第1話 死者御入界
「今日の転生者はこの子だな」
たくさんの神様が紙を覗いていた。
それは俺の転生契約書だったり、他の者の転生契約書だったり。
「ふむふむ・・・ぬ?!
なんじゃこいつ?!」
「どうしましたか?」
「み、見てみな。」
震えた手で他の神様に回した。
次々に回っていく紙。
受け取った神様は震えながら回す。
「固定攻撃力1?!
一体、どんな罪を犯したのじゃ?!」
「紙には特に罪は書いてないと、、」
「ほー。
久しぶりにわろうてしもうた。」
この神界ではその転生契約書を買うことができる。
投資のような感じで、その転生者が強くなればなるほどそれ相応の通貨がもらえる。
これが“神々の遊び”という。
「では、これから契約書買いを行います。
ではこの転生契約書を買いたい神様はいらっしゃいますかー?」
誰の手も上がらなかった。
神様は見込みがないとほとんど買う者は現れない
「で、では保管行きでよろし・・・」
「その契約書、わしが買い取っても良いか?」
他の神様は驚いた。
ほ、本当に買うのか?と言わんばかりの顔をその神様に向けた。
「では、他の神様は入りませんか?」
その司会者の言葉に誰も反応をしなかった。
「希望者がいなかったので決定しました。」
「これでわしの物じゃな。
お主らは“希少特性”を見過ぎじゃ。
この世界には追加特性もあるんじゃ。」
「だ、だがそれはギャンブルの類にすぎないだろ?」
「特性に執着するだけじゃ、まだまだ未熟じゃ。
その本体も見て、判断することが大切じゃな。」
風がそよぐ日、俺は生まれた。
太陽が照る秋の幸先がいい日だった。
「王家の息子ですのでとてもいい子供でしょう。」
その子供が俺だ。
まだ記憶力もない赤ん坊。
とても可愛がられた、甘やかされた。
そして生まれて2年が過ぎた。
2年が過ぎると特性が現れる。
「2才になった。特性が現れるぞ。」
俺の両親は特性を見て驚いた。
幸先がよかった晴れた日は砕かれた。
王家の血筋を持つ者は例外なく強い特性が現れるのだが、俺は
ステータス
Lv1
名前:未記名
種族:人族
属性:無
魔法:不可
通常特性1:王家の血筋
希少特性1:固定攻撃力1
希少特性2:バレットタイム
「う、嘘でしょ
私達の子が攻撃力1だなんて・・・」
「物心がつく前に捨てるしかないか・・・?」
この頃から俺は両親と会う頻度が激減してしまった。
世話は、全てメイドなどがしていた。
両親に会えず俺は両親の愛を十分にもらうことができなかった。
そしてある日から、俺は物心が少しつくようになった。
でもそれが、この家を出ていく原因にもなった。
特性1の“王家の血筋”は取り除かれ、特性なし。
名前も決められないまま。
「父さん!母さん!どこにいくの?!
置いてかないで!」
叫ぶがフル無視。
振り返ることすらなかった。
8才でも言語を習っただけの俺だった。
俺は初めて気づいた。
俺は弱いんだって。
攻撃力は1だから。
前世の記憶はない。
幼稚な俺だけだった。
そして初めてここでも気づいた。
もう俺を欲しがる人がいないと。
自分で生きていくしかないと。
人生始まってから最初のどん底。
けど、ある日俺は初めて本当の人と出会った。
俺が森を彷徨っている時、大きな鳥に出会った。
炎を纏い、空を飛び、俺を攻撃してくる。
俺は持ち前のスピードでちょこまかと逃げ惑う。
魔法も力もない俺はとうとう追い詰められてしまった。
大きな鳥は俺を目掛けて炎を放った。
死に抗っても死は死だと気づいた。
死を直前にした瞬間、その火は真っ二つに斬られた。
俺の前に白い服を着た老人が現れた。
「若造。
無事か?」
俺は怯えて声は出なかったが、首を大きく縦に振った。
「少し目を閉じなさい。」
そっと目に温かいしわのある手が降りてきた。
俺は目を閉じた。
周りでは何が起きているのかわからなかった。
「若造。
開けなさい。」
その言葉はとても優しかった。
目を開けると、大きい鳥はいなくなっていた。
地面には羽のみが落ちていた。
「私はパノラロ=クロテウス
名もなき者よ、可哀想に・・・
私のところに来なさい」
老人におんぶされながら山を登った。
コツコツと石の階段を登り、頂上には家があった。
「ここは・・・?」
「私の家だ」
初めての温かい気持ちが伝わる家だった。
木造の家に吸い込まれるように入った。
そして、老人に質問をされた。
なぜ、一人でこの森にいる?
なぜ、名前がない?
なぜ、特性がない?
など、俺の答えはしっかり受け止めて聞いてくれた。
「それは災難じゃったのう。
特性がないことに疑問があるが、まあよかろう。」
パノラロの目は少し揺れた気がした。
「しかし、名前もない。
学校も行ったことがないと言うか・・・
それなら私が名前をつけよう。
学校の学費も私が出そう。」
「い、いいんですか?!」
「ああ、大丈夫。
若造が気にすることではない。
未来ある若造を見捨てる大人がどこにいるんだ。
さて、名前をどうしようか?」
特に思いつく候補がないな。
でも、俺はこの人を親みたいに思う。
だから・・・
「俺、クロテウスって名前を入れたい」
私の苗字・・・?
「なぜ私の苗字を・・・?」
「パノラロが親みたいに見えたから・・・」
理由を口に出してみると恥ずかしい・・・
「そうか、それは嬉しいなあ。
名前はどうする?
自分の名前だ。
しっかり考えるんだ。」
まだ自分の名前が思いつかない。
「少し考えるには荷が重いか?
なら若造!私と修行をしないか?
修行をしている間に浮かび上がってくるだろう。」
俺を受け入れてくれた、恩人にNoと言う答えはなかった。
「はい!師匠」
それから俺は師匠と修行をすることになった。
魔法を練習したり、特性を理解したり、Lvをあげてみたりたくさん修行をした。
冬場の湖で泳ぐ修行は地獄のシャワーの冷たさを余裕で超え、真夏の山登りは日光が肌に突き刺さって、これでもかというほど鍛えられた。
俺の特性が弱いっていうのもあるかもしれないけれど、特性が弱いなら魔法とか最強にしてくれてもよかったじゃないか。
と、空に叫んだが俺の叫びは虚しく消えていった。