105_縮まる距離、縮まらない距離
第105話です。
ルナは髪が長いので、色々アレンジできそうです。オーク族の主流な髪型はドレッドヘアや編み込みだろうなと予想しています。
「そういえば、ビョルンさんどこに行ったんだろ?」
ビョルンさんの姿を探すと、広場の真ん中で若者たちに囲まれて剣術の授業をしていた。彼は男の子に剣を握らせ、振り方を教えている。
「違う、もっと腰を落とせ」
「うーん、こう?」
「そうだ。そのまま振ってみろ」
男の子は言われるままに剣を振る。私は剣術に明るくないけれど、勢いがあってとても綺麗なフォームであることは分かる。
「よくやった」
ビョルンさんは穏やかに微笑むと、男の子の頭を優しく撫でていた。男の子もその大きな手を嬉しそうに受け入れていて、ビョルンさんがどれほど好かれているのかよく表しているようだった。
「それにしても……」
オークにここまで馴染むエルフがいるものなのか。
ファンタジー世界のオークという種族は大抵邪悪な顔をしていて、敵役として恐れられていた。だからこの世界のオーク族もきっとそうなのだろうと、勝手に判断していた。
でも今私の目の前にいるのは、のどかで穏やかな日常風景だ。
自分の先入観を改めなければならない。自分がこんなにも情けなくて偏見に満ちた人間だったなんて、恥ずかしくて穴があったら入りたい。
「るな、るな」
男の子が私のお団子に興味を持ったみたいで、解いてしまった。
「あらら、ほどけちゃった」
「むすんであげる!」
ちいさな女の子たちがわらわらとあつまって、あっという間に私の髪の毛を編み込んでくれた。しかも可愛らしいお花まで添えて。
「ビョルンおじちゃん、みてみてー!」
女の子がビョルンさんに手を振って、名前を呼ぶ。ビョルンさんはそれまで握っていた木刀を隣の若い戦士に託すと、こちらに歩いてきて女の子の頭を撫でる。
「どうした」
「ルナ、かわいいの」
「ちょ……!? わぁっ!?」
女の子たちが私のベストを引っ張って、ビョルンさんの前に押し出してしまった。バランスを崩して女の子たちを潰してしまいそうで怖い。ビョルンさんに助けを求めるように見上げると、ふらついた右腕を取って支えてくれた。
「えっと、すみません、ビョルンさん」
「オークが人間をここまで歓迎するのは珍しい」
それは多分、ビョルンさんがみんなに好かれているおかげだろう。
「そうなんですか?光栄ですね……」
なんだか落ちつかなくて、支えられていない左腕で三つ編みを弄る。その髪は自分のものと思えないくらい柔らかくて、可愛らしく編まれていた。
ビョルンさんは私の額に掛かった前髪をはらって、こちらを覗き込んだ。彼の長い前髪から覗くライムグリーンの瞳が、光を反射してキラキラ光るのが眩しくて、反射的に目を瞑った。
「……!」
ビクリと彼の肩が震えたのが、触れた右腕から伝わった。ビョルンさんがなにかを言おうと口を開いた、その時。
「おーい、おじさん! イチャつくならガキたちがいないところでやってよー!」
バッシュさんの大きな声が、広場に響き渡った。
「違う!」
「違います!」
私たちは同時に叫んだけれど、バッシュさんや戦士たちは優しい目でこちらを見つめていた。
「違うかなぁ?」
「絶対そうだって」
楽しげに揶揄うような声が聞こえて、ビョルンさんの手がパッ! と放される。と、同時に私はバランスを崩してズッコケた。
「ちょっとぉ!」
「良いだろう。お前たち、久々に剣の相手をしてやる」
ビョルンさんは地面に転がった私を一瞥すらせずに、颯爽と戦士たちの輪に戻っていった。
「るな、だいじょーぶ?」
女の子たちが駆け寄ってきて、私を助け起こしてくれた。その柔らかい手のひらはあたたかくて、優しい。まったく、転がったビジネスパートナーを放置して立ち去るなんて、あの不器用なエルフはなんて冷たいのか!
「みんな、ありがとう」
女の子たちを抱きしめながら、私は心に決めた。これまであった偏見を全て捨ててしまおう。この目の前にいる人達を、大切にしよう、と。
そしてあのエルフは後でぶん殴る!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
画面下より☆の評価、感想、レビュー、リアクションなど、ポチっとお気軽にいただけると嬉しいです!いつもしてくださる方、本当にありがとうございます。励みになります。
※次回第106話『オーク族の宴』の更新は3月21日18時です




