15_憧れの魔法道具とコンビ結成最初の朝
第15話です。
いよいよ商業都市ルーンデールでの2人の生活が始まります。これからの2人の旅を見守っていただけると幸いです。
15_憧れの魔法道具とコンビ結成最初の朝
夜が明けると、体調は驚くほど回復していた。ギルドのポーションが優秀というだけでなく、ビョルンさんとの和解が精神的な疲労を吹き飛ばしてくれたのだろう。
「今日は資源調達のために森に行く。お前も、養生のために少し動いた方がいい」
「そうですね。すぐに準備します」
「早くしろ」
ビョルンさんはぶっきらぼうに言いながらも、部屋の入口で待っていてくれた。
部屋を出て中央カウンターに向かうと、アニタさんが帳簿から顔を上げて顔を輝かせて話しかけてくれる。
「おや。もう行くのかい、ルナ」
「アニタさん!おかげさまで、もうすっかり元気です」
「よかったよかった。やっぱりあんたは元気な顔が一番だよ」
お礼を言って頭を下げると、アニタさんは心底安心したように笑ってくれた。それだけで、どれ程の心配をかけてしまったのかがよく分かる。いずれ必ず、このお礼はしなければならないと固く決意した。
ふと、アニタさんはなにかに気付いたように立ち上がり、カウンターの後ろにある引き出しを開けて何かを探し始めた。
「あんたに渡さなきゃならないものがあったんだよ。どこに入れちまったかね…っと、あったあった」
ようやく探しものを見つけたアニタさんは、優しく笑いながらひとつの木箱を差し出した。
「これは…?」
「あんた、鑑定スキルは平均並みなんだろ?じゃあこいつを使えるはずさ」
木箱を開けるとちょうど私が掛けているような眼鏡が入っていて、それは時折アニタさんや商人たちが掛けていたものと同じであると直感した。デザインはアニタさんのものよりも少し細めのフレームで、艶やかなレンズは窓からの朝日をキラキラと反射している。
「『鑑定グラス』っていう、あたしら商人には欠かせない魔法道具さ。物の価値や効能をざっと見るには便利だよ」
「えぇっ!?魔法道具だなんて、そんな高級そうなものを頂く訳にはいきませんよ」
「稼ぎ頭への先行投資だよ。貰っておくれ」
アニタはウィンクし、『ただし、壊したらただじゃおかないよ』と茶目っ気たっぷりに付け加えた。手のひらの中に魔法道具があると言うだけでも興奮するのに、アニタさんの優しさでさらに胸が熱くなる。
「アニタさん、ありがとうございます。大事に使わせていただきます!」
思わずアニタさんに駆け寄って、全力でハグをした。
「よしよし、その調子で頑張っておいで」
アニタさんは優しく包むように抱きしめて、大きな手で頭を撫でてくれた。彼女の優しさや期待に応えられるよう、全力を尽くそう。頂いた魔法道具、もとい鑑定グラスを掛けて、ビョルンさんが待つ玄関に走った。鑑定グラス越しに見る世界は、なんだかキラキラと輝いて見えた。
「お待たせしました、ビョルンさん。資材調達に参りましょう」
ビョルンさんは魔法道具を見て驚いたように目を丸めた。
「似合いませんかね?」
「…いや」
彼は耳を少し下げて、短く答えた。そのぶっきらぼうな言葉の割に、視線が僅かに泳いでいる。
メガネを新調したせいか、距離感がまだ少し掴めない。ビョルンさんとの立ち位置だってさっきよりも近く思えてしまう。見上げると少しだけ近くなったライムグリーンが戸惑ったように揺れる。もしかしてプライベートゾーンを侵害してしまっただろうか、と後ずさると彼はガシガシと頭をかき混ぜて、これまたぶっきらぼうに言い放った。
「慣れない魔法道具で歩き回るのなら、足元に気をつけろ。傷をつけたら負債が増えるということを忘れるな」
「わかりました」
頷きながらも、内心は浮かれていた。だって、物語で読んだ魔法道具が今手の中にあるのだから!
「魔法道具って、他にどんなものがあるんですか?」
「色々だ」
「たとえば?どれくらいの価格帯で、どのような人が使うんですか?」
私の質問攻めに、ビョルンさんは面倒くさそうにため息をつく。
「仕事に集中しろ」
「集中はしてます。けど、これは聞き捨てならない情報ですよ。負債を完済するためにも、効率化できるところは効率化しないと」
「今は考えなくて良いと言ってるんだ」
せっかく有益な情報を聞けたのに、今のビョルンさんは教えてくれる気分ではないようだ。いずれ気が向いてくれるだろうか。ムスッと頬をふくらませてみせると、ビョルンさんは呆れたように腕を組んでため息をついた。
「今度見せに連れて行ってやるから我慢しろ」
「本当ですか?男に二言はナシですよ」
「わかった、わかった」
肩を竦めて言うビョルンさんの腕を引っ張ると、鬱陶しそうに振り払われた。しかしその耳は困ったようにヒクヒク揺れている。
「あっははは!あんたら、結構いいコンビじゃないか」
私たちのやり取りを見ていたアニタさんは豪快に笑って、ビョルンさんの肩をバシンバシンと遠慮なく叩いていた。相変わらず痛そうだが、ビョルンさんは何も言わずに耐えている。やっぱりアニタさんには頭が上がらないようだ。
「さ、気をつけて行っておいで」
「はい!いってきます、アニタさん」
アニタさんは陽気な笑顔で手を振って、送り出してくれた。
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※次回更新は1月15日18時です




