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ひみつの泉

 ある日のこと。

 青い空に、ふわふわの雲がゆっくり流れていました。

 森の入り口に住んでいる男の子、 りくは、リュックをかついで外へ飛び出しました。

「よーし! 今日はぼうけんの日だ!」

 森の中には、まだ見たことのない道や、わくわくするような音がいっぱいあります。

 りくは木の根っこをぴょんと飛びこえ、鳥の声を追いかけ、どんどん奥へ進んでいきました。


 しばらくすると、ひんやりとした風がりくのほっぺたをなでました。

 木々の向こうから、きらきらと光る何かが見えます。

「なんだろう……?」

 りくがそっと近づくと、そこには小さな泉がありました。

 水はとても透きとおっていて、底までくっきり見えます。

 まるで空をうつした鏡のようでした。

「わあ……きれい……!」

 泉のまわりには、色とりどりの花が咲いていました。

 風にゆれるたび、花びらが水に落ちて、ちいさな波紋が広がります。


 そのとき、

「ねえ、きみ」

 泉のほうから声がしました。

「えっ!? だ、だれ!?」

「ここだよ」

 りくが水面をのぞきこむと、そこに映っていたのは、

 小さな水の妖精の姿でした。

 透きとおる羽が陽にきらきら光っています。

「ぼくはみるる。泉をまもる妖精さ」

「ようせい! 本当にいるんだ……!」

「ふふふ。びっくりした顔してるね」

 みるるは泉の上でくるっと回りました。

「この泉は、ひとつだけ“ねがいごと”をかなえる泉なんだ。でもね、ほんとうにたいせつな願いじゃないと、泉はきいてくれないよ」

「ねがいごと……」

 りくはしばらく考えました。

 ほしいものはたくさんあります。

 大きなラジコン、ゲームソフト、かっこいい自転車……

 でも、なぜか胸がきゅっとしました。

「ほんとうにたいせつなねがいって、なんだろう……?」

 そうつぶやいたとき、

 遠くから「おにいちゃん!」と呼ぶ声が聞こえました。

 声のほうを見ると、泣きべそをかいた小さな妹、ゆずが走ってきました。

「どうしたの、ゆず?」

「ころんじゃって……ひざ、いたいよ……」

 ゆずのひざから、少し血がにじんでいました。

 りくは、ぎゅっとゆずの手をにぎりました。

「ごめん。心配させたね。すぐ帰るから、泣かないで」

 その姿を見て、みるるはにこりと笑いました。

「りく、もう答えは出てるんじゃない?」

「……うん」

 りくは泉の前で、まっすぐに目を閉じました。

「泉さん。ぼくのねがいはゆずのけががなおりますように」

 泉の水が、ふわりと光を放ちました。

 やわらかな風が吹き、泉のしずくがひとつ、ゆずのひざに落ちました。

「あれ……? いたくなくなった……!」

「えっ、ほんと!? よかった!!」

 みるるの声が風にまぎれて聞こえました。

「その願い、たいせつだったからきっと叶ったんだよ。これからも大事な人のこと、守ってあげてね」

「みるる、ありがとう!」

 りくがそう言うと、妖精の姿は小さな光になって空へ消えていきました。

 泉は静かにきらきら光りつづけています。

 まるで、これからも誰かの願いを見守るように。

「さあ、帰ろう」

「うん!」

 二人は手をつないで森をあとにしました。

 空には大きな白い雲がゆらりと流れ、やさしい午後の光が道を照らしていました。


 ひみつの泉は、今日も静かに、森の奥で息づいていました。

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