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雲のバス

 夜はふしぎの時間。

 今夜も、ふしぎな時間はやってきます。

 

 ある町に、りおくんという男の子がいました。

 りおくんは空がだいすき。朝の空も、夕方の空も、でも一番すきなのは、夜の空でした。

 お星さまのひかりを見ながら、りおくんはよくつぶやきました。

「ぼくも、星のなかにいけたらなぁ……」

 

 そんなある晩のことです。

 りおくんがいつものようにベッドで星をながめていると、「しゅう、しゅう、しゅう……」

 と小さな音が聞こえてきました。

「風かな?」

 りおくんが耳をすますと、もっとはっきりと音がしました。

 しゅう、しゅう、ぷしゅーっ!

「なにこれ?」

 そっと窓をあけてみると……そこにうかんでいたのは、ふわふわの雲のバスでした。

 バスには車輪のかわりに、白いもくもくがぐるぐるまわっていて、空のなかにぷかぷかと浮かんでいます。

『おや、君が今夜の乗客か』

 びっくりしたことに、バスがしゃべったのです。

「ぼく? のっていいの?」

『もちろん。夜の旅はこどもたちのための時間だからな』

「でも、どこへいくの?」

『星の道、月の丘、そしてまだ見たことのないふしぎの国へ』

 りおくんの胸がどきどきしました。

 そして、バスの白いもくもくのステップがにゅるりとのびて、りおくんのまどまでつながりました。

「いってきます」

 りおくんはそう小さな声で言って、バスにのりこみました。

 

 バスのなかにはふかふかの席がならび、天井には星がひかっていました。

 まるで星座のトンネルをくぐっているみたいです。

『それでは、しゅっぱつ、しんこう!』

 雲のバスは星空をすべるように走り出しました。

 

「わあ!」

 最初にやってきたのは、星のどうぶつえんでした。

 金のたてがみをもつライオン、耳がふわふわ光っているうさぎ、体が星くずでできたキリン……

 ぜんぶ、星でできた動物たちです。

「さわってもいいの?」

『さわると願いごとがひとつ、かなうかもしれんぞ』

「ほんと?」

『ほんとかもしれん』

 りおくんはキリンにそっと手をのばしました。

 キリンの体はすずしくて、さらさらしていて、でも中に小さな火が灯っているような感じでした。

「願いごと、心のなかで言えばいいの?」

『そうじゃ』

 りおくんは目をとじて、心のなかで一つだけ願いごとをしました。

 なにを願ったかはひみつです。

 

 星のどうぶつえんを出ると、バスはふたたび空をすべっていきました。

 次に見えてきたのは、光る湖のある小さな島。

 夜のこびとの町です。

 こびとたちは夜しか目をさまさない、小さくて働きものの種族です。

 みんな手に光るランタンをもって、コロコロ笑っていました。

「こんにちは!」

『こんばんは、だよ~』

 こびとのひとりがりおくんにおまんじゅうをくれました。「これ、なあに?」

『月のみずでねった、よるまんじゅうさ。中には流れ星のつぶが入ってるよ』

 りおくんはぱくっと食べました。

 ほんのりあたたかくて、星みたいにキラッとしたつぶが舌のうえではじけました。

「おいしい!」

 こびとたちは「またおいで!」と手をふって、バスはつぎの目的地へむかいました。

 

『さて、最後の場所じゃ』

「もう終わりなの?」

『まだすこし時間がある。さいごに風のどうくつへ行こう』

 

 バスは空のずっと高いところへあがっていき、やがて大きな渦のなかにすいこまれました。

 そこは、風の音がいくつもまざっているふしぎなどうくつ。

「ひゅるるー」

「ぴーぴー」

「しゅーん」

 風の声がまるでことばのように聞こえます。

「なにを言ってるの?」

『風は世界じゅうを旅している。見たこと、聞いたことを、ここに残していくんだよ』

 りおくんは目をとじて、耳をすませました。

 すると、遠くの海の音、しずかな森のざわめき、雪がふる町のささやきが聞こえてきました。

 全部、風がつれてきた音でした。

「なんだか、ちょっとさびしい音もあるね」

『うむ、世界にはさびしさも、うれしさも、全部あるからな』

 りおくんは風の音を胸の奥にしまって、バスにのりこみました。

 

 空がうすむらさきになってきました。

『そろそろ朝がくる。帰るとしようか』

「うん……またのれる?」

『もちろん。ちゃんと夜を大切にできる子には、またきっとくるさ』

 バスはゆっくりと町へもどり、りおくんの窓のところでとまりました。

 

『今日のことは』

「内緒だよね」

『そうじゃ。ふたりのひみつじゃよ』

 りおくんはにっこり笑ってうなずきました。

 そしてベッドにもぐりこむと、あっというまに、ふわふわとした夢のなかへ入っていきました。

 

 それからも、りおくんは夜になると空を見あげました。

 雲のバスはすぐにはあらわれません。

 でも、ふしぎの時間になれば、きっと、また。

 

 夜はふしぎの時間。

 今夜も、ふしぎな時間はやってきます。

 つぎに雲のバスにのるのはあなたかもしれません。

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― 新着の感想 ―
お疲れ様ゾォ〜コレ!(挨拶感) 相変わらず…一つ一つの小説くんのクオリテェが しゅごい(震え声) 一つ読んでぇ〜また読んでぇ〜を繰り返したら… 全部読んじゃいました(事後感) 中でもこの作品くんがよか…
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