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3-36.『サリトス:王たる孤狼は最後に眠る』

4/7 本作の書籍版『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索というものを教えてやろう』が発売ですッ!(7日が日曜日なので入荷予定日は5日頃になるようです)


また、4/1~ 秋葉原スープカレーカムイさんとのコラボも始まりますッ!

あわせてよろしくお願いしますッ!!


「我が恩讐の炎に抱かれて死ぬがいい」


 デュンケルは火柱を見つめながらそう告げて、右手に残った炎の残滓を振り払う。


 明らかな大技。

 並の相手であればこれで決着だ。


 火柱が落ち着けば、そこには黒こげになった緑狼王が横たわる――そう思っていた。それは俺だけではないだろう。


 だが――


「GAAAAAAAAAA――……ッ!!!」

「バカな……ッ!?」


 火柱の中から、叫び声をあげながら緑狼王(りょくろうおう)が飛び出してくる。

 思わず、デュンケルは声をあらげた。


 全身が焼けただれ、血が噴き出し、普通であれば死んでいてもおかしくないほどの見るも無惨な姿。そんな姿になりながらも、その双眸(そうぼう)は死ぬことなく輝く。

 しかもそれは、死に物狂いというような狂気に駆られたものではなく、臣下の前で無様を晒すわけにはいかないという矜持の輝きだ。


 戦闘中だというのに、俺はその気高さに思わず敬意を抱いた。

 だが、すぐさま正気に戻り剣を握り直す。


 もしかしたらデュンケルも、その堂々たる王の振る舞いに驚きと敬意を抱いていたのかもしれない。

 飛びかかってきているというのに、反応が薄い。


「ぬおおおおお――……ッ!!」


 そこへ、ゼーロスが割って入り、緑狼王を拳で殴りつけた。


「デュンケルッ、なにを呆然としておるわいなッ!」

「……ッ、すまないッ!」

「ワシの魔法陣からとっとと離れるんじゃ」

「魔法陣?」


 デュンケルが訝しむ。

 それを聞いていた俺も、眉を顰めた。


「確実にしとめるわいなッ!」


 ゼーロスは手に持っている両手斧――タングルバスターの柄を地面に付けて、告げる。


「タングルスソーン」


 瞬間、斧を中心にして地面に魔法陣が展開した。

 決して範囲が広いわけではない。だが、今の緑狼王にとっては立ち上がるのも辛いようだ。逃げようとしているようだが、動けていない。


「巻き込まれてもしらんわいな」


 何かする――それに気づいたデュンケルは、魔法陣の外へと飛び退く。


「発動」


 歯を食いしばって立ち上がる緑狼王を確認してから、ゼーロスがその言葉を口にする。

 すると、魔法陣から植物の蔦が生えてきて、緑狼王を絡め取った。


「バドッ! いつでもいいわいなッ!」

「こっちも準備はできてるけど……どうなってもしらねぇぞ?」

「うむッ! こやつの矜持に応えてやらねばなるまいて。頼むわい」


 バドは小さく嘆息すると、ゼーロスの元へと駆け寄って手を掲げる。


「ブースト」


 その呪文はバドが手に入れた杖――トリスメギストスの呪文効果発動のキーワードだ。

 トリスメギストスの呪文効果は、まず『コンセントレート』という呪文を使う必要がある。これが起動すると、およそ十秒の間、アーツもブレスも使えなくなるらしい。

 十秒以上経ったあとで、ブーストと口にすると封印されていたアーツやブレスが解禁され、その直後に最初に使ったものの効果が増大するという。


「戦神の祝福よッ!」


 そうして、バドが使ったのは、対象者の戦闘能力を一時的に高めるもの。

 効果の増幅されたそれを受けて、ゼーロスは両手斧を構えた。


「こりゃすごいッ! チカラがモリモリ湧いてくるが……ちと、湧きすぎだわい。ワシじゃなかったら持て余しそうだわいなッ!」


 そう言いながら、ゼーロスはバドに離れるように言うと、全身にチカラを籠める。


「気高き狼の王よ……その在り方へのワシなりの敬意よ……」


 ゼーロスが持っていた斧が、光り輝く。


「これがッ、今のワシが振るえる最強の一撃……ッ!!」


 左足を半歩前に出し、地面を踏みしめる。

 それだけで周囲に微震が起き、踏みしめられた部分はわずかに凹み、地面に小さなヒビが入った。


開闢(カイビャク)豪激斬(ゴウゲキザン)……。

 どぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………ッ!!!!」


