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第2話 とりつきできるかな?(2)

 学習塾で、2人は授業を受けていた。今日の先生は、近所に住む江村だ。だが、どこか様子がおかしい。周りを見ているようだ。何を気にしているんだろうか? とても気になるな。ここ最近、江村はいつもこんな様子だ。


「どないしたん?」

「先生の様子、変やな思ぅて」


 坂上は江村の様子を見た。確かにおかしい。何かを気にしているようだ。


「えっ!?」

「回り、あんなに気にしとぅ」


 令太は心配していた。江村は、誰かに狙われているんじゃないかな?


「せやな・・・」

「怪しいわ・・・」


 2人は不安になった。だが、今は塾に集中しないと。今頑張っておかないと、後々後悔する事になるだろうから。




 塾を終えて、2人は南海なんば駅までを歩いていた。すでに日も暮れて、夜になっている。夜の難波の夜景は美しい。だが、そんなのに見とれている気になれない。早く帰らないと。2人は南海なんば駅を目指していた。


 しばらく歩くと、南海なんば駅が見えてきた。南海なんば駅は高島屋になっていて、とても美しい外観だ。高島屋のてっぺんには、地球儀のように丸い南海空港特急ラピートの広告塔が見える。令太は子供の頃、ラピートに乗って関西国際空港に行った事があるが、飛行機には乗らなかった。だが、2人は興味がない。早く南海なんば駅の改札口に向かわないと。


 2人は南海なんば駅の改札口を抜けた。目の前には様々な特急が停まっている。高野線の特急こうや、和歌山市駅までを結んでいる特急サザン、そして一番右には奇抜なデザインの特急ラピートだ。


 2人が乗ったのは次に南海本線を出発する特急サザンだ。特急とは言うものの、天下茶屋駅までは各駅に停まる。特急券を持っていない2人は後ろ4両のロングシート車に乗った。


 発車ベルが鳴り、特急サザンは南海なんば駅を出発した。2人は流れる大阪の夜景を見ている。発車してすぐ、なんばパークスが見えた。なんばパークスは、南海ホークスの本拠地として長年使われてきた大阪球場の跡地にできた商業施設だ。令太は日曜日に母と一緒に行く事がある。主にショッピングや映画目的だ。だが、令太はここに大阪球場があったという事を知らない。2階にあるホームベースなどの印も、9階にある南海ホークスメモリアルギャラリーも知らない。


 2人は天下茶屋駅に戻ってきた。外はすっかり暗くなっている。子供が1人で歩いている時間ではない。塾に向かった時間より乗客は少ない。夕方の帰宅ラッシュが終わったからだ。


「着いた!」


 2人は辺りを見渡した。達郎の車がどこなのか、探していた。2人はロータリーに停まっている黒いヴェルファイアを見つけた。達郎の車だ。達郎は黒いヴェルファイアに乗っていて、カスタムカーのイベントにしばしば参加するほどカスタマイズに力を注いでいるという。2人を見つけると、達郎は軽くクラクションを鳴らした。2人に気付いたようだ。


「あっ、おじちゃん」


 2人が近づくと、パワースライドドアが開く。運転席には達郎がいる。


「まぁ、入って入って」


 2人は車の中に入った。2人は2列目の席に座り、シートベルトを締めた。このヴェルファイアは7人乗りで、2列目がキャプテンシートになっている。


「えーっと、今日は大ちゃんとこにまず行くんやな」


 達郎は知っていた。今日は坂上の父が残業で、坂上が帰る頃に天下茶屋駅に来れなくなったと聞いている。だから今日は坂上の家に行って、坂上を降ろしてから実家に戻らなければならない。


「ほんますいません」


 達郎は車を走らせた。大きなエグゾースト音が聞こえる。だが、2人とも普通だと思っている。ヴェルファイアは天下茶屋駅を後にして、狭い路地を走っていた。この辺りは暗い。こんな中、子供が歩くのはかなり危ない。


 ヴェルファイアはまず、坂上の家に着いた。坂上の家は2階建ての普通の家だ。左側のパワースライドドアが開く。


「大ちゃん、着いたで」

「ありがとうございました」


 坂上は車を降りて、家に入った。パワースライドドアが閉まり、ヴェルファイアは実家に向かって走り出した。


 数分後、ヴェルファイアは実家に着いた。左側のパワースライドドアが開き、令太は降りた。すでにみんなは帰っている。令太は階段を上がり、2階の玄関に向かった。


「ただいまー」


 令太は家の中に入った。すると、鶴子がやって来た。令太が帰るのを待っていたようだ。


「おかえりー。おじいちゃんがとん平焼き作ったさかい、食べて」

「うん」


 令太はすぐに手を洗い、3階に上がり、ランドセルを置いてきた。まだ晩ごはんを食べていない。とてもお腹がすいたな。


 程なくして、令太がダイニングにやって来た。鶴子は晩ごはんにかけられていたフードカバーを取った。


「いただきまーす!」


 令太は晩ごはんを食べ始めた。と、そこに平吉がやって来た。令太が帰ってきたと知って、やって来たようだ。


「あっ、おじいちゃん、ありがとう」

「いっつも頑張っとる令ちゃんにごほうびや」


 平吉は笑みを浮かべた。平吉は本当に優しいな。




 食べ終わった令太はリビングで少しくつろいだ後、お風呂に入り、歯を磨いて、自分の部屋に戻った。だが、すぐに令太は消えた。お化けに変身して、外に出たのだ。令太は野良犬と向かい合っている。野良犬は目を閉じて寝ている。


