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ワケあり召喚術士、まかりとおる!  作者: 鈴木えんぺら
第3章 帝国の召喚術士
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第13話 帝国の危機 その3

平成最後の更新となります(言ってみたかっただけ)


『嬢ちゃんにエルフの里へ出向いてもらって、ちっと話をつけてきてくれんかと思っての』


 皇帝陛下を病から救うために、帝国最高の将軍ルドルフがオレを探し回った理由がコレ。

 何十日も寝込んだままの陛下を放っておいて……何言ってんだこのジジイ?


「はぁ、何でオレが?」


「何でってそりゃ……のう?」


 爺さんのぶりっ子、全然かわいくない。


「嬢ちゃんは帝国貴族じゃし……ほら『竜遣い』やら何やら、ここんとこ名を上げてきておるじゃろ」


 エルフの説得に向かわせるには最適だと思ったんじゃ。

 まるでそれが当然であるかのようにルドルフのジジイが話を続ける。

 

――そうじゃない、違うだろ。


「あいにくと、オレはもう帝国とは縁が切れてる身なんだが」


 皇帝陛下を救いたいのであれば、

 帝国に深くかかわっている誰かが説得に向かわないと筋がおかしいだろ。


「それに『竜遣い』だ何だのって」


 オレにエオルディアを使ってエルフを脅せって言ってるように聞こえるぜ。

 いくつもの傷と皺の刻まれた老将軍を睨み付けてやると、僅かに視線を逸らしやがる。


「いや……別にそう言うつもりじゃなくてな?」


「じゃあ、どういうつもりなんだよ」


 身を乗り出してテーブルに両手を叩きつけ、

 ここぞとばかりに畳みかける。


「厳しいのう、嬢ちゃん」


 そんな顔をするとレオンハルト殿下が悲しみますぞ、などとほざきやがる。


「それとこれとは関係ねーだろ!」


 イラっと来てテーブルに拳を叩きつける。

 どいつもこいつも、とっくの昔に逃げ出した元婚約者に固執しやがって。

 今、自分たちの手の中にある札を使って勝負しろよ。


「実はエルフの集落の近くに所領を持つ貴族を通じて、一度話をしてみたんじゃが」


 ものの見事に失敗。話も聞いてもらえなかったとのこと。

 帝国領に住んでいるといっても、エルフってのは基本的に閉鎖的。

 ……言葉にしてみると確かに揉めそうだな、という気はする。


「と言うわけで、他種族が相手だと嬢ちゃんが一番適任だと思うんじゃがなあ」


「くどい!」


 なんか政治的判断の匂いがプンプンする。

 帝国の危機という表現は誇張ではなかろうが、

 これ幸いにオレを帝国社交界に復帰させて、

 なし崩し的に逃げ場を奪おうという陰謀を感じる。


「はぁ……そうは言ってものう」


 そもそも誰がエルフに協力を要請するかという流れで

 何故帝国にいなかったオレに行かせようなどという話が出てくるのか、

 それがまずわからない。まったくもって理解不能。

 オレを探す時間があるならほかの誰かを向かわせりゃいいだろ。


「偉いさんに親書をしたためさせて、誰かに持って行かせりゃいいだろ?」


「そりゃそうなんじゃが……誰に一筆頂くか……」


 ふ~む、と悩む素振りを見せながらあごひげを擦るジジイ。


「皇帝陛下が動けないんだから、皇后陛下……か?」


「う~む」


 ごく普通のアイデアだと思ったのだが、ルドルフは首を縦に振らない。


「爺さんはヴァイスハイトが皇帝になるのは嫌なのか?」


 現皇后はヴァイスハイトの産みの母。

 その女を政治的事情に絡ませると、

 皇位継承権問題においてヴァイスハイト有利の流れが加速する。


 物腰柔らかなレオンハルトは官僚に、

 勇猛なヴァイスハイトは軍部に支持者が多いというのが定説だったと記憶しているが。


「ヴァイスハイト殿下は、少々血の気が多すぎる」


 好々爺じみていた態度が一変し、冷徹な軍人の表情が現れる。

 思わず一同が息を飲み、背筋が伸び上がる。

 ただの一言で、目の前にいる老人が帝国最高の誉れ高い将軍であることを再確認させられる。


「戦を知らん若いもんを焚き付けて、何をされるおつもりやら」


 その声には、長年帝国を護ってきた自負からくる深い悲しみが垣間見える。


「……軍の重鎮たる将軍のお言葉とは思えませんわ」


 話の成り行きを見守っていたグリューネルトが口を挟む。


「軍人が、みんな戦好きじゃとは限らんのじゃよ」


 再び飄々とした老人に戻ってひと言。

 ともすれば臆病ととられかねない言葉も、

 歴戦の名将が口にすれば馬鹿にできたものではない。

 少なくともルドルフの戦績を見知って、

 この爺さんをあざ笑うものは帝国にはおるまい。


「聖王国との状況が膠着し、厭戦気分が高まっておるここ十数年の流れ……最近は特にのう」


 ということは、爺さんはできればレオンハルト派の人間を使いたいと考えているわけだ。

 だからオレなのかと腹立たしく思いながらも、一方では納得もする。


「そういうことなら、皇太后さまに書面をしたためてもらうってとこか」


「ま、その辺が落としどころかの」


 こちらの提案に頷くルドルフ。


「ねぇねぇご主人」


「うん?」


 クロがこちらの足を揺らしながら尋ねてくる。


「その……皇后さまとか皇太后さまとか吾輩よくわからんのにゃが……」


「あ、アタシも全然わかんない」


 恥ずかしげにこぼすクロに、恥ずかしげもなく挙手するテニア。

 そう言えば、ケットシー国も南海諸島も王政だったな。

 ……でも、こういうのって呼び方が違うだけじゃないのか?


