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引力と猫の魔法使い [プロトタイプ版]  作者: sawateru
魔法使いと待つ影
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第1話 日高誠と終わらない課題

第三章が始まりました。

毎週更新を目指していますが、間が開いてしまう可能性があります。よろしくお願いします。

「日高は、コトリちゃんの事……どう思ってる?」


 夕暮れの陽が差し込む部屋の中、岸本紗英が囁いた。

 落ち着け。確認が必要だ。俺は今、彼女の家に居る。そしてリビングのソファーに二人並んで座っている。


 可愛い女の子と部屋で二人きり、なんてシチュエーションには憧れていたが、本当にこんな日が来るとは思わなかったよ。


 いやいや、これは罠だ。絶対に罠に決まっている! そもそも、何でこんな状況になったんだっけ?


 ──数時間前の事を思い出してみる。




 魔法花火大会から四日後。


 昼過ぎに化学室準備室に訪れると、いつもの様に水鞠コトリが小さなテーブルでノートパソコンを叩いていた。


 現れた俺の姿をロックオンすることも無く、何かに集中している。


「今度は魔法花火大会の報告書か?」

 そう言って中へ進むと、水鞠は針金の様に真っ直ぐな髪を揺らし、猫の様な不思議な目を向けて来た。


 相変わらず現実離れした存在感だ。本当に制服が似合って無い。まあ、それで合ってるのか。魔法使いだし。


「違うよ。今回の報告書は綿貫に任せたから、アタシは出来上がった物を確認して、ハンコを押すだけ」

「へえ。随分と当主らしくなったな」

 そう言って薄ら笑いを浮かべてみる。

「バカにしてるの? こう見えてもアタシだって色々と忙しいんだからね」

「へいへい」


 俺はそう雑に受け応えると、水鞠の向かいの席にストンと腰を下ろし、手に持っていたバッグを床に置く。猫の目は、優しく微笑んでいる様に見える。


 化学室準備室には、魔法扇風機の音と、そこから発生する、やや冷た過ぎる冷風が広がっていた。窓の外には青い空が覗き、ヘリコプターの羽音が小さくなって行く。


 静かな時間が心地いい。

 良かった。またここに戻って来れたんだ。


 ふと、話したかった事を思い出した。

「そう言えば悪かったな。花火大会の片付けを任せきりにして」

 そう言うと、水鞠はアイスコーヒーを口に含み、溜息を吐く。


「気にしないでいい。日高は日高しか出来ない事をしたんだ。後の事は全部綿貫がやるから大丈夫」

「そうなのか……」

 大変だな綿貫さんも。水鞠家の一員になったばかりなのに。


 突然、カラカラと音がする。

「何だ?」

 音があった方へ視線を移すと、魔法扇風機の羽根がが息苦しそうに身悶えている。エラーを起こしている様だ。


 状態を確かめようと立ち上がると、水鞠が止めて来た。

「そのままにしておいて」

「いや、でも気になるぞ?」

「ちょっと古くなっていたからね。大丈夫。綿貫に修理させ……」

「さっきから綿貫さん大変過ぎない!?」


 いくら何でも頼り過ぎでしょ……。やはりブラックなのか? ……魔法使いだけに。水鞠家恐るべし。


「少し忙しい位が丁度良いんだよ。水鞠家の上から二番目の役職で偉くなったんだから。報酬分は仕事をして貰わないと」

 

