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101話 沿岸部を一周

 まずは灯台と小屋の確認だな。しかし焼き魚も気になる。それから人が戻ってくるかもしれない。


「二手に分かれましょう。俺と知紗兎さんで向こうを調べるので、幸子さんは残ってもらえますか?」

「構いませんよ。……お二人とも、どうか気を付けて」


 彼女が心配しているのは、未知の人間と接触するかもしれないことだろう。焼いた魚を放置した者が小屋にいることも考えられる。

 もしかしたら調理を始めてから、急用を思い出したとか。あるいは忘れ物を取りにいったのかも。


「私も賢悟も、荒事は得意じゃないからな」

「もともと俺はインドア派だったもので」


 ちなみに知紗兎さんの天眼通は、相手の動きを読むことも可能らしい。ほんの少し先の未来を見るとか。だけど行動が分かっても対応できるとは限らない。対人戦には慣れが必要だと、友人から聞いたことがある。

 とにかく移動しよう。砂浜を歩きながら、灯台横の小屋を目指す。それほど距離はない。すぐに着いた。木製の小屋、なんとなく作りはしっかりしてそう。


「それで、どちらを先に調べる?」

「小屋にしましょう」


 根拠はない。用事があるなら、そちらかと思っただけだ。とりあえず知紗兎さんも賛成。二人で扉の前に進む。

 俺は軽く扉を叩き、何度か声を掛けた。だけど反応なし。


「不在か。賢悟、鍵は?」


 取手に手を掛けると、あっけなく扉は開く。どうやら鍵を掛けていないようだな。失礼して中を覗き込む。

 さほど広い建物ではない。外観の大きさから察するに、一人で生活するための場所だろう。玄関の正面に台所があり、右手側に水場か。そして左側がリビングかな。


「開いています。……見える範囲では誰もいませんね」

「よし、入ってみるぞ」

「了解です」


 少し気は引けるけど、調査は必要だからな。玄関で靴を脱ぎ、小屋の中に入った。埃の積もった様子はない。やはり誰か住んでいるのだろうか? 

 小屋の確認に時間は掛からなかった。とりわけ目を引く物もなく終了。次は灯台へ向かう。入り口の前まで来ると、扉の横に立て札があった。


「ふむ。『特別公開中。ご自由に見学できます』とあるな」

「都合がいいので、遠慮なく行きましょう」


 ということで中に入る。内部は思ったよりも広くない。そして上に上る階段だが、かなり急勾配である。らせん状になっており、横にロープもあった。おそらく手すり代わりだろう。

 なんとか上がり切ると、そこには梯子があった。頭上に注意しつつ、進んでいく。最上階からは外を見回せる場所がある。


「良い眺めじゃないか! 賢悟、見ているか!?」

「もちろん」


 半分は海。もう半分は島の様子を確認できる。しかし中央の山よりは低く、全景は確認できなかった。

 それでも有益な情報を得られたと思う。地図だけでなく、自分の目で地形の確認ができたのだから。


「ところで賢悟、そろそろ魚が焼けたころでは?」

「あ、そうですね。戻りましょうか」


 何事もなく灯台を出たら、幸子さんの姿が目視できた。




 焚火の場所まで戻ると、幸子さんから話を聞く。どうやら変わりがないようだな。ちなみに焼き魚は食べ頃だった。

 残されたメモには自由に食べていいとあったので、遠慮なくいただこう。このままだと焦げるだけだし。


『いただきます』


 示し合わせたわけではないけど、三人の声が揃った。まずは一口目、思ったよりも美味である。


「しっかり塩が振ってありますね。うん、旨い」

「焼く前に調味料を使ったようだな」


 俺が感嘆の声を上げると、知紗兎さんが答えた。そのあとは食事に集中している。あっという間に1尾を平らげた。ちなみに俺は半分ほどである。かなり遅れて2尾目に取り掛かる。