 そして、その斧を力任せに振り抜いた。

 その一撃は、蔦に絡め取られ、身動きのとれない緑狼王を完全に捉える。


 地面ごと切り裂かれた緑狼王は、その激しい衝撃に、大量の血をまき散らしながら中央を舞う。


 それでも、切断までは至らなかった。


 緑狼王は地面に叩きつけられ、胸に袈裟懸けの深い傷を負い、激しく流血しながらも、立ち上がった。


 もはや生きているのが不思議なほどの姿。


 その緑狼王が、俺たちを見る。

 まるで一人一人を見定めるように。


 狼の双眸は不思議と澄んでいる。

 それから、一瞬微笑んだような顔をした気がした。


 そして――緑狼王は遠吠えをあげる


「AWooooooooN」


 戦闘中にあがったものと比べて、とても澄んだ声だ。

 気高く美しいその声のあとで、周囲の狼たちも遠吠えを始める。


 迷宮内に響きわたっているであろうそれが、俺にはまるでこちらを祝福するように聞こえた。


 近くにいたグリーンヴォルフも同じように遠吠えをあげる。すると光に包まれゆっくりと煌めく粒子へ変化して消えていく。


 その狼だけでなく、眷属の狼たちはみな遠吠えをあげながら、光の粒子となって消えていった。


「これは……?」


 やがて遠吠えを終えた緑狼王は、身体を引きずるように、部屋の奥へと向かっていく。


「ついて行ってみよう」


 それを見て、俺が皆に声を掛ける。

 反対の声はなく、俺たちは黙って緑狼王のあとを追う。


 やがて、この広間の一番奥にたどり着く。

 そこにあったのは、魔物の頭蓋を思わせる絵の描かれた大きな扉だ。

 緑狼王は前で立ち止まり、こちらへと振り返った。


「WAFU」


 まるで人なつっこい犬のように、そう一声吠えると、緑狼王はその場で眠るように丸くなる。


 やがて、その身体は眷属たち同じように光に包まれ、粒子となって消えていった。


 緑狼王の姿が完全に消えてなくなると、大きな扉に描かれていた頭蓋の絵もゆっくりと消えていき、絵がなくなりきるなり、ガチャリと鍵の開く音がした。


「……勝てた……ということか」

「そうみたいだね。最後の最後まで、カッコいい狼だったよ」


 デュンケルの漏らした言葉に、ディアリナがうなずく。


「どうする? 先に行くか、一度戻るか?」


 俺が皆に訊ねると、答えは一つだった。


「さすがにこの後に罠はないでしょうよ。階段があるなら、拝んで帰ろうぜ」


 フレッドの言葉に全員がうなずくのを見て、俺もうなずき返す。


「では、行こうか」


 こうして俺たちは扉を開けて先に進んだ。




 扉の先にあったのは小さな小部屋だった。

 その小部屋の一番奥、右手の物陰にはアドレスクリスタルが設置してある。

 さらに、左手には見慣れた古木。もちろん、うろの中には階段がある。


 俺たちはアドレスクリスタルを腕輪に登録してから、階段へと向かう。


「さて、これまでのパターンならこの先はエクストラフロアという丸太小屋のような空間のはずだが……」


 階段の最奥にたどり着き、いつものようにネクストと口にする。


 その先にあったのは、やはり丸太小屋のようなフロアだ。


「これは……愚王を倒した時と同じ宝物庫か」

「そのようです。箱が一つ開いているようですが」


 アサヒに言われて部屋を見渡すと、確かに一つ箱が開いていた。


「開いている? 俺には全て閉まっているように見えるが」


 だが、それをデュンケルが否定する。


「このダンジョン特有の、見てる人によって異なる光景ってやつさね」

「だろうな。開いてる場所を見るに、愚王を倒した時にもらったところじゃないか?」

「ディアリナ嬢ちゃんとケーンくんの言う通りだわね。それなら愚王の討伐報酬をもらってないデュンケルくんには全てが未開封ってコトになるんでしょうよ」


 ともあれ、俺たちはそれぞれに報酬をもらうことにする。


 思い思いに動き始めると、バドが中央の柱に掛かれている言葉を読んだ。


【気高き狼王を打倒せし者よ

 あれもまた王の姿の一つなり

 しかと胸に刻めたならば

 好きな箱を箱を一つ選んで開けるがいい】


 王の一つの姿――か。

 確かに、どれだけ傷つこうとも、その最後の最後まで気高さを感じた。

 あの姿を見れば、忠義を誓い尽き従う者もいるだろう。


 だが、どんな者でもなれるのかというと、そうでもない。

 あれは群れの上に立つことの責任と覚悟を示し続けているのと同じだ。


 覚悟が折れ、信念が曲がり、権力に溺れてしまえば、フロア3の愚王と化す。

 緑狼王のようになるのは難しいが、愚王となるのは容易。


