2章18『不戦勝の王』
国王選定戦開始直後転移した俺は今、地球のガ〇〇ム像の前に立っていた。
へ? なんで今の段階で転移してしまったの?
そんなことを考えながら、地球で何があったのかを整理しているところだった。
「ああ、そうだ。対切り裂き咲戦をして見事勝利して【消去】したんだっけか……」
そんな独り言をしているのではなくエレインに話しかけたつもりだった。独り言だと思われて「はい、そうです。パパ」みたいなことは言ってくれなかった。
「あの……エレインさん? 怒ってます?」
「いえ、怒ってませんよ。最近アルフヘイムの時しか話しかけてくれないな〜とか全く思っていませんよ。」
あの、それそう思っているんですよね分かります。ごめん話す人が最近になって多くなってきてあんまり話せないんだ……とかメタイ話をしたらエレイン起こりだしそうだから辞めておいた。
「ごめんな、最近はなんかことの大きさが重大じゃなくて……状況に合わせるだけで精一杯みたいな?」
「いえ、それは分かってはいるんです。ですが……扱いが完全に酷いかと……私ただのナビゲーションじゃないんですよ?」
「ごめんな、ほんとその通りだと思う。」
「そうですよ。話しかけてくれたと思ったらいつもマップマップって私はマップじゃありません。妖精なんです。感情もあるんです。」
そう言って日頃の鬱憤を発散するエレイン。相当ストレス溜まってたんだな、気づかなくてごめん。
「私一番最後に言葉を発したことになっているのは15話ですよ? 15話。今何話だと思っているんですか? 18話の〇←ここの段階で636文字目ですよ?」
あの、怒りが溜まってよく分からない専門用語的なことを言わないでもらえますか? メタイですよ?
「ごめんごめん、今精一杯声が枯れるまで話してあげるから。」
「本当ですか? また、わー祈さんだー! みたいに水刺されないですか?」
「ああ、多分ないと思うぞ、」
俺がそういった矢先、遠くから何やら甲高い声が聞こえてくる。
「お兄ちゃーん。会いたかったよー!」
ああ、何でこいつらは空気が読めないんだ? まあ、最高のタイミングではあったけど……。
「あのね、お兄ちゃん。実は三人で話し合った結果。私たちの家結構部屋あったりするじゃない? そこで四人ぐらししよう。ということになったの〜。」
え? まあ、仲良しになったのはいいことですね。四人って誰と誰と誰ですか? まず、願と診と蛍と……奏さん?
「パパ? 約束は?」
そう後ろから無言の……喋ってはいるか……を発しているエレインさんがとても怖いので、とにかくその話題を後でにしようとする。
「ええと、後でにしてくれないか? 今エレインと声が枯れるまで話し合おうとしてて……」
俺がそう言っている途中にはエレインと願は目をバチバチさせていた。
「あららー? いくらエレインちゃんとはいえ横取りはいけないんじゃないかな?」
「そちらこそ。今パパは私と話していたんですよ?」
バチバチ、バチバチバチと、雷音が聞こえてくる。
あの、喧嘩は程々に俺はみんなの俺だから。
「祈さん……こっち……です……。」
そう言って蛍は俺の袖を引っ張り女の子とは思えない強い力で引っ張ってくる。
あの、靴がズリズリすり減ってる音が聞こえるんだけど……。
そこからはもう負の連鎖で、次は蛍を含めたバチバチになり、その隙を突こうとした診ともバチバチになり今大変なことになっている。
そんなことをしていると、俺の体が光り輝きその場から光とともに消えていった。
□□□
俺が居たのはアヴァロンの闘技場の中。
あたりの人は全員伸びていて、その場には俺しかたっている人はいなかった。
ええと、どういう状況ですか?
そんなことを聞こうとするとあたりで大歓声が響き渡り、悪マリンの声が聞こえてくる。
「この国王選定戦生き残ったのは、マスター。じゃなくて、『太陽の魔剣士』巡谷祈ダッ!!」
え? どういう事ですか? 説明求む。
観客席のような場所からジャンプで降りてきたマリンに「どういう事?」と尋ねると、
「んーと、まあおめでとうなんダゼ。晴れてマスターはこの国の国王だゼ!! ……不戦勝のな」
最後の小さい言葉が気にかかった。不戦勝? またもや流儀に反したことをしてしまった。不戦勝とか一番かっこ悪い勝ち方じゃん。何かそれ納得いかない。
「実はこれ、マスターを国王にするための出来レースなんダゼ。」
そう小さな声で耳元でつぶやくマリン。
それを聞いた俺は国王席に座っている国王と隣にいるダンテ姫を見ると両方ごめんと言っているかのような表情でこちらを見ている。
「どういう事よ?」
「実は、強制になった段階でもうこの出来レースは始まっていたんダゼ。そのための役者ふたりがこの宮廷魔道士のユーサ=グランドナイツ・ペンドラゴンと騎士団団長のベティ・ヴィエールなんダゼ。」
「この度はご戴冠おめでとうございます。」
なんかもう戴冠した事になってるし……まあ、これからするんだろうけど。
そんなことを思っていると国王席に座っていた国王とダンテ姫が場内に降りてきて限界がきたのかマリンが善マリンに戻っていた。
「ええと、見事な不戦勝だったぞ、祈。
……ゴホン。
ええ、親愛なる国民よ。我は今日をもって204代国王の座を降りここに居る巡谷祈に205代グレートグラウンド国王の座を譲ることにする。意義のあるものは申し立てよ。さもなくば沈黙をもって賛成の意と表する。」
見事場内は沈黙だった。出来レースとか聞いてねぇよ。なんか本当に国王になってしまったし。
「では、祈には王になる証として我が娘、ダンティン・アルスル・グレートグラウンドを嫁としてお主に国の習わしとして……」
そう言うよりも早く、ダンテ姫が俺の懐に飛び込んできてあついキスをした。ちょっと舌まで入れられると流石にそれはあんまり慣れてない、キスになれてしまう俺もどうかと思うけど。
「では、行きましょうかえ。祈様。」
え? もしかしてそういう事だったの? 今回の選定が男だったのって。国王の子が娘なら国王が、息子なら王女が選定されるわけ?
「え? でもちょっと待って? 俺にはアーサって言う将来を約束した彼女がいるんだけど……。」
「そんなの国王権限でどうとでもできますえ。」
マジ? 俺の重大な悩みがそんな些細な出来事化のように……。
「さあ、祈何か国民に対して言ってやるんだ。戴冠しましたみたいな事をな」
そう言ったのは国王……この場合前国王なのか?
「ええ、ゴホン。親愛なる国民達よ。俺は不戦勝の王と……歴代に名を残すような愚王になるやもしれない。だが俺は、それを誇りに思おうと思う。それは何故か……何故だろうな? 多分それは愚王であろうと前国王に選ばれこの大観衆に選ばれ、すべてに選ばれた。多分そうだからだ。
誇りというものはとても大事だ。だがそれはマイナスに考えると自尊心というものに変わる。誇りは自分を磨きあげるが、自尊心は相手の心をすり減らしてあたかも自分のその貧弱な武器が強く見えるようになる。だがその剣は一切強くはなっていない。むしろ、他人の武器をより良いものにしてゆくだけだ。
だから俺はみんなに言おう。自分の持てる最大の力に誇りを持てと……」
俺の演説はあまり良いものではないと自負している。だが、俺のその言葉が身にしみたのか大観衆は大きな雄叫びをあげてその演説に答えてくれた。
「これにて俺、巡谷祈が、205代グレートグラウンド国王として体感したことを宣言する。」
そう言って俺は大きな花火を打ち上げてやった。