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3-34.『サリトス:座して待つ森緑の王は乱戦を眺める』

4/7 本作の書籍版『俺はダンジョンマスター、真の迷宮探索というものを教えてやろう』が発売ですッ!

また、4/1~ 秋葉原スープカレーカムイさんとのコラボも始まりますッ!

あわせてよろしくお願いしますッ!!


「ヴァルト」

「サリトスか」


 まだ業務開始前の探索者ギルドの裏口。

 業務の準備の為に、この時間に裏口の鍵を開けようとしていたヴァルトに、俺は声を掛ける。


「どうした?」

「フロア5のボスに挑んでくる」

「そうか」


 ヴァルトはそれだけ返すと、眼鏡のブリッジを上げ、裏口の鍵を開けた。


「入るか?」

「いや。その報告だけだ。必要だろう?」

「必要ではあるが、必須ではないな。おまえの律儀さには頭が下がる」


 鍵を上着の内ポケットにしまい、こちらへと向き直りながらヴァルトが肩を竦める。


「ベアノフが負けた相手だぞ?」


 ギルドマスターは色々問題のある人物ではあるが、実力はあった。そんな相手が負けたのだから――というヴァルトの心配は分かる。


「負けた理由は分かっている。フロア5のボスは、そもそもソロで戦う場合、かなり厳しい相手だったというだけだ」

「ふむ」


 右手の親指を自分の顎に、人差し指を上唇のあたりに置くようにしながら、ヴァルトが小さくうなずく。

 口を出す気はないがイマイチ納得できていない――そんな様子だ。


 そんなヴァルトに声を掛けようとした時、第三の声がそこへ加わった。


「その男の言っているコトは事実だ」

「ギルドマスター」


 新たに現れたその低い声の主は、ベアノフ=イング。

 ちょうど、話題になっていた男だ。


「サリトス=サボテニア。挑むというからには対策があるのだろう?」

「無論。だがこの方法……気が付きさえすれば、お前ならソロで討伐できたかもしれんぞ?」

「フンッ、負け犬に遠吠えをしろと言うのか?」

「そんなつもりで言ったわけではないのだがな」


 睨みつけるように目を眇めるベアノフに、俺は肩を竦めた。


「まぁいい。狼の王を無事に倒せたのなら、俺のところに顔を出せ……サリトス=サボテニア。ヴァルトともども話がある」

「了解した」


 俺はベアノフの言葉にうなずき、ヴァルトは訝しげに訊ねる。


「話とは?」

「お前らが俺を追い落とそうとしているのは気づいていたさ。だから、手間を省いてやろうと思ってな」


 ベアノフは面倒そうに答えると、話は終わりだと言うように裏口の扉を開けてギルドの中へと入っていった。


「ふむ。腐ってもギルマスか。独自の情報収集ルートでも持っているのだろう」

「我々は少しばかり彼を侮っていた……というコトか?」

「さてな。それは、俺が帰ってきたあとの話とやらで分かるだろう」


 小さく息を吐いて、俺は(きびす)を返す。


「……用は終わった。ではな」


 ベアノフの乱入はあったが、この場に来た目的は果たした。

 去ろうとする俺の背中に、ヴァルトが声を掛けてくる。


「武運を」


 それに俺は軽く手を挙げて応え、みんなと合流すべく歩き出した。





 ラヴュリントス。フロア5。ボス扉前。


 俺、ディアリナ、フレッド、バド、アサヒ、ケーン、ゼーロス、デュンケル。全員がそこに揃っている。


「バドたちもクロバーの大樹は全部壊してあるな?」

「もちろん。準備万端だ」


 バドたち四人を見れば、全員がうなずき返してくれた。


「そういうサリトスたちはどうなんだ?」

「こちらも万全だ」


 問われ、俺はそう答える。


 俺たちもバドたちも、愚王を倒した時の報酬の装備を持ってきている。ディアリナとフレッドは花園で手に入れた武器も、だ。


 ちなみに俺が花園で手に入れた指輪は、戦闘に向かないのでアジトの保管庫の中にある。


「……くくくく、俺だけ今まで通りだッ!」


 なぜかビシっとポーズをキメるディンケルに、ゼーロスが笑う。


「デュンケル……お前さんも愚王を倒せばいいんだわいな」

「気にするな。おまえたちも知っての通り、俺はあまり武具を使う戦い方をしないからな」


 それでも、女神の腕輪の中に手持ちのポーションなどを多めに入れてきているそうだ。

 良くない噂話が多い男ではあるが、探索者としての心得がないわけではない。