 綿貫さんて、そんな役割だったのか。実力を考えれば自然な流れか。いや、それにしても厳し過ぎない? 魔法花火大会成功の立役者だったのに。


 その辺の人間関係はどうなっているのかは謎だ。雰囲気的に、みんな以前から知っている様だけど……何か訊き辛いんだよな。


「日高はまだ疲れが取れていないんじゃない? 眉毛は残念なハの字だし、眠そうな目をしてるし、髪もイケてないよ」

「安心しろよ。それ、いつもの俺な。余計なお世話だよ」


 そうは言ったものの、実際は疲れていた。

 この三日間、科学部は休みだったが、俺は魔力の消耗が激しくて寝込んでしまっていた。


「日高は鍛錬が足りないんだよ。紗英はずっとテニス部に出てるよ」

 水鞠は残念な人を見る様な目で追い討ちをかけて来る。俺はその視線を右から左に受け流した。

「あの完璧超人と比べないでくれよ」


 岸本もかなりの魔力を消耗していたはずなのに、この差は何だ。

 どうせ俺は超人心臓に切り替える事が出来ない。出来たとしても、その実力は謎の超人アパッチ程度だろう。


 ……そういえば岸本、今日はまだ来ていないな。


「紗英は試合で他校にいる。今日はここに来ないよ」

「そうなのか」


 俺の考えなんてお見通しと言わんばかりの表情になる水鞠。て事は、今日は水鞠と二人きりか。


「みんな忙しいんだよ。日高位でしょ。夏休み終わるまで予定の無い人」

「失礼だな。俺は敢えて空けてるの! 修行第一なんだよ」

「へー」


 こんな水鞠とのやりとりも久しぶりだな。でも何でだろう……胸騒ぎがする。……この違和感は何だろうか。


 そんな事を考えながらバッグから筆記用具を取り出し、机に置く俺。


「何それ」

「筆記用具だが」

「そんな事、見れば分かるよ。これから始める修行には必要無いよ」

「いや、夏休みも終盤なのに、課題が全く終わってないんだよ。休憩中だけでもいいから進めさせてくれないか?」

「何で終わってないの!? 普通は七月中に終わらせるでしょ」

「終わらねーよ!」


 ウチの高校、一応進学校だぞ!? 終わる量じゃ無いだろ。小学生じゃあるまいし。


 水鞠は溜息を吐くと、

「じゃあ、アタシの調べ物が終わるまでは進めてていいよ」

 と言って、またパソコンを叩き始める。


 有難い。一気に進めよう。

 まずは数学からだ。


 

 魔法扇風機の調子が回復し、冷風が流れ込んで来る。頭が冷やされ、集中力が湧いて来た。


 深呼吸をして、頭に酸素を送り込む。そして課題ノートを開く。


 進む……! 進むぞ! 今の俺なら普段の三倍の力が発揮出来る! リア充との違いが、学力の決定的差ではないということを……教えてやる! 

 集中力が極限まで到達したらしい。周りの景色が消えて行く。


 それだけじゃ無い。雑音も全て消えた。こんな感覚は初めてだ。


 誰も居ない空間。これは「ゾーン」と言う奴では無かろうか。名高いアスリート達が集中する事で到達出来る世界……。俺は新たな領域の扉を開いているのだ。


 …………優しい歌声が聞こえる。


 一人じゃない。頑張れ。そんな風に応援されている気がする。


 

「ムヒョー ムヒョー ムヒョー (ムヒョー! )」


 んん!?


「ムヒョー 無常 非情 (ムヒョー!)」


 違う違う!『白ねこムヒョー』の歌だろ、これ!


 良く聞いてみたら水鞠の声じゃねーか! 調べ物をしながら鼻歌歌っちゃってるよ……。


 ああもう! 無視だ無視! 今の俺は、時速百五十キロの速さのボールでさえ止まって見える状態なのだ。水鞠の鼻歌くらい、何の気にもならない。加速せよ。俺のゾーン!


 頭の回転がさらに速くなる。ペンを走らせる手が止まらない……!


 

「ムヒョー! ムヒョー! 無表情〜」


 ……知らない歌だな。


 『白ねこムヒョー』は水鞠の好きなキャラクターだ。

 テレビが白黒だった時代からアニメになっている、いわゆる懐かしキャラクターの一つで、何年かごとにアニメ化しては、大した話題にならずひっそりと終わっている。悲しいコンテンツだ。


 見開いた猫目が特徴的で二足歩行。首には赤いリボンを着け、裸に腰布を身に着けたシュールな外見をしている。そして無表情だ。


 一体、どんな奴に支持されているのかと思っていたけど……何となく察した。


 水鞠は気分が良くなって来たのか、更にノリノリになる。


「未来の世界の〜 猫型妖怪〜 (ムヒョー!)」


 え!? そんな設定だったの!? 


