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平凡貴族の日常談  作者: ロイ
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終焉

(さて、これは困った)


 飛来する魔術を叩き落としながらロイは顔をしかめる。

 予想以上に魔術の威力が高く数が多い。

 このまま正面突破をかけるにしてもこれではまともに進む事が出来ない。

 

 だからと言って安全なルートを探しながら進めばこの街が崩壊するか、リリアが暴走した魔力に耐えきれずに自身が崩壊する。


「それだけは避ける! 」


 声を上げて木剣を振るう。

 しかしそれでも前に進む気配はない。

 どころか圧倒的物量の前に少しずつ後退している。


「なんで……なんでそんなに一所懸命になれるの! 」


 後方でリアナが声を荒げる。

 事の発端は自分の挑発である。

 とはいえここまでの賛辞になることを予想しろというのは酷だろう。

 さらに行ってしまえばそもそもリリアが女性特有の日だったこと、恋敵が二人も現れて焦っていたこと、更に直前まで思い人と組手とはいえ間近で接していたこととそれを恋敵に邪魔された事などが心理的リミッターを外したため、ロイでさえこのような状況は計算外だった。


「決まってるでしょう、僕にとってリリアはね」


 そう言って言葉を区切る。

 これで愛する人、とでも言っていたら。

 そしてそれをリリアが聞いていたら暴走は一瞬で鎮火していたかもしれない。


 しかし、ロイの言葉は全く別物であり、リリアに届くほどの距離でもなかった。


「リリアは僕の家族ですから」


 そう言ったロイは、心の底から見せているというにふさわしい笑顔だった。


「……なら、未来の義妹を助ける必要がありますね」


 そう言ったのはレイナだった。


「先ほども言った通り命を懸ける覚悟はできています。

けれど正面突破で貴女が壁になるのでは、さすがにあなたももたないでしょう。

ですから私たちが壁になり、あなたは魔術態勢を利用してある程度近づいたら突っ込んでください。

目視可能な距離までは私たちが送り届けます」


 そう言って、レイナはロイの前に立つ。

 そのまま槍を振るい、飛来する魔術を数発切り落とした。


(くっ……重い!

こんなのを何発も打ち落とすなんて……。

身体が受けるダメージは減らせても打ち落とす際にかかる負荷までは減らせないでしょうに! )


 レイナは数発の魔術を切り伏せただけでも腕に痺れが走っていた。

 対してロイは汗一つ流すことなく同じことをやって見せていたのだがそこは地力の差だろう。


「ちっ……数が多い」


「しょうがない、今度おいしいお店にでも連れて行ってくださいね。

未来の旦那様なんだからそちらも地でお願いしますよ」


 思わず口調を崩して舌打ちするレイナの横にリアナが立ち、短剣で魔術を切り払う。

 一度目くばせをして双子は頷きあい、そして徐々にではあるが前進し始めた。


「せい! 」


 リアナが長剣で魔術の軌道をそらし、短剣で魔術そのものをかき消す。


「や! 」

 

 レイナは槍で突きを放ち魔術を破壊する。


「すっ! 」


 その背後で打ち落としきれなかった魔術をロイが切り伏せて、そうして三人はついにリリアを視界に入れる事が出来た。

 うつろな目で小さく何かを呟き続けている彼女を見て、ロイは胸元の薬瓶を取り出す。


 そして中に入っていた丸薬を一錠掌に載せて双子の肩をたたいた。


「頼みます」


 短いながらに信頼しているという意味を込めてそう言ったロイの前で、リアナが剣を構えながら一歩前進する。

 そしてレイナがロイに向き直り、訓練用の槍の先端を地面につけてニコリとほほ笑んだ。


「行きます! 」


 それを見てロイは地面をけり、そしてレイナの肩を台の代わりに使って跳躍する。

 そして飛び上がったロイに向けてリアナは槍を振った。

 

「つっ……」


 背中を強打されたロイは、勢いのままリリアのいる方向へ吹き飛ぶ。

 しかし飛距離は足りずに地面に下りた瞬間に魔術が降り注ぐ。


「させない! 」


 それをひと足先に駈け出していたリアナが切り伏せる。


「リリア! 」


 その隙をついてロイは、手に持った丸薬をリリアの口に放り込んだ。

 そしてリリアの口を押えたまま頭を振らせ、のどがなるのを聞く。


「…………」


 その結果、うつろだったリリアの目は閉じられ、ついにはその場で崩れ落ちてしまった。

 その光景を見てロイとリアナ、レイナはへなへなと地面にへたり込む。


「ど、どうにか事なきを得ましたね」


「どうにか?

事なき? 」


 ロイの言葉に周囲を見渡しながらリアナが口を開く。

 対魔術の加工がされているとはいえリリアの攻撃はさすがに耐えきる事が出来なかったのか、訓練場を取り囲んでいる壁はあちらこちらが崩れている。

 そしてそこから中をうかがうかのように兵士と市民が立っていた。


「あー、これは後始末が面倒そうですね……」


「ちょっと急用を思い出しました」


「あ、私もちょっとお腹がいたくなりました」


 そう言って逃げようとするリアナとレイナの二人を、ロイは肩をつかんで引きとめた。

 その表情からは逃がさないぞという言葉を読み取る事が出来る。

 さらに双子の行く手を阻むように、兵士たちがトンボと工具を手に立ちふさがっている。


「予定のキャンセルもトイレのキャンセルも僕がやっておくので後始末はお願いしますね。

僕はリリアを……」


 ロイがそう言いかけた瞬間にその肩を兵士の一人がつかんだ。

 そして工具を手渡し、更にどこからか引き連れてきていた使用人がリリアを担架に載せて運んで行ってしまった。


「……頑張ってここを直しましょう」


 泣きそうな声でそうつぶやいたのは、兵士長だった。

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