 むしろ、これまでをソロで乗り越えてこれるだけの実力を持っている。正しく味方となってくれるのならば、これほど頼りがいのある探索者は、そういないだろう。


「さて、みなの準備が問題ないのであれば――」


 俺は周囲を見渡しながら、扉に触れる。


「行くとしようか」


 開けると同時に、中から吹き荒れる威圧感。

 それを気にせずに扉を開け放ち、俺たちは中へと入る。


 扉を開けて真正面。

 恐らくはこの広い部屋の中央だと思われる場所。

 そこに、緑色の毛につつまれた、かなり大型の狼がいた。

 周囲の緑に溶け込むような毛皮とは裏腹に、その赤い双眸だけは強烈な殺意と威圧を灯し、爛々と輝いている。


「あれが、緑狼王(りょくろうおう)だ」


 デュンケルがそう告げると同時に、全員が身構える。


「周囲の木は倒れているのは目視で確認できた。俺がギルマスとやった時のような速度での増援はないだろう」


 この部屋の中にも二本の巨大なクロバーの木があった。増援がゼロにはならないだろう。

 それでも、周囲に立っていた木からも増援がでてくるのに比べればマシだ。


 俺はどの作戦でいくかを決めて、口にする。


「ならば、まずは眷属たちの数を減らすという当初の作戦を実行するとしよう」


 周囲にいるのは、リーフヴォルフとグリーンヴォルフの群れ。

 これだけ戦力が揃っているのならば、ある程度の数で襲われても対処はできる。


「数が減った時点で、手が空いた者は緑狼王へと向かえ。但し、四人までだ。残りは周囲の眷属の数を減らすのを優先しろ。

 フレッドとケーンは、二人で王に向かうな。片方は必ず眷属を担当するように」


 一息に告げ、そして俺は叫ぶ。


「最終目標は全員生存の上での勝利だッ! いくぞッ!」


 それに、全員が声をあげる。


「応ッ!!」


 そうして、俺たちは動き出した。




 俺に目掛けて躍りかかってくるグリーンヴォルフを一閃して切り捨てる。

 使っている剣は、(タチ)ではなく、使い慣れている片手剣だ。


 続けてリーフヴォルフとグリーンヴォルフが同時に迫ってきていた。


 俺はそれを見据えながら、剣にルーマを込める。


走牙刃(ソウガジン)双月(ソウゲツ)ッ!」


 リーフヴォルフに向けて剣を振り上げ、返す刀でグリーンヴォルフに向けて剣を振り下ろす。

 どちらの攻撃からも、ルーマの乗った剣圧が放たれる。


 間合いの外からの剣戟で二匹の狼をしとめたのを確認した俺は、素早く周囲に視線を巡らせた。



 ディアリナは、いつもの愛剣ではなく愚王撃破報酬として手に入れた装飾のない両手剣ランツクネヒトを振るう。

 切れ味も強度も、普段使いのモノよりも高い剣だ。


 ラヴュリントスの中で死んでしまうと、武具などは失われてしまう可能性が高い。

 なのでディアリナのランツクネヒトに限らず、俺たちラピーデ・ラッツォは普段使い用とボス攻略用と、使う道具を分類して使うことに決めていた。


 だからこそ、今日みたいな時に出し惜しみはしないのだ。

 ディアリナも存分にランツクネヒトを振り回す。


「ははッ! ご機嫌じゃないかッ! 試し斬りは何度もしてたけど、実践で使うとまた格別だねッ、この剣はさッ!」


 切れ味も強度も高く、そして軽い。だが、ただ軽いわけでもない。

 ある程度の重量を保ちつつも、それは振るった時の手応えや重心なども考えられているそうだ。

 おかげで振り回していて気持ちいいというのがディアリナの談だ。


「がはははははッ! 今更、緑色のヴォルフどもがどれだけ来ようと問題ないわいなッ!!」


 ディアリナの横で、見た目だけなら木製に見える両手斧を振り回しているのは、ゼーロスだ。

 木製の斧に蔦が絡みついたようなデザインのあの斧の名前は、タングルバスターというらしい。

 あれもまた愚王討伐での報酬だと聞いている。

 見た目に反して、切れ味も強度も高く、斧らしい重量もしっかりあるらしい。


「さぁ、どんどん減らして行くわいなディアリナッ!」

「応ともさッ!」


 二人は楽しそうに笑いながら、その巨大な得物を振り回した。




「王を守ろうとするその忠義、愚弄するつもりはありません」


 飛びかかってくる狼たちに対し、(タチ)を一振りするだけで、その首を切り落としているのはアサヒだ。


「だからこそ、あなた方へは敬意を持って剣を振るいましょう」


