お酒も相まってか、口が軽くなる。私はビョルンさんにもまだ話していなかった、故郷の話を口にした。もちろん、異世界であることは伏せて遠くの国だと言っているけれど。 


 アールさんは、私のどんな話題にも興味深そうに相槌を打ってくれる。でも私だって、アールさんの話に興味があるから話を聞きたい。 


「アールさんのお店には、どんな魔法道具があるんですか?」


「火や水を出す魔法、風を起こす魔法を付呪(ふじゅ)した魔法道具が重宝(ちょうほう)されますね。他にも、ゴーレムを召喚(しょうかん)する魔法なんかもありますよ」


「ゴーレムって?」


機械人形(オートマタ)よりも簡易な自動人形ですよ。ゴーレムに知能がなく使いどころが限られると言われますが、そんなことはありません。子供の遊び相手だってできるんですよ」


「ふふっ、楽しそう! その光景、見てみたいかも」


「えぇ、もちろん。なんでもお見せしますよ!」


 そんな風にお互いの話をしていると、いつの間にか三本のボトルが空になっていた。さっぱりした果実の酸味ののどこしがクセになって、グイグイと進んでしまう。今日はお休みだしいいよね、なんて心の中で思いながら最後の一滴を飲み干した。


 


 デザートとして提供されたのは、色鮮やかなフルーツのタルトだった。甘くてとろけるようなカスタードに、甘酸っぱい果実が口の中で弾ける。そんな甘味に脳まで(とろ)けてしまって、私は思わず本音を()らした。


「今日は本当に楽しかったです。ビョルンさんとは、こういう観光名所に行ったことなくて」


「そうなんですか? お二人はとても良い関係に見えましたけれど」


 グラスをくるくると揺らしながら、アールさんが優しく問いかける。その目はどこか不安げで、怯えているようにも見える。私は安心させるように微笑(ほほえ)んだ。

 

「彼は恩人で、ビジネスパートナーですよ」


 そう、ビジネスパートナー。私がこの世界で生き抜くための唯一の手段。彼なしでは、きっと私はこの世界で生き残ることができなかっただろう。


「彼と一緒にポーションを売り歩くのが、私の仕事なんです」


 アールさんは私の言葉に頷いて、視線を落とした。何かを言いたげな、迷うような表情。私が(うなず)いて促すと、言葉を選びながら(つむ)いだ。


 「それは、その……本当にルナさんのやりたいこと、なんですか?」


「え?」


率直(そっちょく)に言うと、あなたのことを心配しているんです」


 思いもよらなかったアールさんの言葉に、私は驚きの声を漏らしてしまう。私の表情を見て、不安げにアールさんは話を続けた。

 

「昔……僕がまだ駆け出しだった頃の話なんですが。僕にもビジネスパートナーがいたんです」


『いた』という過去形を使うということは、今はもういないということ。それはきっと、良い理由ではないことが予想できた。


「彼のことは兄のように慕っていました。(あこが)れで、追いつきたくて。港でがむしゃらに働いて、ようやく店を出せるくらいの資金を稼ぐことができたんです」


 アールさんは一度深く息を吐いて、悲しげにぽつりと言い放つ。


「事業が軌道に乗った頃、突然彼は姿を消したんです。僕たちが稼いだ資金を全て持って。あとから知った話ですが、当時の恋人と駆け落ちしたそうです」


「そんな……」


「僕は無一文(むいちもん)になり、ホームレスになりました。そこから()い上がるまで、五年以上はかかったんですよ」


 あまりにも悲痛な表情に、私は言葉を失った。アールさんは悲しげに、しかし無理に口角をあげて言う。


「そのおかげで今の僕があるんです。今となっては、感謝していますよ」


 アールさんの顔が痛々しくて、胸が詰まる。私は食べかけの皿に視線を落として、カトラリーを置いた。アールさんの心の傷は()せないけれど、話を聞くことはできる。私はアールさんのチョコレートブラウンの瞳を見つめた。 


