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からくり競艇〜サラリーマン、魂のフルスロットル〜  作者: 水前寺鯉太郎
プロ駆け出し編

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23/42

『魔境江戸川・八百八州の刺客』

2041年7月。東京・江戸川競艇場。

日本で唯一、河川をそのまま利用したこの水面は、上げ潮と下げ潮がぶつかり合い、不規則な「うねり」がレーサーを飲み込む魔境だ。

「……随分と賑やかになったな、江戸川も」

健太は、ピットで『ハヤブサ』のエンジンカウルを開け、鋭い眼光で内部を点検していた。火野の連絡通り、マブイの流量制御弁レギュレーターに、目立たないが致命的な「ヤスリ跡」があった。

「フゴーッ! フゴーッ!!」

スエがピットの入り口に向かって吠える。

そこには、全国から集結した猛者たちの姿があった。

続々と現れる強敵たち

「あら、江戸川の泥水は相変わらずね。……佐伯さん、私の『精密ターン』の邪魔だけはしないでちょうだい」

岡山の長野友里恵が、44号機のペラを光らせながら通り過ぎる。その傍らでは、メカニック兼任の薮本明子が、鋭い視線で健太のハヤブサを分析していた。

「……いいエンジンね。でも、調整が甘い。私ならもっと『差し』に特化させるわ」

さらに、群馬支部からは「スタートの神」蜂須賀美恵子と、職人気質の神崎裕次郎。

「36歳の新人さん。江戸川のゼロ台スタート、あんたに耐えられるかい?」

兵庫からは、マブイコントロールの天才・福田光帆と、不気味なレース運びを見せる井上忠興。

「前方で足を溜めて、最後にお前を食い切ってやるよ」

そして――。

「……佐伯。約束通り、全速で叩き潰しに来たぞ」

福井から特別招待枠で参戦した、若狭の総帥・中島和樹。その後ろには、マブイの気配を消した沼田一恵も立っている。

麗華の参戦と決意

「ちょっと! 全員で寄ってたかって、うちの『新人』をいじめないでくれる?」

真っ赤なレーシングスーツに身を包んだ霧島麗華が、健太の隣に陣取った。

「佐伯。ハヤブサの不調は、白石に調べさせてるわ。……あなたはレースに集中しなさい。江戸川のうねりは、福井の淡水ほど優しくないわよ」

「……わかっています、霧島さん。……借方は『細工された機体』、貸方は『全員ぶち抜く気合』。……帳尻は、水面で合わせます」

第一レース:濁流の洗礼

健太は初日、第12レース「ドリーム戦」に出走。

1コースに中島(福井)、2コースに麗華(東京)、3コースに長野(岡山)、4コースに蜂須賀(群馬)、5コースに井上(兵庫)、そして6コースに健太。

江戸川の下げ潮が最高潮に達し、水面には直径2メートルの「渦」が発生している。

「……スタート!!」

蜂須賀がコンマ05の超抜スタートで飛び出す。だが、江戸川のうねりが全艇を容赦なく弾く。

健太は、細工されたレギュレーターの「遊び」を逆に利用し、マブイの供給をあえて断続的に行う**『パルス・スロットル』**を敢行した。

「スエ! どこだ、一番静かなラインは!」

ピットでスエが吠える。その声を無線越しに聞き取り、健太は渦の「中心」へと突っ込んだ。

「狂ってる……! あの渦に飛び込むなんて!」

福田光帆が叫ぶ。

だが、ハヤブサは渦の回転を遠心力に変え、弾丸のように1マークを立ち上がった。

細工を施した犯人が計算し得なかった、健太の「現場の即興力」。

「……サラリーマンを、なめるなよ……ッ!!」

初戦、死地から生還した健太が、全国のスペシャリストたちを震撼させる。

だが、ピットの影で、ハヤブサの予備パーツを握りつぶす「黒い手袋」があった。

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