第9話 笑顔の裏
結果的に言おう。カオスになった。
クラスメイトがいきなり記憶喪失になったんだ。それはもう沢山の子どもが話しかけてきた。
もちろん誰一人覚えてない俺は軽くパニックになっていたらソウがやらかしてくれた...
ダッン!!
大きな打撃音が教室中に音が響いた。
「みんな?アオが混乱してるでしょ?」
気の弱そう、が第1印象だったソウが机を殴った音だった。
教室内はとても静かになった。
俺は思った、こいつは絶対腹黒だと。
そして絶対敵にしない方がいいと。
◇
「さようなら。みんな気をつけて帰るのよ」
担任の教師の号令がかかる。その声でクラスの男子生徒は走って教室をでて行く。かたや女子は静かにのんびり帰る準備をしている。
早く帰って遊びたいのだろう、もう校門からでて行く姿が見える。
早いなと思いながらボーッと窓から様子を見ていると肩を叩かれた。
「アオ帰ろ?」
「おう」
俺は懐かしい黒のランドセルを背負うとソウと共に教室を出た。
「蒼太!翠!」
「紅蓮?」
紅蓮はかべによりかかっていた。隣の花組は数分早く終わったらしく待っていたようだ。
「一緒に帰ろうぜ!!」
「あー、すまんが母さんが迎えに来るからなぁ」
「あっ、そういえばそうだった!」
「まったく、これだからバカ紅蓮は...」
ヤレヤレというふうに言いながらメイと心が共にやって来た。
「んだとー!心てめぇ!」
「すまんが喧嘩はよしてくれ。駐車場に行くからこれで帰るぞ」
俺が別れようとすると紅蓮に腕を引かれた。
「ストップ蒼太!今日用事はあるか?」
「いや、特に予定はないが?」
「じゃあ迎えに行くから荒神社に行こうぜ!」
「荒神社?」
あー、確かそんな所があったような?
「紅蓮君!!」
突然ソウが声を荒らげた。紅蓮に向かい俺に背を向け、表情は見えないが怒ってる様子がうかがえる。
「ソウ?どうかしたか?」
俺はたまらず突然様子の変わったソウに声をかけた。
「!!あ、、いや、ごめんね?なんでもないよ?」
ソウはこちらを向き笑顔で応えた。
「、、そうか...」
確実に嘘だろう。だが、俺は聞くことができなかった。取って付けたような笑みが、笑っていない目が、俺に反論を許さなかった...
「そろそろ母さん来るだろうし、俺、先に帰るから...」
俺は逃げた。
「うん」
「あ、ばいばい蒼君...」
「...バーイです」
「おう!またな!迎えに行くから待ってろよ!」
それぞれがバラバラな気まずい挨拶をする中、紅蓮だけが笑顔だった。俺はそれにほっとしたと同時に何故だかそれが酷く歪んで見えた。
俺は、早歩きで駐車場まで急いだ。
駐車場に着くと藍奈が先に待っていた。
「あ、お兄ちゃんおそーい」
藍奈はこちらに気づくと立ち上がった。どうやら花壇の段差部分に座り待っていたようだ。
「母さんがまだ来てないのに遅いもあるか」
俺はさっきのことを忘れるように頭を切り替えた。
この駐車場はあまり広く無い。せいぜい車が5~10台ほど停められるぐらいだろう。
今も誰かの先生の車数台と給食の材料を運び込んでいる車が止まっているだけでガラガラだ。
「ふん!か弱い妹を待たせたらそれは遅いのだ!」
「お前はどこの暴君だ」
「藍奈はちゃんです!君じゃないの!」
「そういう意味じゃ無いんだがな...あっ藍奈」
「何?蒼太兄ちゃん」
「紅蓮達と荒神社に行くんだが藍奈も来るか?」
「!!行く!絶対行く!!」
「お、おう、そうか」
圧が凄い。そんなに行きたかったのか...
すると母さんの車が来た。黒い車の窓から手を振っている。
「行くぞ藍奈」
後ろを振り向くと藍奈が居なかった。
はぁ!?
「お兄ちゃんおそーい」
するとさっきまで隣にいたはずの藍奈がいつの間にか車に乗り込んでいた。
はやっ!?
俺は釈然とせず車に乗るのった。
「そうだ母さん」
「どうしたの?」
「実は紅蓮達と「心おねーちゃんの家に行くんだって」!?」
「お母さん!私も行って良いでしょ?」
「藍奈も行くの?迷惑かけない?大丈夫?」
「大丈夫だよ!」
「あ、いや「ドーン!」」
俺は慌てて荒神社と言おうとした時、藍奈がぶつかって来た。
「こら!車の中で暴れないの!!」
母さんは運転中でこっちを見ていないのか藍奈の様子に気づいていない。
「ダメだよ?蒼太お兄ちゃん。バレたら行けなくなっちゃう」
藍奈が母さんに聞こえないように耳元に囁いてきた。
「誰が敵か見極めないと、お母さんはダメだよ?」
藍奈は笑顔を浮かべて言った。
結局俺は家に帰るまで一言も喋ることは無かった。