「端的に言っちまうと、皇帝陛下の嫁が皇后で、皇帝陛下のお袋さんが皇太后だ」


 レオンハルトの母親である先代皇后はすでに亡く、

 今はヴァイスハイトの母親である現皇后の権勢が強い。

 皇太后さまは先帝崩御後は政治の表舞台から姿を消している。


「お手数をとらせて申し訳ないが、皇太后さまに一筆したためていただくとするかの」


 割と容易く口にするということは、何らかのあてはあるのだろう。

 この爺さんは、やはり一筋縄でいく相手ではない。


「んで、それを誰がエルフの集落に持っていくかじゃが」


 未練たらたらの視線をこちらに向けてくるジジイは置いといて、

 誰かレオ派、あるいは中立派でそれなりの地位にある人物を……


「って、オレが考えてもわかんねーわ」


 帝国から飛び出してもう五年以上。

 誰それがどこの派閥に属してるとか、

 最近の内部事情はさっぱりだ。


「ルドルフ将軍」


「ん、なんじゃの、サスカスのお嬢さん?」


 お茶をすすりつつ好々爺の笑みを浮かべるルドルフに、

 声をかけるはこの場にいるもう一人の令嬢グリューネルト。


「エルフの説得、よろしければこのグリューネルトにお任せいただけませんか?」


 また口をはさんできた金さんの方を見れば、目がマジだった。


「む?」


「え?」


「お、お嬢様!?」


 護衛の騎士が色めき立つ。無理もない。

 オレのようにすでに放浪歴があり、魔術や召喚術など戦うすべを持つ者ならともかく、

 グリューネルトは生粋のお嬢様。

 ダンスやワインに詳しくとも、いくさごとには全くのド素人。

 他種族との交流という点についても、適正の有無には疑問符が山ほどつく。


「先ほどからお話を伺っておりましたのですが」


 キッとこちらを向いて言葉を紡ぐ。


「このステラ=アルハザートときたら、帝国の危機に際して言い訳して逃げ口上を述べるばかり」


 帝国貴族としての自覚が足りません。

 う~ん、大半は顔見知りの場とは言え、

 ここまで堂々と罵倒するのが貴族流かと突っ込みたい。

 控えている騎士がわなわなと震えているのは見間違いではないだろう。


「わたくしにお任せくだされば、必ずや皇太后さまの書面をエルフのもとに届けさせていただきます」


「ふむ……どうしたもんかの」


 悩むルドルフ。

 一蹴しないということは、特使グリューネルトという人選に興味があるということか。


「ふ~む、これは、むむむ……」


 ……ワザとらしくこちらをチラチラ見るのは止めろ、このくそジジイ。

 喉まで出かかった言葉を何とか飲み込む。

 余計なことは言わぬが花。


「お嬢様、そのようなことは」


「おだまりなさい!」


 護衛の言葉を跳ね除けるグリューネルト。


「もちろん、わたくし一人では街の外で何かをなすことなど儘なりません」


 それぐらいはわかっております。

 使命を全うするために護衛を用意いたします。

 それでも、わたくしでは頼りのうございますか。


「うむ……サスカスのお嬢様はこうおっしゃっとるが、嬢ちゃんはどう思う?」


「どうって言われてもな……」


 グリューネルトひとりだったら問題外。エルフの里に着く前に遭難確定。

 でも、サスカス伯爵家が護衛を用意するというのなら、まあ何とかなるのではないかという気はする。