 雑過ぎだろ……。未来って何年先だよ。気になるな! あと妖怪だったんだムヒョー……。


「いつの間にか居候〜。タダ喰い、大食い、風呂嫌い〜 (ムヒョー!)」


 最悪だなムヒョー! まあ、昔の居候キャラには有りがちだけどさ……せめて風呂には入ろうよ……。臭いのかよムヒョー……。


「〈セリフ〉……でもね。時には落ち込む事がある。心はガラスの様に割れちゃうよ」


 面倒だなムヒョー……。大食いしておいてそれかよ。そこは強メンタルでいて欲しかったよ。お前臭いよって言い辛いし。


「ガーラスー ガーラスー こーころーはガーラスー」


 何でサビっぽい所でガラス連呼しちゃってるの!? 絶対おかしいだろこの歌……。あとここのメロディラインが、たらこスパゲティソースのCMに激似だな。


 いやいや、無視だ無視。勉強に集中しなくては。


「だーい好物は──。(ナマゴメ!) 生米だいーすきー (ムヒョー!)」


「生米!?」

 ついに我慢出来ずに叫ぶ俺。


「どうしたの日高」

 何事も無かったかの様に真顔で答える水鞠。俺はゾーン状態から元に戻ってしまった。


「いやいや、ムヒョーって生米食べるの!?」

 自分でもよく分からないが、思わず突っ込んでしまった。だって食べちゃダメだろ。生米……。


 猫に穀物をあげるのはあまり良くないって聞いた事があるし。そもそもキャラクターの好物として、そのチョイスはどうなの!?


 すると水鞠はフフンと得意そうな顔になる。

「これは記念すべき第一期。実写版ムヒョーの歌だよ。その時の設定」

「実写版!?」

「他人の家の米びつから勝手に生米を食べる姿に、多くの物議を醸したと言われている」


 よく物議だけで済んだよ……。そういや、俺が小さい時にやっていたアニメでは、煎餅を食べていた気がする。始めからそうしておけよ。……まあ、どうでもいいけど。


 俺のテンションがフリーフォールの様に急降下して行くのとは逆に、水鞠のテンションが、ロケットの様に打ち上がる。

「知らなかったでしょ。第一作は実写だったんだよ! その後はアニメになったんだけど、その実写版が最近になって、第一期として公式決定になったのです!」


 うーん……無茶苦茶どうでもいい情報! 思わず突っ込んでしまった自分を責めたい。全部生米が悪い!


 どこまでも話が尽き無さそうだ。超面倒臭い! どうにか話題を逸らさないと課題が出来ないぞ。何か良い方法が無いか? 何でこんな時に限って二人きりなんだよ……。


「────!」

 その時、背筋に悪寒が走る。そして全身から汗が噴き出した。


「どうかした? 日高」

「いや、何でもない」

 ……そうだった。俺はやっと気付いた。謎の違和感の正体が何かを。


 遅かった。全ては手遅れだ。何で気付かなかったんだ俺は……。


 大体パターンからいって壁の魔法使いである、真壁スズカが邪魔して来るはずなのに、一向に現れない。弓の魔法使いだってそうだ。いつも水鞠の側に付いているはずなのに、今日は居ない。そう──。


 水鞠と二人きりなのに、誰も邪魔をして来ない……!


 おかしい! 絶対におかしい! 何かあるぞこれ。


 すると水鞠の猫の目が怪しく光る。

「日高。お願いがあるんだけど」

 俺を真っ直ぐに捉え、そして口を尖らせながら上目遣いになる。


「お願い?」

 水鞠がお願いなんて言うのは珍しいな。


「今度の土曜日、付き合ってくれない?」


「え!?」

 もしかして二人きり!?……それって……。激しく動揺する俺。


「都内に当主一人で行くのは禁止されてるんだ。だけど、その日、他のみんなは全員用事があってアタシ一人なんだよ!」

 そう言って水鞠がノートパソコンをクルリと回転させる。


 そこには「白ねこムヒョー限定イベント」のサイトが表示されていた。


 …………それかぁ……。


 逃げやがったな……。あいつら……。

 新章に入ったので、改めてキャラクターの説明をしています。白ねこムヒョーはお気に入りのキャラになりました。出過ぎない様に気を付けます。



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