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異世界にとばされた社畜OLですが、ツンデレエルフと行商ライフを満喫中です!  作者: しらたき 茶々麻呂
プロローグ編

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01_社畜、異世界召喚されました

初投稿です。

社畜OLとツンデレエルフの異世界探訪記です。

よろしくお願いいたします。


01_社畜、異世界召喚されました

「おい。生きているか、人間」

それは、私が異世界で初めて出会った、不器用エルフの第一声だった。


遡ること、わずか数時間前。

東京、都内某所の商社ビル。オフィスには、電話の無機質な音、キーボードを鳴らす規則的な音が響き、時折、社員たちの感情的な口論が轟いていた。

「この案件どうなってんの!?」

ああ、まただ。なんてオフィスに響く怒号はもう聞き飽きた。案の定、部長が頭を抱えながら私のデスクにやってきた。

「星宮さん、悪いんだけどこの企画書お願いできる?」

「かしこまりました。明日午前中の提出でよろしいでしょうか」

「助かるよ〜。ほんと、うちの部署は星宮さん頼みだわ。他の奴らにも見習ってほしいね」

「恐縮です」

今は定時の三十分前。今日もまた終電まで帰れないことを覚悟した。その前に一息つこうと思いたち、空になったマグカップとインスタントコーヒーの瓶を持って給湯室に向かった。

給湯室から同じ部署の若い女性陣の甲高い声が聞こえる。

「またうちの売上トップは星宮さんだって」

「星宮さんって、数字にがめついって噂の?」

「どうせ部長に媚び売ってんでしょ」

「部長もそうだけどさ。あの人って社長のお気に入りじゃん」

「社長ってさ、何人も愛人囲ってるって噂だよねぇ?星宮さんも愛人なのかな」

「やっだぁ!あんな陰気臭い人が?」

「ああいう人の方が意外と遊んでるんだって」

全くもって生産性のない会話に、普段よりも大きなため息が出てしまったのは仕方の無いことだと思う。私に気づいた女性社員たちは、蜘蛛の子を散らすようにそそくさとデスクに戻って行った。逃げるくらいなら言わなきゃいいのに。

私だって田舎から都会に出た時は、もっと華々しい活躍を想像していた。しかし現実は数字だけで自らの存在価値を証明しなければならない社畜生活。田舎の祖母には、自分の惨状なんて、とてもじゃないけど言えない。


終業のベルが鳴り、オフィスの空気が少し緩む。定時退社など夢のまた夢だが、それでも仕事が一区切りついたというのはささやかな達成感をもたらす。

しかし、そんな安息の時間もつかの間、営業課の責任者がドアを蹴り開けるようにして飛び込んできた。そして動揺する社員たちに視線を向けて一言言い放った。

「この会社は、今日限りで倒産します」

「…は?」

そのあとは大嵐のように大変だった。社員の怒号と失望の声、喧騒の嵐がオフィス内に吹き荒れた。社員たちは部長や管理職に向かって執拗に責めたてていた。彼らに訴えたところで倒産の事実は変わらないのに。

社員たちからの詰問に疲れた顔をした部長が私のデスクにやってきた。

「星宮さん…大変なことになったね」

「一体何があったんですか?急に倒産だなんて」

「社長、裏で多額の借金を抱えていたらしくてね。会社の金を持ち逃げしたみたいなんだよ」

「持ち逃げ……!?」

そんな倫理観が欠如した人間の元で、こき使われていたのか、私は。倒産のショックと相まって体から力が抜ける。

「これからどうするかなぁ。あぁ、嫁さんになんていえば……」

部長は頭を抱えながら、スマートフォンを取りだして電話をかけ始めた。電話の向こうから女性の金切り声が聞こえたけれど、それはもう私には関係の無いことだ。 

私の中で浮かんだ感想は『これからどうしよう』という不安よりも、『もう終電まで仕事しなくていいんだ』という安堵だったことに、特に驚きも感じなかった。

「…飲みに行こうかな」

荷物も纏めずオフィスを出て、そんなことを呟いてみた。こうなりゃヤケだ。終電まで飲んでやろう。

 

オフィス街にほど近い商店街は、湿度の高い夏の夜を吹き飛ばすように賑やかだった。大学生や会社員の帰り道でもあるこの通りには多くの居酒屋が立ち並び、私の数少ない憩いの場、馴染みの居酒屋がある。暖簾をくぐってカウンター席に着くと、とりあえず生ビールを注文した。店員はテーブルに置いた瞬間、そのジョッキに手をかける。

「ありがとうございます」

生ビールを一息に煽る。やっぱり労働の後のビールは最高だ!

