33話 ピンチに魔法が発動しました。
「さすがだね、ビアンカちゃん」
「これくらい普通だろ。でも、なんか大変なことになってないか?」
「それがねらいだもん」
「わかんねぇ……」
ビアンカちゃんに頼んでいたこと。
それは、『私とジェフがいなくなった』と、みんなに伝えてもらうことだ。
そうすれば間違いなく、子どもたちだけで話は終わらない。
子ども二人がいなくなるなんて言うのは、かなりの大事だ。
そうして大人が出てくるという状況を、私は作り出したかった。
ここまでは、うまく運んでいる。
ただまだまだ望む展開までは、壁がたくさんある。
最後には、どどーんと大きいものが控えているし、そればっかりは私やジェフにどうにかできることじゃない。
とりあえず私たちに今できるのは、なんとかして長い時間、隠れ切ることだ。
だから再び静かに息を潜めて、私たちはひたすらに待つ。
そうしているとまた、外で扉の開く音がして、私とジェフは顔を見合わせる。
黙っていれば、ばれやしない。
私はそんなふうに確信していたのだけれど、反響する足音はどういうわけか、こちらに近づいてくる。
そしてついには、倉庫の扉が開かれた。
私が誰かとちらり確認すれば、そこにいたのはよりにもよって、カイルさんだ。
彼はなんでも見通しそうな鋭い目つきで、辺りを振り見たあと、いくつかの木箱を避けるなどして、中の捜索を始める。
私はごくりと息を飲む。
それは静かな空間にははっきりと響いてしまって、私は青ざめる。
これは終わったかもしれない。
そう覚悟していたら、一本の剣を手にして、カイルさんは去っていった。
どうやら違う目的だったらしい。
生きた心地がしないくらい、息が詰まっていた。
だから私は大きく安堵の息をつくのだけど、そこで袖がやたらと握り込まれていることに気づいた。
「く、くらい……!」
カイルさんが扉を完全に閉めていったせいだ。
真っ暗になったのを怖がっているらしい。
私はすぐに扉を開けるため立ちあがろうとするが、ジェフが離してくれない。
それで私は仕方なくもう一度しゃがもうとするのだけれど、服の袖が何かに引っかかっていたらしい。
そしてそれは思いがけない危機を生む。
「あっ」
思いのほかの強さで引っ張られたことにより、中段の木箱がずりっと動いたのだ。
「あぶない!」
私はそう叫び上げる。
「……へ」
同時、全く反応できていないジェフに覆い被さる。
私はどうなっても仕方がない。だからなんとかなって!
そんな思いだったのだけれど、どういうわけか痛みは襲ってこなかった。
それで私が後ろを振り見れば、箱はなぜか横に逸れて、落ちている。
誰かが助けてくれたのかと思うが、そんな人はいない。
ただどういうわけか、腹の底が熱くなっている。
「……な、なんだぁ? なんかまぶしかったような」
と、ジェフが呻きながらに漏らす。
それで私は、一つの可能性に気づいた。
この腹の底の感覚は、魔法を使おうとして失敗した時のそれと似ている。
もしかすると、なにかしらの魔法を使えたのかもしれない。
木箱が横に落ちたわけだし、風魔法とか?
私はそんなふうに考えながら、身体に残る感覚を辿ってみたりする。
そうして少し、「……重い」とうめかれて、私は跳ね起きた。
「ごめんジェフ、だいじょうぶ!?」
「あ、あぁ。どこも打ってないし。アイは?」
「私も平気だよ」
ジェフは起き上がりながら、乱れた髪をただす。
どうやら、私が魔法を使ったことには、気づいていないようだったから、ほっとした。
たぶんこの歳で使うのは、普通じゃないしね。
「こっちにいこ」
「え、あぁ、いいけど」
私はジェフの手を引き、箱の崩れてこない安全な場所に移ろうとする。
と、そのときのことだ。
がらりと、倉庫の扉が開けられた。