 一刀一殺。

 正確無比ともいえるその剣は、陽光でその白刃が煌めくたびに、狼たちの首を舞わせた。


 (タチ)はその切れ味もさることながら、俺やディアリナが普段使いしている剣と違う扱いが求められる。

 アサヒを見ていると、(タチ)を使えば容易に首を切り落とせそうだと錯覚するが、あれはそんな簡単なものではないだろう。


「忠義と共に挑みくるなら、忠義と共に果てなさい。それが私なりの、あなた方への慈悲です」


 宣告と共に、新しい狼の首が宙を舞った。




 デュンケルは両手に蒼い炎を灯すいつものスタイルで狼を蹴散らしていた。


 その蒼い炎は、時に弾となって放たれる。

 その蒼い炎は、時に手から伸びて剣となる。

 その蒼い炎は、時に薄く広がり盾になる。


 その変幻自在ともいえる炎の操作に、デュンケルの軽やかな動きが合わさり、どこか曲芸めいている。


 だが、その曲芸はただ見目が楽しいだけのものではなく、容赦なく敵を焼き(ほふ)る為の技だ。


 彼の周囲には次々と、焼け焦げた狼の亡骸が積み重なっていく。

 まるで黒いモヤとなる順番を待っているようだ。


「いいねぇ、デュンケル。武術家でもないのにその動き。今度手合わせしようぜ」


 そんなデュンケルに対して、横から軽い調子で話しかけるのはケーンだ。

 普段は動きやすく軽そうな靴が多いケーンだが、今日は灼熱の炎を思わせる色と意匠の脚具(グリーブ)を身につけていた。

 あれも、愚王討伐の報酬なのだそうだ。名を灼甲(しゃっこう)鎧足(がいそく)


「そらよッ!」


 飛びかかってくる狼を、ルーマを纏わせた蹴りで射抜くように蹴り飛ばす。

 ケーンの足もまるで変幻自在だ。


 拳の技も使わないわけではないが、ケーンの神髄はその足技だ。

 つま先で、(カカト)で、甲で、脛で……様々な部位を使い、様々な角度で狼を確実に打ちのめす。


「フッ、手合わせする気はない。だが――お前の足も、なかなかに強力なようだ。褒めてやろう」

「ありがとよ。ヘタな鈍器よりも強いって自負はあるぜ」


 デュンケルに対する言葉通り、振り下ろされたケーンの踵は、まるで鈍器で叩いたかのように狼の頭蓋を砕いた。




「このメンツだと討ち漏らし少ないわねぇ……」

「ま、おれたちが温存できるのはいいコトだろ」

「違いないな」


 前衛の猛攻のおかげで、フレッドとバドの出番はあまりない。

 だが、二人が交わした言葉の通り、可能な限り温存し、緑狼王に全力を向けられる状態であるのは、悪いことではなかった。



「さて」


 周囲に視線を巡らせつつも、自分に迫る狼は確実に斬り伏せる。

 徐々に、襲いかかってくるペースが減ってきている。


 ……どうやら、俺のところへくる狼はかなり薄くなっているようだ。


「ならば」


 口の中で小さく独りごち、俺は緑狼王へと視線を向ける。

 向こうはその意味に気づいたのだろう。


 余裕を持って座っていた王は、ゆっくりと立ち上がった。

 こちらから視線を外さないのは、この瞬間は俺を一番に警戒しているからだろう。


「いいだろう」


 俺は呟き、ためらわずに地面を蹴る。


「くはははッ! 行くのだなサリトスッ! すぐに俺も追おうッ!」


 動きを変えた俺に気づいたデュンケルが楽しそうに声を上げ、手近な狼を火柱で包み込んだ。


 きっと言葉通り、すぐに戦線に加わるだろう。もちろんデュンケルだけでなく、ほかのメンバーもだ。


 ならば、俺は先陣を切る意味がある戦いをするとしようか。


 走りながら俺が剣を構えると、緑狼王も姿勢を低くしてグルグルと唸り始める。


「勝負といこうかッ、緑狼王ッ!

 お前がッ、眷属任せの怠惰な王かッ、眷属も恐れる剛王なのかッ!」


 俺の手にチカラが籠もる。

 緑狼王が全身にチカラを籠める。


 そして――


「俺の剣で確かめるッ!!」


 俺と緑狼王の攻撃が交差した。

ミツ「ついにサリトスさんたちが緑狼王に挑みますよッ、ミーカさんッ!」

ミーカ「任せてッ☆ ポップコーンとコーラ、ホットドッグも用意済みなんだからネ☆」


アユム「すっかり娯楽(エンタメ)になってるな、サリトスたちの強敵戦」


次回は、バトルの続きです。


前書きでも書きましたが……

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