女将さんは心配そうに顔をのぞき込みながら、二杯目のビールを差し出してくれた。

「どうしたの瑠奈ちゃん、そんな無理な飲み方しちゃって。もしかして失恋でもした?」

「いえ。失恋ではなく、失業しました」

「えぇっ!?あんなに頑張って働いてたのに!?」

「会社が倒産してしまいまして」

飲み干したビールは、まるで疲れを丸ごと洗い流すかのようにさっぱりと染み渡る。

「無茶したくなるのもわかるけど、身体は壊しちゃダメよ。はい、これはサービス!」

そう言って差し出されたのはサバの味噌煮。白髪ネギと生姜が添えられ、香ばしい味噌の香りが鼻に抜けた。私はウキウキしながら、鯖に箸をつけた。

 

それから浴びるほど酒を飲んでいたら、女将さんが終電の時間を教えてくれた。

「瑠奈ちゃん。落ち込んじゃダメよ、あなたならきっと次も良いお仕事見つかるからね」

「ありがとうございます」

「今日もご苦労さま。それと…これは瑠奈ちゃんにお守り!」

会計をしていた女将さんはレジ横から何かを取りだして、レシートともに手のひらに乗せてくれた。 

「バイトの子が作ってくれたステッカーなんだけどね。とっても可愛いから常連さんにも配ってるの」

ぎゅっと握られた暖かい手のひらからは、純粋な優しさを感じる。手を開くとそこには、少し鼻のひしゃげた招き猫のステッカーがこちらを見上げていた。そのなんとも気の抜けた表情に、つい笑みがこぼれてしまう。

「かわいいですね」

「でしょう?『ウチがもっと繁盛しますように』ですって」

ケラケラと楽しげに笑っていた女将さんは笑みを深めて、握ってくれた手に少し力を込めた。

「瑠奈ちゃんにもきっと、良いことがあるよ。だから頑張ってね」

女将さんの優しさが、疲れ切った私の心にじんわりと沁みわたる。私はステッカーをそっと手帳の間に挟んで、居酒屋を後にした。

 

 女将さんのお陰で胸も腹も満たされて、ぼんやりとした幸福感を抱えたまま最終電車に乗った。ガタンゴトンと音をたてる振動が心地よくて、誘われるように心地よい眠気がやってくる。眠気にさからえず目を閉じる。いつも帰っている道だから、降り過ごすなんてことは無いだろう。

このまま電車に乗ってどこか遠くに行きたい、という突発的な考えが脳裏に浮かぶ。旅行もいいな、この間ラジオで聞いた温泉旅館なんてどうだろう?そんな期待をぐるぐる考えていると、ふと故郷の山を思い出した。山に囲まれた小さな古民家で、慎ましく暮らしているであろう、祖母の姿を。

『…おかえり』

幼い頃は学校から帰ってくる度にぶっきらぼうに放たれるその言葉に萎縮していた。しかしいつもテーブルの上には毎日違うおやつが準備されていて、それが祖母なりの不器用な優しさだったと気付いたのは、皮肉なことに都会で一人暮らしをするようになってからのことだった。  


いつしか電車の音は消え、振動も止んだ。

その代わりに感じたのは頬を撫でる涼やかな風、鼓膜をくすぐる軽やかな鳥の声、草木の芳しい香り。夢にしてはやたら具体的な感覚に不思議に思う。それとも無意識に安息の地を追い求めすぎて、ついに夢にまで出てしまったのだろうか。

眠気まなこを擦って、うっすらと目を開けると世界は一変していた。私は屋外にいて、頭上からキラキラと眩い光が差し込んで瞬いていた。

え、外?

混乱している私の真上には金色の束がそよ風に揺れている。それはただの金糸ではなく、私を覗き込むように立つ男の長い髪だった。  

その男は、眩い小麦色の髪と重々しい黒のマントを風になびかせ、髪の間からは人間にはない尖った『エルフの耳』が見えた。それは決してコスプレのような人工物ではなく、この世の機能美を凝縮したような美しさを持つ耳だった。

これは、夢じゃない。直観的にそう感じた。 


そして冒頭に戻る。

「おい。生きているか、人間」

その低いテノールは夢と言うにはあまりにも生々しくて、目の前に広がる小麦色の髪は朝日を反射していてただひたすら美しかった。

しかし、見惚れたのもつかの間。腹の底から叫び声を上げた。

「ぎゃああ!しゃべったぁ!!」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回も引き続きよろしくお願いいたします

感想、レビュー、リアクションなどいただけると非常に嬉しいです。

※次回更新は1月2日18時です

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