 ただ、グリューネルトがエルフの相手に相応しいかまではわからない。

 オレ自身エルフとそれほど深い付き合いがあったわけでは……


――リデル……


 ふと、アールスの街で行方をくらました小麦色のハーフエルフが思い出される。

 うまく付き合っていけていたと思っていたリデルでさえ、

 オレの想像もつかない裏の顔を持っていた。

 他種族の中でも個人的にエルフについては、本当に自信が持てない。


「まあ……皇太后さまの手紙を届けるくらいならできそうな気もするけど」


「なんですの、その言い草?」


 憮然とした表情をこちらに向けてくる。

 金色の髪が揺れ、瞳にチカチカと光が明滅する。


「……お前、焦ってないか?」


 何だろう、この雰囲気。

 ごく最近似たような印象をどこかで受けたような気がするのだが、

 咄嗟に思い出すことができないでいる。


「……別に焦ってなどおりません」


「いや、焦ってる」


 オレの記憶にあるグリューネルト像とも一致しない。

 この女は、良くも悪くも典型的な貴族の令嬢。

 カップに触れる指も細くて白くて、傷の一つも見当たらない。

 父親であるサスカス伯爵が、

 蝶よ花よと愛で育てた事が見て取れる立ち居振る舞い。

 こんなお嬢様が、何をまかり間違って軍施設に足を運んだり、

 野営上等のエルフの森への使者に立候補したりなどと、

 とんでもない行動に出るのだろう。暴挙といっても差支えない。


「あなたが知っているわたくしといえば、五年前の子どもの頃の話でしょう」


 あれから時を経て己の立場を見直してみれば、

 昔と同じままではいられないと誰でも気づくもの。


「……ことは帝国の存亡をかけた一大事」


 半端な心掛けでは認められませんぞ。

 ルドルフの言外に『大人しく手を引け』と副音声が聞こえるようだ。

 それに気づいていないのか、あえて無視しているのかは、

 観測者に過ぎないオレには窺い知ることはできない。


「このグリューネルト=サスカスの覚悟を疑いになられるのですか!?」


 心外であり、残念であり、腹立たしい。

 いささか芝居じみた身振り手振りで嘆きつつも、


「ひとたび使命を受けましたらば、全うするまで戻るつもりはございません」


 ……正直、ちょっと驚いた。

 こと護国という一点においてルドルフに冗談は通用しないし、

 ここにはオレのほかにも証人がいる。

 こんな場でこんな宣言をしてしまうということは、

 任務に失敗した場合、二度と帝国の社交界に顔を出さないと言っているのも同じ。

 それは、帝国貴族の令嬢としては最大級の覚悟を決めているということ。


「そこまで言うんなら、サスカスの嬢ちゃんにお願いしようかの」


 グリューネルトの決意のほどに気付いているのかいないのか、

 サスカス伯爵に最終的な意思決定を任せるという条件を付けて、

 ルドルフは彼女の意見を受け入れた。


「じゃあ、これで話は終わりということで」


 オレは帰らせてもらうぞと立ち上がりかけてみれば、

 さらに話を続ける老将軍。


「それじゃ、嬢ちゃんにはもう一つの案件をお願いしようかの」


 な~んて抜け抜けと言い放ったではないか。


 いくつあるんだ、帝国の危機!

 今年は帝国の厄年かよ!?

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