103_放浪息子の帰還
第103話です。
この世界のオークは、狩猟民族のような暮らしをしているのだろうと思っております。
バッシュさんが遠吠えのような声を上げると、集落ののあちこちから『なんだなんだ!?』と山のような巨漢たちが続々と集まってきた。大きくて怖い、けど、みんな優しい顔でビョルンさんを見下ろしている。
「おい、本当に ビョルンが帰ってきたのか!」
「しばらく見ない間に一段と細くなりやがって!」
驚愕する私を他所に、ビョルンさんはオーク族の男たちに揉みくちゃにされていた。
ある者は彼の背中を木が折れるような音を立てて叩き、ある者は彼の長い髪をワシワシと弄り回す。
「おい、ビョルン! 腹は減ってるか? ちょうどジャイアントボアの丸焼きが出来たところだぞ!」
「人間の村じゃこんな美味いもんは食えねえだろ? ガハハハ!」
普段のビョルンさんなら指を触れるだけで怒りそうなのに、今は気恥しいような、困ったような顔で全て受け入れていた。
そこへ、一際巨大で体中に歴戦の傷跡を持つ老オークが、重厚な足音を立てて現れた。
「騒がしいぞ、野郎ども」
「族長!」
道が割れ、老オークがビョルンの前に立つ。ビョルンさんが静かにオークの前に膝をついて頭を下げたので、私もそれに習って深々と頭を下げた。
「ガロール族長、息災そうで何よりだ」
「ふん」
族長は荒々しい鼻息を立てて、手に持っていた斧を地面に置く。その斧は地面にめり込んでいて、それがどれ程の重量であるかを物語っていた。
しばし沈黙の後、ふっと族長の口角が上がる。
「お前もなぁ、ビョルン!会いたかったぞ!」
族長はそう言うと、大きな腕でビョルンさんをこれ以上ないほど強く抱きしめた。いや、あれはプロレス技に近い気がする。ビョルンさんの背骨がミシミシと軋んでいた。
「長らく不在にして悪かった」
「構うものか!どこへ居ようと、お前が息災なのが我らの幸福よ」
その声は優しくて、まるで父親のような慈愛に満ちていた。
「ところで、そっちのチビはなんだ。お前の客か」
族長の鋭い眼光が私を射抜く。その目に怖気付くわけにはいかない、私は正当な理由でビョルンさんの隣に立っているのだから。どうか怒りを買って頭から食べられませんように!
「初めてお目にかかります、ガロール族長様。私はビョルンさんのビジネスパートナー、ルナと申します。お会いできて光栄です」
「ほう……」
ビョルンさんは族長の腕から脱出すると、乱れた服を整えながら、気恥しげに耳を下げる。
「互いの利益のため、今は共に旅をしている」
その瞬間、誰かがフッと息を漏らした。そして。
「「「ガハハハハハ!!」」」
オークたちの爆笑が森を揺らした。
「聞いたか! あのビョルンが、女を連れて帰りやがった!」
「めでてぇ! 今日は宴だ! 酒だ! 肉だ! ルナ、お前も食え! 遠慮すんな!」
な、なんか誤解されてない!?さっきのガールフレンドといい、この空気といい、まるで息子が彼女を連れてきたみたいなテンションじゃありません!?
「あ、あの、ビョルンさん。私、ここにいてもいいんですか?」
「無論だ」
さも当然と言うように、さらりと言うビョルンさん。
「彼らは俺の恩人であり、この村は俺の故郷に等しい。里帰りに商売仲間を招くことは、何もおかしいことではあるまい」
ビョルンさんは誰かを探すように視線を彷徨わせ、族長に尋ねる。
「ガロール、ユフィリアは息災か」
しかし、その問いかけに族長は少し顔を曇らせた。
「後で家に顔を見せてやってくれ。今は少し休んでいるんでな」
「具合が悪いのか」
族長は安心させるように、ビョルンさんの髪をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「なに。大したことじゃない。いつも通り、お前の薬を飲めばすぐに良くなる」
ユフィリア、とはおそらく女性の名前だろう。彼の口ぶりから、とても親しげな様子だった。
もしかして、ビョルンさんの恋人とか!?
ビョルンさんのそういう話はとんと聞いたことがなかったけれど、それは故郷に残した想い人がいたからなのか!?
「なんだ」
「い、いえ!なんでも!」
ビョルンさんは直立不動になってしまった私を怪訝そうに振り返るが、私は咄嗟に否定した。
私はビョルンさんのビジネスパートナー、仕事柄の関係。プライベートなことに首を突っ込む権利なんてない!引っ込んどけ、野次馬精神!
自分に言い聞かせるように首を横に振ったけれど、どこかモヤモヤした気分は晴れなかった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回も引き続きよろしくお願いいたします
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※次回第104話『ビョルンおじちゃん』更新は3月19日18時です




