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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
07_漁業都市(ポルタ・サレ)編

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133/157

133_ポーションが不味いなんて誰が決めた?

 そして翌日の日の出前。私は港で海風に晒されながらポーションの仕込みをしていた。ミニベロスはまだ眠いのか、足元でくうくう寝息を立てている。


 まだ日が昇っていない港町の潮風は冷たくて、手先が震えた。それでもマントを引き寄せ火で暖を取りながら、露店の準備をしはじめる。お客様が来る前に、ポーションを完成させなければならないのだから。

 

「海藻と小魚のポーションなど聞いたこともないが」

 

「薬草や虫を煮出すのがポーションなら、これもポーションですよ。あ、ほらビョルンさん。火加減に気をつけてください。沸騰させちゃダメですからね」


 朝市で見つけた小魚と海藻(鑑定グラスで見ると、どうやらこの世界のコンブらしい)をビョルンさんの風魔法で乾燥させて、大鍋で煮込んで出汁を取る。乾燥させたばかりのものを煮詰める私を、ビョルンさんは信じられないものを見るような目で見てきた。気にしない、気にしない。


「このポーションの効果は」


「飲んでみたら分かります。はい、お味見どうぞ」


 私は小魚と海藻のポーション、もとい『お出汁』をひとさじ掬ってビョルンさんに差し出した。透明感のある薄い黄金色のそれを、ビョルンさんは一口で飲み下した。


「熱い」  


「でしょうね。冷まさずに一気に飲んじゃうなんて」


 水筒を差し出してあげると、ビョルンさんは不機嫌そうな顔で受け取ってくれた。


「あったまるでしょ?」


「……まぁ」

 

 このお出汁ポーションは、せっかちで食いしん坊なエルフの口にはあったようだ。とにかく第一関門は抜けたようなので安心する。


「漁師たちが興味を示せばいいが」 


 ビョルンさんの言葉の通り、あとはお客様の反応を見るだけ。私は気合いを入れて、ポーションを詰めるための瓶をテーブルに並べ始めたのだった。  


 

「おう、姉ちゃん! 早速やっとるかぁ!」

 

「おはようございます、バルデーニさん。早朝からお疲れ様です!」


 空がうす明るくなり始めた頃、漁に出る漁師の人達が港に集まってきた。と、そこで私たちの露店から漂う香しい香りにつられて視線を向ける。


「で? 何を売っとるんだ?」


「こちら寝起きに優しく、目がシャッキリ冴えて体が温まる『覚醒と保温のポーション』です!」


 私は小さな瓶に一口分を注いで、バルデーニさんに差し出した。バルデーニさんはホカホカと白い湯気をあげている出汁……もとい、ポーションを眺める。まずは匂いを嗅いで、無毒であることを確認していた。 

 

「こんないい匂いがするのがポーションだって? ポーションっていやぁ、あの不味くてドロっとしたやつだろ」

 

「いえいえ、我々が売るポーションはおいしくて効果も高いものなんですよ。こちらは身体を温める効果と目を覚ます効果、そして体力向上の効果があるポーションです」


「ほぉ。目が覚める上に、体力もつくってのか。面白いじゃねぇの」


 バルデーニさんはもう一度匂いを嗅いだあと、ぐいっと豪快に飲み干した。私とビョルンさんも、周囲の漁師たちも固唾を飲んで、バルデーニさんの反応を待つ。


 しばしの沈黙の後、バルデーニさんは水平線を静かに見つめる。そして。 

 

「……うん」


 ほうっと暖かい息を吐いた。普段の豪快さが嘘のようになりを潜めた穏やかな姿に、漁師たちの目はくぎづけだ。

  

「こんなポーションは初めて飲んだぜ。味が濃いわけじゃねェのに、魚と藻の風味が広がって身体中がポカポカしてきやがる……うむ、こいつはうめぇ! 一杯いくらだ?」


 バルデーニさんはそう言って、大きな口をめいっぱいに開げた笑顔を見せてくれる。私はそのにこやかな笑顔に、ほっと胸を撫で下ろした。自分のアイディアが誰かに認められた瞬間は、何度味わっても心地よい。 


「ポーションなのでお値段は少し張ります。ただお好みに合わせたサイズを取り揃えておりまして、ハーフサイズで銅貨五枚、普通サイズで銀貨一枚でご提供できます」


 私は堂々と言うと、大きな瓶と小ぶりな瓶を見せた。大きい方が当然効果的ではあるが、ポーションという商品の都合上、どうしても銀貨一枚以上が相場だ。しかし手軽さを重視して、ハーフサイズも用意しようと思いついたのは、意外なことにビョルンさんだった。 

 

「ポーションなのに安いじゃねぇか。普通の方を二杯くれ!」

 

 バルデーニさんが機嫌よくポーションを飲む様子を遠巻きに見ていた漁師たちは、値段を聞いてわらわらと集まってきた。

 

「姉ちゃん、俺にもくれ!」

 

「俺も、普通サイズの方を頼む!」


 それからは大忙しだった。朝から騒いでいる漁師達につられて、釣り人ギルドの職員や職人たちも集まってポーションを買ってくれた。私は合計金額を計算する間もなく、代金とポーション瓶を交換する作業に勤しむ。そうして太陽が水平線から顔をのぞかせた頃に、漁師たちは海に出ていった。 


「ありがとよ、姉ちゃん! これで良い仕事ができそうだ!」


 その声は威勢が良く、活気に満ちていた。今から苛酷な漁をする人達を元気づけることができていたのなら、これ以上に嬉しいことはない。私は大きく手を振り、港から出ていく船を見送った。

  

「気をつけて行ってきてくださいねー!」


 くあ、と大きな口で欠伸をするビョルンさん。早朝に叩き起され、たくさん魔法を使ってもらったので疲れてしまったのだろう。

 

「お疲れ様でした、ビョルンさん。お昼までは少し休憩にしましょうか」


 私は大きく伸びをしてビョルンさんの隣に座る。波打ち際から大きく波が揺れる音がする。その穏やかな音に耳を済ませると、ウトウトと眠気が這いよってきた。


「……あぁ、ダメダメ。まだやらなきゃいけないこと、あるのに」


 ビョルンさんがこちらを見て、コツンと私の頭を叩く。この街に来てから、少しビョルンさんからのアクションが増えた気がする。もちろん。素直じゃ無いのは変わらないけれど。


「適宜休息は必要だ。少し休め」 


「うぅん、じゃあちょっとだけ」


 ビョルンさんの肩を枕がわりに、私は静かに目を閉じる。なんだか太陽に照らされた麦畑にいるような落ち着く香りに包まれながら、私は微睡みに意識を手放すのであった。 

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