↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
14/183

かげ

 人間のすぐそばに、影はそっと寄り添っていた。

 影は、誰にも気づかれないまま、ただひっそりと人についてまわるだけの存在だった。

 誰かに感謝されることも、名前を呼ばれることもない。

 それが影の役目であり、生き方だった。

 影は、いつも見ていた。

 泣いている子ども、怒っている母親、疲れた顔で歩くサラリーマン。

 みんなの足元に寄り添いながら、黙って彼らの一日を最後まで見届けていた。


 けれど、ある日、影は思った。

「ぼくも、何かできることがあるだろうか」

 影は考えた。

 手もないし、声もないし、物を動かす力もない。

 けれど、見守ることはできる。

 誰かの、たったひとりの味方になることなら、きっとできる。


 影はひとりの少年を選んだ。

 少年は、学校でいつもひとりだった。

 教室の隅で、静かに絵を描いていた。 誰も話しかけてくれなかったし、先生も少年にあまり関心を示さなかった。

 でも影は、ずっとそばにいた。

 少年が泣いている夜も、夢を見て笑っている朝も、ただそこにいた。

 ある日、少年が描いた絵が、先生の目に留まった。

 その絵は、クラスでちょっとした話題になった。

 それから、少しずつ少年のまわりが変わっていった。

 声をかけてくれる子が現れた。

 一緒にお弁当を食べてくれる子も出てきた。


 影は何もしていない。ただ、そばにいただけだった。

 でもそれだけで、少年の世界は少し明るくなった気がした。

 それからも影は、誰かのそばに寄り添い続けた。

 名前も呼ばれないまま、手柄も褒められないまま。

 それでも、影は満足だった。

 人の背中にある、見えないところから小さな幸せを見守れることが、自分に与えられた役目だと感じていたから。


 ある日の夕暮れ、影はふと立ち止まった。

 空を見上げると、赤く染まった雲が静かに流れていた。

 その空の下で、小さな女の子が笑っていた。

 両手に風船を持って、くるくる回っていた。

 影はその笑顔を見て、温かい気持ちになった。

 そうして、影はそっと目を閉じた。

 誰にも気づかれないまま、風のように姿を消した。


 きっと、次に生まれるときは人の心にそっと触れられる“光”になれるようにと、そう願いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。