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シンカータイカー   作者: よぐると
コアセンド王国編
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第82話 朽ちた正義に悪魔は囁く

 リテル達ことオイカゼ旅人団が行方不明になる少し前。

 リテル達がブレイサー港王国で違法貨物船の船長のニグメが海に落とされた後のこと。


 政府が監視している多くの大罪人を収監するナラカ監獄で、ニグメは再び収監された。

 その監獄は厚いグレーのレンガで積まれた、あるいは地下に伸びている。

 ここを取り締まっているのは緑建(りょっけん) コトブキ。


 灰陣(はいじん)セッショウ、朱陣(しゅじん)マユズミ、燈陣(とうじん)トコシエの(じん)と呼ばれる階級の上の階級が(けん)と呼ばれる。

 この階級は武力の強さと統率力で配属され、重要な場所ほど力は強く集結する。

 監獄を監視するからこそ緑建のコトブキが配属している。


 今回は浜辺で打ち上げられて、倒れているところで運ばれた。

 海に突き落としたのは正義を掲げるカイであった。

 ニグメの収監されている牢獄の地下最も深い場所で、花崗岩を用いて強固な壁となり脱獄者を妨げる。

 ニグメのいる牢獄の隣では元死警官のグルジエ=デクノーアレが収監されていた。

 ニグメがグルジエがそこにいるとわかったのは、連れてこられる前にふと目に入ったから。

 ニグメが収監されたのは、海に落ちて3日後の夜だった。

 塩素がかすかに匂う。


 ニグメがグルジエを見た時、不思議に思うのは当然。

 グルジエという男が正義に背くこんな場所にいるわけが想像できないからだ。


 特性も魔法も封じられたこの牢獄は誰一人逃さない。

 大罪人ばかりが集まるこの空間にいるのは、極めておかしい。


 牢獄の壁を遠回りしてグルジエにはニグメの声が届く。


「らしくねーんじゃないか?」


 グルジエは隣に来たニグメのことは知らなかった。

 ニグメが来た時は薄暗い空間の中で椅子に座り目を瞑っていたからだろう。


「ふん、誰か知らんが、俺は立派な罪人だ。」


 グルジエの声は依然として威圧のある声は変わっていなかった。

 いつからこの場所にいるのか知らないが、泣く事も絶望することもなく、ため息だけ吐いていた。


「俺はニグメ=グラッド。

 初めて脱走した男だ。2度目の収監でここに来た。」

「悪行がそれほど好きなんだな。」

「世界は認めてねぇだけだ。どうやら魔物が嫌いらしんでな。」

「世界が認めない、か・・・。」


 グルジエが反芻にまで声を出して、その言葉に噛み付いてきた。

 ニグメは彼がなぜここにいるのかますます聞きたくなった。


「どうした?世界に見捨てられたか?」

「不要になった。俺の立場が無くなった。それだけのことだ。」


 ニグメにとってこの場所に長く居座るつもりはない。

 もしグルジエが脱走に協力的なら嬉しいが、彼の性格ゆえ、どうかな。


「なぁ?グルジエ。

 ここに来たからにはお前の生涯の終わりはここか?

 いや、そうはいかねぇだろ?」

「何を唆している?」

「正直、海にでないか?」

「俺が海賊にでもなれと?」

「海賊は違うな。

 大陸を出たことがない人は知らない、別の島があるんだ。」

「パヨーロ大陸に次ぐ有人島があるのか?」

「魔物の島がな。そして、それが俺の故郷だ。

 今は人手が足りなくてな。輸出入は俺がやっている。

 自由になれる選択肢がある。俺に協力するか、ここで死ぬか。」


 ニグメは遂に言った。

 正義心を持つグルジエはそんな悪巧みに乗るだろうか。

 ただ、特性も魔法も封じられたこの牢獄から自力で逃げ出すのは困難。

 それなら俺を利用して外に出る作戦が今できる。

 もともと脱出前提の俺の行動だが、仲間一人や二人連れて行けるのはいい。

 死に比べればなんのデメリットもない。


「もし協力するなら、あの島まで来てもらう。

 島の発展が必要なんだ。

 それに、もしかするとお前の正義がこちらで輝くかもしれない。

 新しい場所での正義仕事はいかがなものか?」


 グルジエはその提案を聞いた後、少しばかり黙っていた。

 

 悪人に揺さぶられる心はグルジエにとってかなりの屈辱だった。

 だが、2度と現れることがないこの機会を逃すというのは惜しい。

 カイと再び会いたいと牢の中で思っていた。


「一ついいか?」


 グルジエは一つ提案を持ちかけた。


「仕事が終わったら、この大陸に戻って来れるか?」

「悪人と名付けられるが?」

「構わん。」

「じゃあ、行こうか。」


 ニグメは手を叩き、行動を決行した。

 ただこの監獄の檻は大罪人を収容すると言う名を背負っているので、力尽くでこの檻を抜け出すことはできない。

 一般の人ならすでに諦めているだろうが、ニグメは違った。


 隣で大人しくグルジエが足を組んで座っていると、ギギギと、錆びた鉄が無理に動かされているような音がなった。

 まさかな・・・。と言いたくなったが、答え合わせをするようニグメは檻越しに現れた。


「いつから人間だと思っていた?

 俺は人間に近い魔人だ。」


 ニグメはグルジエの檻も同様の方法でグギギギとこじ開けた。


「ここからはスピード勝負だ。来い。」


 この監獄は広く、海に接しているので逃げ道は狭まってくる。

 泳いだとしても、次の陸地は遥か遠くで、体力自慢でも泳ぎ着くことはできないだろう。


 ニグメとグルジエの二人はまずは武器を取り返すところからだった。

 グルジエは「煙の子」という特性を密かに隠し持っていた。

 特性を封じられていたが、今は存分に活用できる。


 向かい側から監視員が歩いてきた。

 ニグメは角から飛び出して、監視員の背中を捉えた。

 俺の武器はどこかと、殺気立って尋ねる。


「ど、どうして・・・。」


 背後からのニグメの声に監視員の身震いが治まらない。


「どうした?俺と会えて嬉しいか?」


 監視員が叫び始めたのですぐにニグメは監視員の頭を壁に打ち付けた。

 すぐに声は途絶えた。


「チッ。」


 グルジエはその一部始終を見ていて、気が引けた。

 大罪人としてもうレッテルは貼られているのに、自分にはまだ覚悟が足りないと自覚した。

 地上を目指して螺旋状の石階段を登り、次の監視官に同じ問いを投げかけた。

 震える指で奥の扉を指差す監視員の頭を粉砕した。


 扉を蹴り破ると、そこには押収した歴代の武器たちが眠っていた。

 ニグメとグルジエは自分の武器を取り返し、あとは脱出するだけだった。

 ニグメは小刀を、グルジエは愛刀を。

 

 ニグメが先に部屋を出る。


 ニグメは足に何か引っ掛かりを感じた。

 足に目を向けると、緑の太い蔦が絡んでいた。


 瞬間、ニグメは壁に打ち付けられた。

 グルジエはまだ部屋の中にいて、何が起きていたのか分からなかった。 


 この茂った緑を象徴する蔦は奴しかいない。

 ニグメは胸が高まった。

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