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罪人転生 〜数千回殺され続けたら、あらゆる魔法が効かなくなっていた〜魔法至上主義の世界で、過去の罪を背負いながら最強へと成り上がる  作者: スケ丸
幼少期

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第三話 魔法

部屋の中には、血の滴る音だけが響いていた

ぽたり、ぽたり。

剣の切っ先から垂れた血液が、石床を赤黒く濡らしていく。


鼻を刺す鉄の臭い。

切り落とされたグスタフの首は、目を見開いたまま動かない。

そして、その中心に男は立っていた。

暗い地下室の中でも埋もれない、小麦色の金髪。


その男が、ゆっくりとこちらを見る。

「お前は誰だ?」

低い声。

「何者だ?」

畳み掛けるように、迫ってくる。

「なぜ、ここにいる?」

威圧感だけで空気が震えるようだった。


俺は口を開く。

だが、声が出ない。

さっきまで、今日はどう殺されるのかを考えていたのだ。

突然すぎた。


それなのに今、目の前にはグスタフの首が転がっている。

 

男が、呆れたように息をついた。

それから——視線の高さを、俺に合わせた。

膝を折って、目線を落とす。

その瞬間、男の手が伸びた。

グスタフの首を、持ち上げる。


「簡単に聞こう。こいつの仲間か?」

首が、俺の目の前に突きつけられる。

グスタフの、見開かれた目。

「い、いえ。ち、違います」

声が震えた。

男が、首を床に放り投げた。

ゴロゴロと転がって、隅に消える。


「なら良かった。俺にガキを殺す趣味はない」

男が、俺の体を見た。

手錠。

ボロボロの服。


「そのみなりで、その手錠。お前、奴隷だな」

男の目は暗かった。

ただ冷たいわけじゃない。

何かをずっと見続けてきたような、沈んだ目


「じゃあ自己紹介をしよう」

男が立ち上がる。

「覚えなくてもいい。俺の名前は——」

その時、気づいた。

男の後ろ。

階段の影から、斧を持った貴族が飛び出していた。

顔を恐怖で歪めながら、男へ向かって振り下ろそうとしている。

男の背中に向かって。


「あぶな……!」

声を出した瞬間——

血が、飛び散った。

男ではない。


貴族の身体が、ゆっくりと崩れ落ちる。

首が斜めに裂けていた。

男は振り返ってすらいない。

剣をいつ振ったのかも見えなかった。


男が、何事もなかったように俺を見た。

「俺の名前は、ヴォルガドだ。騎士をやっている」


理解が追いつかなかった。

後ろを見ずに斬った?

そんなことができるのか?

ヴォルガドは剣についた血を払うと、再び俺を見る。


「お前の名前は?」

あっけに取られていたが、なんとか言葉を絞り出す。

「……ラザロ」

「ラザロ、か」

ヴォルガドが、少し顔をしかめた。


「ラザロ。俺はなんでここに来たと思う?」

「……俺を、助けに来た?」

ヴォルガドが、首を横に振った。


「残念だが違う」

その声に感情はなかった。


「俺はこのゴミどもの悪事を裁きに来た」

床に転がる死体を見下ろす。

「その結果、お前がいただけだ」


……少しだけ、胸が沈む。

でも、それでもよかった。

結果的に助かったのだから。


「悪事って?」

「禁忌魔法だ」

ヴォルガドが、立ち上がった。

部屋を見回している。

床の魔法陣を、じっと見つめた。


「今から六十年前、ある人物たちに作られた。世界の状況を一瞬にして変えてしまう魔法」

空気が、重くなる。

「死者蘇生の魔法だ」

沈黙。


ヴォルガドが、再び俺を見た。

「でも、今お前と喋ってわかった。お前がその被験者だな」

「……なんで?」


「目だ」


ヴォルガドは即答した。

「お前の目は、俺と同じだ」

「……同じ?」

「死を見すぎた人間の目だ」


言葉が詰まる。

ヴォルガドは壁にもたれた。


「散々遊ばれたんだろう。数十回は死んだか?」

「……」

「いや、もっとか?」


俺は小さく呟く。


「数千回は、とっくに死にました」


沈黙。

ヴォルガドの表情が、初めて崩れた。


「……は?」

さすがに予想外だったのか、言葉が止まる。


だが——ゆっくりと立ち上がった。

「とりあえず、お前はこの近くにある街まで送る」


ヴォルガドが、階段の方へ歩き出した。

「お前の親が街にいるとは思えないが、孤児院に預けるなり、何かしらの手は打つ」


「それは、無理だ!」


ヴォルガドが、止まった。

振り返る。

「これは俺への罪です」

声が、震えた。

「ここで救われたら、俺はどうすればいいのですか」


しばらくして、ヴォルガドは言った。

「お前は、何をした?」

「人を、殺しました」

沈黙が、続く。

ヴォルガドが、ゆっくりと歩いてきた。

また、目の前にしゃがみ込む。


「俺も、今人を殺した」

床の死体を見る。

「俺はこう考えている。人を殺すのは正しいことではない。必ず罰が来る」

「それはいつ来るかわからない。実際にこの貴族は、お前を痛ぶって、今日俺に殺された」

「でも俺は——罰が降ったら、そこで罪は終わりだと思っている」


「そんなの、違う!」

俺は、叫んでいた。

「俺は一生、この罪を背負っていくんです!」


ヴォルガドが、静かに頷いた。

「それでいい」

「……え?」

「大切なのは、そいつ自身の罪への向き合い方だ」

その言葉が胸に刺さる。


俺は前世で諦めた。


逃げた。

閉じこもった。

母親を殺した。

全部終わった。


……でも。


今世でも、諦めるのか?


何千回死んでも。


どれだけ絶望しても。

それでも。


「……生きる」

小さく呟く。

ヴォルガドが目を細めた。


「ん?」

「俺……生きてみます」


自分でも驚くほど、声ははっきりしていた。

「どれだけ酷い目に遭っても……死ぬまで」


ヴォルガドが少し笑った。

「変なガキだな、お前」

そう言って近づいてくる。

「街に行ったら、好きに生きろ」

それから——俺の体を見た。

「……傷だらけだな」


ヴォルガドが手をかざす。

淡い光。

魔法。

だが——

光は、俺に触れる直前で崩れ落ちた。

霧みたいに消えていく。


ヴォルガドが眉をひそめる。

もう一度。

だが結果は同じだった。

魔法が、俺を拒絶している。

数秒の沈黙。

そして。

ヴォルガドの口元が、ゆっくり歪んだ。

「……面白い」

呟いた。


「お前、騎士になれ!」


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