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平凡貴族の日常談  作者: ロイ
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模擬戦

 翌日、修練場に集まったのは中級クラスの人間ではなかった。

 そこに集められたのは上級クラスに属するはずの者たちだった。


「どういうことですか」


「いえいえ、彼らは成績が下がったので反省の意を込めて降格としたのですよ」


 ロイの言葉に悪気もな下げに中級クラスと上級クラスの教員が答える。

 それを見て、レイナード達は顔をそむけてこの後に起こるであろう惨劇に絶望する。

 いくら自分たちの実力が、以前とは比べ物にならないとはいえ上級クラスの人間相手では勝ち目がない。

 そう考えてしまい、思考を放棄した。

 しかし、それはロイが許さなかった。


「そうでしたか、では彼らが下級クラスに負けたら……あなた方の判断は正しかったのでしょうね」


 にやりと笑みを浮かべてそう言い放ったロイにその場の全員が驚きを見せた。

 実力だけを見れば上級クラスに属する人間と、全てにおいて下級クラスの人間を正面から戦わせればどうなるかは日の目を見るよりも明らかだ、

 しかし、そのうえでロイは勝利を確信している。


「さて、ではみなさん。

今日は晴れ舞台ですよ。

上級クラスとはいえ元が頭につきます。

所詮は落ちこぼれです。

その点皆さんは最底辺から上り詰めた人間です。

慢心して、立場に胡坐をかいて、そして堕落した阿呆など相手になりませんよ」


 ロイはあえて大きな声でそう言って見せる。

 当然だが元上級クラスの人間たちは怒りをあらわにする。

 それがロイの狙いだった。


「レイナード君、まず君は僕の後ろで殺気を飛ばしている集団に適当に魔術を撃ちなさい。

何でも構いませんが、できるだけ派手で威力が高い物を」


 ロイは今度は声を潜めて指示を出す。

 レイナードも急に名前を呼ばれ焦りを見せたが、ロイが勝てるというなら少しそれに付き合うのもよいだろうと気を取り直した。


「それからモリエ嬢は開始直後に魔術で壁を作ってください。

土の壁です。

ただし魔力の供給は微量でいいのでつづける事」


 通常土の魔術は魔力の供給がなくとも、構成した形をそのまま維持する。

 しかし、ロイはあえて魔術を流し続ける事を支持した。


「アルタ君とボイド君はモリエ嬢の補佐。

他の人は三列横隊で整列、手前の人から順に魔術を放ってください。

手前の人は魔術射出後列の後ろでまた整列。

それを繰り返してください。

レイナード君は好き勝手に売って構いません。

では健闘を祈ります」


 そう言って、指示を出し終えたロイは修練場の隅にある椅子に腰かけ用意していた水筒からグラスに茶を注ぐ。

 面白い見世物だといわんばかりの態度に、下級クラスは諦めを、教師陣と中級クラスの人間は怒りをあらわにしたが気に留めることもなく開始の合図を待った。

 この手の試合はそれなりの地位を持った人物が開始の合図を取る。

 普段であれば学長がその役割を受けたのだろうが、今回は話が違った。


「またせたな」


 修練場の入り口から声が響く、合わせてロイは茶を注いだグラスを手にその声の主の前に膝間づいた。


「お待ちしておりました、どうぞ」


 そう言って声の主に茶を差し出す。


「御苦労、では早速だが……ダイヤ皇国の王であるロドリゲス・サーシャ・ダイヤモンドの名において試合の開始を認める!

双方礼を突くし、忠を尽くした試合を心がけよ! 」


 声の主はこの国の王であり、最高責任者だった。

 その後ろには平伏した学長と数名の教師がいた。


 また生徒を始めとした、状況を呑み込めていない者たちは唖然とするばかりで膝をつく事さえ忘れている。


「では双方持ち場へ……では試合始め! 」


 国王の言葉に、唖然としながらも従った生徒たちは合図を受けても直ぐには動けないでいた。

 ただ一人、レイナードを除いて。


「モリエ!壁展開! 」


 レイナードの言葉につられてモリエが土壁を展開する。

 それと同時に、壁に数発の魔術が着弾した。

 中級クラスが放ったものだ。


「アルタは壁の維持に!

ボイドは新しく壁を作って少しでも威力を下げろ! 」


 声を張り上げて指示を飛ばすレイナードを見て、他の者たちも思い出したかのように陣形をくむ。


「第一陣!