 そして彼女が自分の分を食べ終わったら、じっと俺を見ていた。正確には俺の持つ四分の三くらい残った焼魚を。


「……いります?」

「食べるぞ!」


 知紗兎さんは考える間もなく即答。天眼通の使用で、普段よりも腹が減っているのだろう。

 本当に幸せそうに食べている姿を見ていたら、俺も嬉しく思う。それから三人とも食事は終了。


「見た目のわりに、お腹が膨れましたね」

「しっかり身が詰まっていたのかもしれません」


 幸子さんが満足そうに呟いた言葉を聞き、俺は頷いた。不思議な満腹感があって、しばらく食べなくても大丈夫かもしれない。

 それから魚が刺さっていた串を一ヶ所に集める。尖らせた枝を串として使っていたようだな。とりあえず灰の横に置いておく。再利用する可能性を考えたのだ。


「すぐ出発するのか?」

「ちょっと休憩しましょう。灯台から見た感じだと、わりと公民館は近そうです」


 その間に人が戻ってくれたら助かる。島の状況を聞きたい。




 休憩が終わったものの、誰も現れず。こればかりは仕方ないか。いったい、どこに行ったのだろう。

 気にはなるけど、そろそろ出発しないと時間が押してしまう。今日中に公民館まで戻りたい。


「準備はできたようだな」

「問題ありません。行きましょう」


 知紗兎さんの声に答えてから、俺たちは再び歩き出す。あと半日ほど進めば、島を一周したことになる。

 はっきりした収穫があったとは言いにくい。だけど探すべき場所は絞れたはずだ。島の中央、大きな山。


「考え事していると危ないぞ」

「おっと、ありがとうございます」


 目の前に大きな石。知紗兎さんに言われて気が付いた。こんな目立つ石を見落とすとは思わない、それほどの大きさだ。――普通なら。ちょっと疲れているのかも。

 石を避け、先に進む。それから注意しつつ、沿岸部を歩き続けた。




 夕暮れ、最初に訪れた海岸に到着。桟橋の船は無事だな。これが無くなったら帰ることが難しくなる。定期的に確認したいところだ。もっとも探索の状況によっては、可能かどうか分からない。


「一周したな」

「しましたね」


 知紗兎さんの言葉に軽く同意。


「大きな進展はなしか」

「そうでもありません。灯台からの地形確認、これは大切な情報です」


 少なくとも島の中央にある山、あそこが重要な探索場所だと分かった。暫定として『臥志山ふしさん』と考えておく。他は山というより、丘みたいに見えた。

 ただ内陸で夢船が見つかるかは不明だ。どこか倉庫や建物に置かれているかもしれないけど。


「まだ乗ってきた船は動きます。海から一周してみましょうか?」

「いえ、幸子さん。それは止めておいた方がいいかと」


 また嵐に襲われる恐れがあった。できれば船は温存しておきたい。それから沿岸を歩いた感じ、船が入れそうな洞窟や地形は見当たらなかった。優先すべきは山だと、思っている。

 俺の考えを伝えたら、二人とも賛同してくれた。これで明日からの方針は決まり。今日は休息を取ろう。


「ところで腹が減ったな」


 知紗兎さんの言葉を聞いたら、俺も空腹だったことを思い出す。ちょっと考え事に集中して忘れていた。


「ずっと動いていましたから。あと風呂に入りたいですね」

「よし、戻ったら手分けしよう。賢悟は夕食担当だな」

「構いませんよ」


 保存食も少し手を加えると、わりと旨い。温めるだけでも違うし、相性の良い物を組み合わせると満足感がある。

 こうやって考えることは、わりと好きだ。できるだけ喜んでもらえるよう手を尽くしたい。




 ――話をしていたら公民館へ到着した。桟橋から近い場所なので、そんなに時間は掛かっていない。これから荷物の点検・夕食の支度・洗濯・風呂の準備などが待っている。

 さっそく三人で行動しよう。ノンビリしていたら、すぐに夜となってしまう。まず荷物の確認だな。壊れた道具がないかチェックするのだ。それから分担して、自分の作業を開始するつもり。よし、気合を入れよう。


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