表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
からくり競艇〜サラリーマン、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
サラリーマン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/42

出力(パワー)か、精密(ロジック)か


「佐伯さん。……昨日の『調整』、ありゃあ認めますよ」

模擬レースのピット裏。大道寺カイが、最新鋭のレーシングスーツに身を包み、健太の隣に立った。

18歳の瑞々しい肉体から溢れ出すマブイの波動は、近くにいるだけで空気が震えるほどだ。

「けど、実戦は別だ。マブイ値3,000のおっさんが、20,000オーバーの俺に勝てる道理はない。……物理法則が、そう言ってる」

健太は、ボロい練習艇のカウリングを雑巾で拭きながら、眼鏡を指で直した。

「……物理法則か。経理の世界じゃ、数字は嘘をつかない。だが、計算式を間違えれば、答えは簡単に狂うぞ」

「……ふん、せいぜい溺れないように気をつけてな」

カイは不敵に笑い、弾けるような加速で水面へと滑り出した。

レース開始:1200mの戦場

石原校長の号砲とともに、6隻の練習艇がスリットを駆け抜ける。

大外から異次元の加速を見せたのは、やはりカイだった。

「ははっ! 消えろよ、おじさん!」

カイのマブイが咆哮する。圧倒的な出力。直線スリットでの伸びは、健太のボートを瞬時に置き去りにした。

観戦していた他の生徒たちが「決まった」と確信した、その時だ。

第1ターンマーク。江戸川特有の「逆流」と「うねり」が、牙を剥く。

「……ここだ」

健太はスロットルを戻さなかった。

普通なら転覆する速度。だが、健太の右指は、まるでマシンの神経系と直結したかのように、マブイの流量を「0.01%刻み」で乱高下させた。

バウンドする艇体。だが、健太が波の頂点で一瞬だけ出力を抜き、谷間で一気に叩きつける。

それは、暴走族時代に雨の第三京浜で、ハイドロプレーニング現象すら味方につけて駆け抜けた「死線のダンス」だ。

「なっ……!? 減速してない!?」

カイの目が見開かれる。

パワーがありすぎるカイは、うねりに足元を救われ、艇体が大きく暴れる。出力を制御しきれず、ターンが膨らんだ。

その、わずか数センチの隙間。

健太のボートが、吸い込まれるように内側インへ刺さった。

激しい水飛沫が健太を打つ。ネクタイを締めていた喉元が熱い。

「……マブイの量じゃない。……使い道の問題だ」

健太の「3,000」のコアマブイが、限界を超えて発光する。

出力の低さを、1ミリの狂いもない最短コースのトレースで補う。

第2マーク。焦ったカイが強引に被せに来る。

接触すれば、強固なマブイ防壁バリアを持つカイが有利だ。

だが、健太はそこで、あえて**「エンジンをカット」**した。

「……えっ!?」

失速する健太。カイのボートがその前を空振りするように通過する。

次の瞬間、健太は慣性で向きを変えた艇体に、全エネルギーを再点火リブートした。

「サラリーマンを、なめるなよ……!」

再加速の衝撃。

膨らんだカイの内側を、最短距離で突き抜ける。

ゴールラインを駆け抜けたのは、白い飛沫を浴び、スーツをボロボロにした「おじさん」の艇だった。

レース後

ピットに戻ったカイは、ハンドルを握ったまま動けずにいた。

「……なんでだ。出力は俺が7倍も上だったはずだ……」

健太は艇を降りると、よろけながらも眼鏡をかけ直した。

「……経理の仕事と同じだ。予算マブイが少なくとも、無駄遣いを削り、最適なタイミングで投資すれば、赤字にはならない」

健太はカイの肩を一度だけ叩き、石原校長の方へ歩き出した。

足元では、鉄が「なかなかやるじゃねえか」と言いたげに、健太の裾を引っ張っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