「冒険の書二百八十九:再会と再会と」
イールギットとの合わせ技でドロガロンを倒し、危うく轢死されるところだった皆の危機を救ったワシは、思い切り拳を突き上げた。
「ようーっし! やったぞ!」
ワシの喜びが伝わったのだろう、ワイ助も嬉し気に鳴いた。
「キャー! キャー!」
万物崩壊のせいで天井が崩れ、青空の見える王の間の上を三度旋回した後、ワイ助は着地した。
「はっはっは、待たせたな皆。時間はかかったが、無事に戻って来たぞ」
ワイ助から降り立ったワシに真っ先に反応し駆け寄って来たのは、当然のごとくルルカだった。
「ディアナちゃあああぁぁぁぁぁぁ~んっ!」
別れて行動していた期間が長かったからだろうその勢いは凄まじく、ワシの頭をむぎゅっと抱え込むようにすると……。
「ディアナちゃんディアナちゃんディアナちゃんディアナちゃんディアナちゃん……っ!」
「お、おう……わかったから落ち着け……っ」
「うわ~ん、もう会えないかと思ってたよ~っ! ディアナちゃあぁぁぁぁ~んっ!」
「なにをおおげさな……」
「おおげさなんかじゃないよおぉぉぉ~っ! ドロガロンに飲まれた上にあんな滝から落ちたら普通の人は死んじゃうんだからねっ! もおおおおぉぉぉぉ~っ!」
いくら声をかけても、腕や肩や頭を撫でてあやしてやっても、ルルカの勢いは収まらない。
もう二度と離すものかとばかりに、ワシの頭をぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
「ま、心配かけたのはたしかだしな。ここはルルカの好きなようにさせてやるか……」
ワシは抗うのを諦めると、体から力を抜いた。
別にとって喰われるわけじゃなし、ルルカの好きなようにさせてやることにしたのだが……。
「ううむ……なんだか子ども向けの人形になった気分だのう……」
抱きしめられ、頬ずりされ、抱きしめられ、頭を吸われ、抱きしめられ、髪の毛をサイドで結ばれ、また抱きしめられと、いつも以上にいじり回されていると……。
(なんだろ……わたしちょっと複雑な気分なんだけど……)
ぶつぶつ、ぶつぶつ……。
なぜだろう、フィオナが不満げにつぶやいている。
「なんだ、なにが複雑なのだ?」
ルルカに聞かれぬよう、こっそりと訊ねると……。
(なんかこう、自分に懐いてた親戚の子を盗られたみたいな……?)
「なるほど……そう言われてみるとそういう構図にもなるのか……」
ルルカがこれほどまでにワシに執着しているのも、元をたどればフィオナに懐いていたからだしな。
フィオナからすれば、ルルカを盗られたように感じるのだろう。
ただただ一方的に見えたルルカからフィオナへの愛情も、フィオナからすると違うのかもしれない。
本来の『聖樹のたまゆら』は、もっと違う形のものだったのかも。
だが、だからといって何もできないことには変わりない。
この体はすでにワシのものであり、フィオナにはもうどうすることもできないのだ。
とはいってもなあ……。
そんなにバッサリ切り捨てるのも人としてどうかといったところだしなあ……。
「もう話すことはできないにしても、なにかふたりが交流できる手段があればいいのだがなあ……お? もういいのか?」
「うん、満足♡ 不足してたディアナちゃん成分をフルチャージできたよ、ありがとね♡」
ふと気がつくと、ルルカがワシを解放していた。
顔を上気させ肌をツヤツヤさせているところを見るに、実際になにがしかの成分を得たようだ。
「ワシ成分……ワシの体から発散されるなにかが存在する……? いや、本気で意味がわからんな……」
「お、おう……ディアナ。元気だったか?」
首をかしげるワシに、チェルチが声をかけてきた。
「おう、チェルチか……うん?」
見れば、チェルチは角も尻尾もむき出しにしている。
羽根でパタパタ飛んでいて、悪魔貴族であることを隠そうともしていない。
にもかかわらず、周りは奇異な目を向けていない。
と、いうことは……?
「……ほう、見たところ、皆に受け入れられたようだな? 悪魔貴族でもいいと認められたのだな?」
「うん……なんとかな。ルルカやリゼリーナが頑張ってくれてさ……そのおかげ。えへへへ……」
チェルチは頬を赤らめ、モジモジしている。
いったい何に照れているのかはわからないが、とにかくここは褒めるべきだろう。
子どもたちを萎縮させずにいいところを伸ばす、いつもの方針どおりに。
「よかったな。それもこれも、おまえが頑張ったからだな」
「は、はあ~? なに言ってんだよ。あたいは別になにもしてないじゃないか」
予想外の言葉だったのだろう、チェルチはびっくり顔で反論するが……。
「それこそ、なにを言っているのだ。あのな、ルルカやリゼリーナが力を貸してくれたのは、そもそもおまえがおまえだったからだ。悪魔貴族であるのにもかかわらず人のために尽くし、命をかけて戦ってきたからだ。悪魔貴族であるのにもかかわらず自ら人の間に溶け込み、共に生きようとしていた姿を評価されたのだ。感謝の念を忘れんのはたしかにいいことだが、おまえはもっと自分を労い、褒めてやったほうがいいぞ」
「なっ……?」
ワシの言葉が嬉しかったのだろうか、チェルチはシュボンと顔から湯気を立てるようして恥ずかしがった。
「もちろんワシも評価しておるぞ。おまえはよくやっとる。偉いぞ、チェルチ」
ワシがさっと片手を上げると、チェルチはズザザッとばかりに物凄い勢いで後ろへ飛び退いた。
顔を強張らせたかと思うと、恐ろしい武器でも見るかのような目でワシの手をにらみつけた。
「ななななななんだその手はっ!? あんたその手でっ、あたいに何をする気だっ!?」
「なんだもなにも、労いの意味をこめて頭を撫でてやろうと思ってだな……」
「そそそそそそそんなこと望んでないしっ!? そんなことされたって喜ばないし嬉しくないしっ!?」
突如興奮し出したチェルチは頭を抱えると……。
「ああああああもうわかんない! あたいってばなんか変だ! ひさしぶりにディアナに会ったら変になっちゃった! 全然うまく話せないし顔もきちんと見れないし! わーわーわー! わーわーわー!」
半泣きになりながらパタパタ飛んで逃げていった。
これ以上顔を見られたくないとでもいうかのように、ワシの目の届かないところまで。
「チェルチのやつ……いったいどうしたというのだ?」
(なんかわかる気がする……気がするんだけどわかりたくない気もする……)
ぶつぶつ、ぶつぶつ……。
フィオナは意味不明な感想を口にする。
「はあ~? なんだそれは? おまえにはチェルチの気持ちがわかるというのか?」
(すべてはあんたのやりすぎと、鈍感力から始まってるってことよ……たぶんだけど)
「いやさっぱりわからんのだが……。なあ、もう少し噛み砕いて説明を……」
(やだ、面倒なことにしかならなそうだし)
フィオナは完全に無視。
重ねて訊ねても、だんまりを決め込んでいる。
「ちぇ……なんだ、もったいぶりおって」
ワシは頬を膨らませながら、チェルチの消えた方角を見つめていた。
いやホントに、どうしたのだろうな?
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