「ほんまにできるんかいな?」


 本当に僕はあの野良犬にとりつけるんだろうか? よくないと思っているけれど、もしできるのなら、やってみたい。ちょっと試してみよう。


「ごめんね! それっ!」


 令太は野良犬に向かって念じながら体当たりした。だが、ぶつかった衝撃はない。令太がとりついた野良犬は目を開けた。野良犬は手を見た。


「できた! すごい!」


 本当にできた! これが動物にとりつく感覚なのか。なかなか面白いけど、とりつかれた野良犬には申し訳ない気持ちだな。


 と、1人の女性が通り過ぎた。江村だ。まさかここで江村とすれ違うとは。


「あっ、先生や」


 と、その後ろを1人の男が歩いていく。その男はどこか怪しい表情だ。


「あれっ、あの人、誰やろ。先生をじろじろ見とる。変やな」


 令太は疑問に思った。あの人は江村の夫じゃない。ひょっとして、ストーカーじゃないかな?


「ひょっとして、ストーカーっちゃうか? 怪しいな。明日も見てみよっか」


 令太は明日も江村の後ろをつけてみる事にした。もちろん、江村に気付かれないようにお化けの姿でだ。




 次の日の夜、令太はお化けの姿で江村の後をつけていた。江村が気になるからではない。あの男が気になるからだ。よく見ると、あの男が今日も後ろにいる。


「うーん、やっぱ今日もおるな」


 江村はアパートに入った。男は江村の部屋をじろじろ見ている。その様子を見て、令太はその男がストーカーだと確信した。でも、どうしよう。どうすれば江村を助ける事ができるんだろうか?


 と、アパートの前で野良犬が寝ている。犬は男を全く気にしていないようだ。


「どないしよ・・・。おっ、野良犬・・・。そや!」


 野良犬を見て、令太はひらめいた。その野良犬にとりついて、あの男にかみつこう。


「ごめんね!」


 令太は野良犬にとりついた。野良犬は目を開き、男に向かっていった。男が野良犬が走って向かっている事に気づいていない。ずっと江村の部屋を見ているだけだ。


「ワンワン!」


 野良犬は男にかみついた。突然の出来事に、江村は驚いた。


「な、何やこら! 痛い痛い!」


 男は痛がっている。だが、誰も気づいていない。男が怪しいと思っているからだろう。江村ですら、気にしていない。


「わかったわかった! もう付け回さん!」


 男は降参して、アパートを去っていった。


「痛てっ・・・」


 男は足を引きずっている。相当痛かったようだ。男が視界から消えたのを確認して、令太は野良犬から離れた。


「ごめんね」


 令太は男の後ろをじっと見ている。


「逃げてった・・・」


 それ以来、男は江村を付け回さなくなった。




 翌日の夜、へんげ屋に江村がやって来た。江村は上機嫌だ。どうしてだろうか? 船木は疑問に思っていた。


「へいらっしゃい!」

「豚玉デラックスとビール!」


 平吉も疑問に思った。いつもは週1、土曜日しか酒を飲まないのに、そうじゃない日に酒を飲む。何かいい事があったんだろうか? それとも、悪い事が起こったんだろうか?


「かしこまりました!」


 船木が笑みを浮かべている。今日の江村が上機嫌だからだ。それを見て、船木は思った。きっといい事が起こったんだろうな。


「今日、塾の先生、普通の感じやね」

「おう」


 江村の横を見ると、今日はあの男がいない。もう来なくなったようだ。


「今日はあの人、来とらへんな」

「せやね」


 平吉はビールとコップと栓抜きを持ってきた。


「ビールです」


 平吉はビールとコップを江村の前のカウンターに置き、ビールの栓を抜いた。すぐに江村はビールをコップに注ぎ、あっという間にビールを飲み干した。


「あの人、もう会いたないもん。うちを付け回しまくって」


 江村は相当イラっときているようだ。その様子を平吉は見ている。相当つらかったんだろうな。その気持ち、よくわかる。


「ふーん・・・」

「もう付け回さなくなってええけど」


 やっぱり、あの男は江村のストーカーだったようだ。その話を、令太はお化けの姿で聞いていた。

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