 「あなたには、同じ目にあってほしくないんです。彼は、本当に信頼に足る人物なのですか?」


 アールさんは、ビョルンさんに不信感を抱いているというのは薄々勘づいていた。流浪(るろう)の商人になる女は少ない。なにか事情があるのだろうと、心配してくれているんだろう。だけど、その心配は無用だ。私は首を振って否定する。 


「ビョルンさんは、そんなことしませんよ」


「なぜ、彼でないといけないのですか?」


 予想以上に食い下がってくるアールさん。その真剣な眼差しに触発(しょくはつ)されて、心の奥に()まっていた不安が、言葉になって溢れ出す。


 「ビョルンさんの、その、負債を……一緒に返すって、約束したからなんです」


「負債? いくらです?」


「あと、金貨八千九百枚だったかと」


 「そんな大金を!?」


 アールさんは驚きで声を裏返らせた。周囲の視線が集まってしまい、咳払いで誤魔化す。


 「何か事情があるんだと思います」


「それはそうでしょうけれど……まさか、ビョルンさんはその理由すら話していないんですか?」


 正直なところ、アールさんの心配が痛い。その言葉があまりにも柔らかいところを突き刺すから、反論の言葉がうまく出てこなかった。 


「あの人は、何も話してくれないんです。ユフィリアさんのことも……」


「ユフィリア?」


 「オーク族の里にいる、ビョルンさんの大切な人です」


「大切な人、というのは……恋慕の情、ということですか?」


 アールさんの言葉に頷く。居心地が悪くて、机の上に置いた手を握りしめた。 


 「たぶん。だって二人とも、お互いが大切だって……そういう雰囲気だったし」


 ビョルンさんは、ユフィリアさんが好きなんだと思う。言葉に出さないけれど、あんなに必死になるのは並々ならない思い入れがあるからだろう。


 「私はただのビジネスパートナーだから。何も話してもらえない。何も、知らない」


 俯いて下唇を噛み、震える声を押し殺す。 


「そうでしたか……それはとても、寂しかったですね、ルナさん」


 アールの手が、そっと私の手に重なる。その手の冷たさが、まるで魔法のように私の傷を()やしていく。それと同時に、先程までは感じなかった気怠(けだる)い眠気が足元から()い上がってきた。


「そっか……私、寂しかったんだ」


 ぽつり、と自然にこぼれた言葉。それは紛れもなく私の本音だった。そう、さびしかった。ビョルンさんに置いていかれてしまうようで、自分の居場所が無くなってしまうようで。


 「今日はもう、休んだ方がいい。おやすみなさい、ルナさん」


 アールさんの言葉が、まるで子守唄みたいに柔らかく頭に響きわたる。(うなが)されるまま、微睡(まどろ)みの中に意識を手放そうとした、その時。


「ギャウン!」


 ミニベロスの()える声が聞こえて、一気に意識が覚醒した。ミニベロスは私の膝に一直線に飛んできて、甘えるようにじゃれついてくる。


「クロ、シロ、ブチ! なんでこんな所に!?」 


「きゃうワンワン!」


 そしてまるで私を守るように、アールさんに威嚇をした。アールさんは驚いたように、しかし余裕を崩さない表情でやれやれと首を振った。


「ルナさんの番犬は優秀ですね。こんな所にまで来てしまうなんて」


 アールさんの視線の先には、ビョルンさんが立っていた。いつもの気だるげな歩き方ではなく、はっきりとした足取りでこちらに向かってくる。


「ルナ」


「ビョルンさ……」


「帰るぞ」 


「えっ? え、ちょっ……!?」


 ビョルンさんは私の傍までくると、ひょいと軽々しく抱えあげた。しかしいつもの俵担(たわらかつ)ぎではなく、お姫様抱っこの状態。


「ビョルンさんっ!? ちょっと、下ろして!?」


「待ってください、ビョルンさん」


 アールさんが慌ててビョルンさんの前に立って、退路を塞ぐ。驚きと焦りの表情を浮かべて、アールさんはビョルンさんを見上げた。対するビョルンさんは絶対零度(ぜったいれいど)のライムグリーンで静かにアールさんを見下ろしていた。


「ルナは俺のものだ。貴様のような小僧には渡さん」


「えっ」


今、この人なんて言った?

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