 ままならないと思うが、権力を持ち人の上に立つというのは、そういうものなのだろう。

 立つなら立つ相応の覚悟と意志が必要なわけだ。


 ……俺は、一度逃げた身ではあるのだが……。


「サリトス。お前は何を選んだ?」

「ん?」


 デュンケルに声を掛けられて、思案の海から浮かび上がる。


「考え事をしていてな。まだ選んでいない」

「人の上に立つコトでも考えていたか?」

「そんなところだ。緑狼王のようにはなれないな、と」

「なる必要はないだろう。あのような在り方は、覚悟だけでなく素質も必要だろうからな」


 どうやらデュンケルにも思うところがあるようだ。

 薄々と思っていたが、この男も貴族の出身なのだろう。


「ともあれ、だ。

 今は報酬だ。お前以外は選び終わったぞ」

「それは申し訳ないな」


 考え事をしている間に、わりと時間が経ってしまっていたようだ。

 もっとも、俺が選ぶものは決まっている。


「では、片手剣を貰っていくとしよう」


 緑狼王に刺した剣は回収できたものの、デュンケルの炎に焼かれ、ゼーロスの強烈な斬撃にさらされて、ボロボロだった。


 (タチ)はまだ練習中だし、新しく購入する費用を思えば、ここで報酬として貰うのが一番良さそうだ。


「すまない。待たせた」

「構わんわい。さて、次の扉を開けるわいな」


 扉の前に集まるみんなと合流すると、ゼーロスが扉を開ける。


 そこは廊下だ。

 廊下の途中には青い扉がある。

 そして、一番奥には大きめの扉だ。


「一番奥の扉に、何か書いてあるね」


 ディアリナが足早に最奥まで行くと、そこに書かれていたメッセージを読み上げる。


【第一階層を踏破せし者よ

 まずは ここまでたどり着いたことを 祝福しよう

 ここから先は第二階層

 降りればまたしばらく引き返すことはできなくなる

 そこの青い扉より 一度帰還することを お勧めする】


「……相変わらずアユムは親切というか、過保護というか……」

「だけど、わざわざ警告してくれたんだ。素直に帰ろうぜ」


 どこか呆れたようなディアリナに、バドが軽く伸びをしながら提案する。


「そうだな。これまでの流れを思えば、この疲労のまま進むってのは良いコトないだろうさ」


 ケーンも賛成し、他のみんなも賛成していく。

 みんなが話をしている横で、俺はデュンケルに声を掛ける。


「SAIはなかったようだな、デュンケル」

「それでいい。お前達とやり合うのは本意じゃないからな」

「同感だ。こちらとやり合わない形で見つけてくれるコトを祈る」

「ふっ……」


 お互いに笑い合っていると、ゼーロスがみなに声を掛けた。 


「次の階層からまたそれぞれのチームでやるんだろう? だったら、スタートは合わせたいわな」

「そうですね。でしたら、明日はお休みにして明後日の朝に集合して……というのはどうでしょう?」


 続くアサヒの提案に、反対するものはいない。


「ならば、そういうコトにして今日は戻るとするか」


 こうして俺たちは青い扉をくぐる。

 緑狼王と戦っただけではあったが、ずいぶんと疲れた。


 ラヴュリントスのエントランスでもある洞窟から外に出て、そこで解散だ。


 全員が思い思いに動き出したところで、ふと――俺は気づいた。


「あ」

「どうしたんだい、サリトス?」

「なんかあったの?」


 二人が不思議そうにこちらを見てくる。

 個人的にはとても重大なことなのだが……。


「いや……ハイタッチ、しなかったな、と」

「……したかったのかい?」

「変なとここだわるよね、旦那」


 ディアリナとフレッドはそう言って苦笑するが、小さく手を掲げてくれる。


「でもま、あたしたちだけでもやろうじゃないか」

「そうだわね。ほれ、旦那」

「……ああ」


 付き合いの良い二人に感謝しながら、俺も二人に合わせて手を挙げる。


「おつかれいッ!」


 そうして――晴天の下、俺たちの手がぶつかり合う音が響き渡った。

ミーカ「決着……ついたね☆」

ミツ「素晴らしき戦いでしたね」


アユム「興奮しすぎてばらまいたポップコーン。お前らで片付けろよ」


次回は第三章のエピローグの予定です。


4/7 (7日が日曜日なので入荷予定日は5日頃になるようです)

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また、4/1~

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