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透明都市アーカイブ―愛を売った男たち―  作者: 秀人


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第百話 透明都市アーカイブ

人間は、感情によって壊れる。

でも、“誰かを愛した痛み”ごと抱えて生きようとする。

 透明都市の朝は、静かだった。


 


 


 でも。


 


 


 その静けさは、昔とは違う。


 


 


 空っぽだから静かなわけじゃない。


 


 


 泣いたあとみたいな静けさだった。


 


 


 街には、感情が戻っていた。


 


 


 苦しそうに泣く人。


 


 


 誰かへ謝る人。


 


 


 笑いながら涙を流す人。


 


 


 みんな。


 


 


 “ちゃんと感じていた”。


 


 


 レンは、美月と並んで歩いている。


 


 


 朝の光。


 


 


 少し冷たい風。


 


 


 繋いだ手の温度だけが、やけにリアルだった。


 


 


 その時。


 


 


 スマートフォンが震える。


 


 


 アカネからだった。


 


 


 『店、来れる?』


 


 


 短いメッセージ。


 


 


 でも。


 


 


 どこか真面目な空気があった。


 


 


 ―――――


 


 


 黒い店へ着くと。


 


 


 アカネと雪斗が待っていた。


 


 


 珍しく、二人とも静かだった。


 


 


 レンは椅子へ座る。


 


 


 「どうした」


 


 


 アカネは少し迷う。


 


 


 そして。


 


 


 カウンターの下から、一冊の古いファイルを取り出した。


 


 


 黒い表紙。


 


 


 擦り切れている。


 


 


 そこには、銀色の文字。


 


 


 【透明都市アーカイブ】


 


 


 レンの胸がざわつく。


 


 


 アカネは静かに言った。


 


 


 「向こう側が消えた時」


 


 


 「これだけ残ったの」


 


 


 レンはファイルを見る。


 


 


 嫌な予感がした。


 


 


 アカネは続ける。


 


 


 「……感情回収者が、最後まで記録してたもの」


 


 


 店内が静まる。


 


 


 レンはゆっくりファイルを開く。


 


 


 中には。


 


 


 膨大な記録があった。


 


 


 誰が。


 


 


 いつ。


 


 


 どんな感情を捨てたか。


 


 


 そして。


 


 


 なぜ捨てたのか。


 


 


 全部。


 


 


 異様なほど丁寧に残されていた。


 


 


 レンはページをめくる。


 


 


 失恋。


 


 


 虐待。


 


 


 孤独。


 


 


 愛情。


 


 


 生きたかった人。


 


 


 死にたかった人。


 


 


 全部、人間だった。


 


 


 レンは苦しそうに息を吐く。


 


 


 その時。


 


 


 一番最後のページで、手が止まる。


 


 


 そこには、たった一文だけ書かれていた。


 


 


 【人間は、感情によって壊れる】


 


 


 レンは静かに読む。


 


 


 続きがあった。


 


 


 【でも、人間は】


 


 


 【感情によって、もう一度誰かへ手を伸ばせる】


 


 


 その文字だけ、少し滲んでいた。


 


 


 まるで。


 


 


 泣きながら書いたみたいに。


 


 


 レンはページへ触れる。


 


 


 胸が熱かった。


 


 


 感情回収者は。


 


 


 最後に、“人間を諦めきれなかった”。


 


 


 だから。


 


 


 全部返したのだ。


 


 


 痛みも。


 


 


 愛情も。


 


 


 人間へ。


 


 


 その時。


 


 


 アカネがぽつりと言う。


 


 


 「ねえレン」


 


 


 レンが顔を上げる。


 


 


 アカネは静かに笑った。


 


 


 「結局、人ってなんだったと思う?」


 


 


 レンは少し考える。


 


 


 そして。


 


 


 窓の外を見る。


 


 


 泣いてる人。


 


 


 笑ってる人。


 


 


 抱きしめ合う人。


 


 


 全部、不器用だった。


 


 


 でも。


 


 


 ちゃんと、生きていた。


 


 


 レンは小さく笑う。


 


 


 「……めんどくさい生き物」


 


 


 アカネが吹き出す。


 


 


 雪斗も少し笑った。


 


 


 レンは続ける。


 


 


 「でも、多分」


 


 


 美月の手を握る。


 


 


 温かい。


 


 


 ちゃんと痛くて。


 


 


 ちゃんと愛しい。


 


 


 「それでいいんだと思う」


 


 


 その瞬間。


 


 


 透明都市へ、朝の光が静かに差し込んだ。

読んでいただきありがとうございます!


第百話です。

ここまで積み重ねてきた、“透明都市”という物語の核心へ辿り着きました!

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