周りに合わせろ! 」


 そう言って、魔術を乱射する。 

 三列横隊の前列の者たちはアイコンタクトを取り、タイミングを合わせて正面めがけて魔術を斉射した。

 そしてすぐに後ろに下がり、再び詠唱を始める。

 その間にあらかじめ詠唱を終えていた第二陣、第三人と順に魔術を斉射していく。

 それは物量で押すという戦法であり、相手に反撃の隙を与えないという物だ。


「ほう、随分と荒っぽい戦法をとるのだな」


「相手との実力がかけ離れているのであれば、その実力を発揮させなければいいのです」


「なるほど、正論だ。

だが言うは易しという言葉を昔に聞いた」


「言うは易く行うは難し、言葉だけではどうとでもできるが実行は難しいという事です。

別にむずかしい事ではありませんよ。

相手を怒らせて、普段は絶対にあえないような大物、さらに奇襲じみた攻撃からの開戦」


「ふはははは、俺まで策略に組み込んでいやがったな」


「国王、口調」


「おっと……それで、私は何時から策略に組み込まれていたのだ」


「最初から、だれであっても国王がいきなり現れたら緊張位はするでしょう。

その緊張程度で実力を発揮できない奴は……戦場では即座に死にます」


「だろうな、その点貴公の生徒は大丈夫そうだが」


「戦闘時はすべてを敵と思えと教育しています。

かりに、今僕があそこに石を投げ込んだら躊躇せず魔術をこちらへ放つでしょう」


 日ごろの恨みやらもありますが、と小さくつぶやいたのを国王は聞き逃さなかったが聞かなかったことにはした。

 しかし真に恐ろしいのは、すでに中級クラスは半壊。

 半分以上の生徒が戦闘続行不能とされ、残り半分も戦意喪失しているにもかかわらずいまだに魔術の斉射が続いているという事だ。


「これは……むごいな。

幾度となく戦場を、戦火の巻き添えとなった村々を見てきたがここまで凄惨な戦いは見たことがないぞ」


「慢心は最大の敵ですからね。

とくにほら、あの指揮を執っているレイナード君。

彼はいい指揮官になれると思いますよ。

一切の油断も慢心もない。

何処から攻撃されるか常に気を張っている。

それなのに開始から30分たっても変わらない警戒心を抱いている。

これが半日以上続けられるようになれば……」


「ふむ、騎士団への推薦状でも書いてやるか。

あれはなかなかいい生徒だ」


 このような模擬戦は、時折貴族が見に来ることがある。

 我が子の成長を見守る者や、優秀な生徒をスカウトするためにだ。

 今回ロイが目をつけたのはそこだ。

 まず他のクラスの人間と自分の生徒たちに教育の成果を見せつける。

 そして、中級以上の生徒に自分の担任へ対する不信感を与える。

 この人の教えで強くなれるのか、という疑問を抱かせればそれだけでも金星だ。

 さらに今回呼んだ国王に認められる生徒が出れば万々歳、レイナードを推薦したが、他の者たちも負けず劣らずの結果を残している。


「……いや、これはあの生徒一人を推薦するのはもったいないな」


 国王は顎に手を当て、そして少し考えを巡らせる。


「決めたぞ、お前の生徒全員を俺の部下にする。

騎士団の地位を卒業後に約束、手付金として卒業までの安泰を約束してやろう」


「それは僕ではなく彼らに直接言ってあげてください。

それと、口調」


「む……なれねえなくっそ」


 口調の崩れを指摘され、思わず悪態をついたがその会話を聞いていた者はほとんどいない。

 それは救いだったのかは本人たちのみの知るところである。



 なお、中級クラスはそれからさらに30分の魔術斉射を受けて全員が戦闘不能となった。



「では、下級クラスの生徒全員に騎士団入りと卒業までの安泰を我が名のもとに約束しよう。

合わせてロイ卿にはその功績を称え、褒美を取らせる。

おって連絡がいくだろう、精進せよ」


 国王によって模擬戦は終了を迎えた。

 そこには満身創痍の中級クラスの人間と、今更緊張で強張る下級クラスの人間がいた。


「レイナードといったか。

貴公の指揮はなかなかの物だったぞ」


 帰り際、レイナードの肩をたたいて国王がそう告げる。

 その言葉に驚きと喜びを感じたのかレイナードは顔を赤らめ、そして涙を流しながら頭を下げた。


「さて、では反省会を行いますので皆さん集まってください」


 しかし水を差すものというのはどこにでも現れる。

 今回のそれは、ロイだった。


「中級クラスの皆さんも、逃がしませんよ」


 獰猛な猛禽類のようなさっきを放つロイの言葉に反論できるものはおらず、教員含めて全員がその日の反省会を行う事となった。

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