Episode4 #4 Witchcraft
ダフネ一族というのは魔女の家系らしい。中でも赤毛の色がはっきりしていればいるほど魔女としての素質はいいものとされるそうだ。
「君もチーフとおんなじ魔女ってことか」
ウィステリアが棚にはしごを掛け、何かを取っているときのこと。ウィステリアの説明を聞いたバートが頷きつつそう言った。
「ええ。叔母様は魔術師寄りだけどね」
魔術師寄り。その言葉にバートは眉根を寄せる。度々『魔術師と魔女の違い』については同僚から聞くのだが、いまいちピンとくる説明がないのが現状だ。
「チーフは魔女だけど、魔術も使えるってこと……?」
「ちなみにシドは魔術師だけど魔女の秘術にも詳しいからね。本人、たぶん魔女の秘術は使えないと思うけど」
「えっ? へっ?」
クリスがバートの疑問を先回りして返答する。いやむしろバートにしてみれば、これは疑問を更に生み出された気がする。
「結局どっちがどう違うの……?」
最終的には顔に大量の疑問符を浮かべる始末のバートの顔を見て、クリスは苦笑いをしていた。
「基本的に術の規模の大きさや持続時間がが違うって言われてるけど、もっと本質的には魔女の秘術は秘術、魔術は科学って感じかな」
「魔術の方が規模も大きいし持続時間が大きいんだよね?」
「うん。そういうのが多い。でも例外もいっぱいあるけど」
「えー……オカルトとサイエンスがどう関係してくるんだ?」
「魔女の秘術は本当に秘術なのよ」
次にバートの疑問に答えたのは、棚から何かを取り出し、はしごから降りてきたウィステリアだった。
「私達は代々親やそのまた親からアナグラムや韻で色んな呪文を教わるの。呪文っていうのはまあ、作り方と魔法の力を入れることを兼ねてる」
「あーつまり、製法の語呂合わせ?」
「そういう面もある。でも材料だけ用意して普通に作っても魔法の道具は出来ない。やっぱり私たちが唱えるスペルが大事なの」
魔女が口伝で伝える魔女の秘術の中には不思議な力などない、薬用植物での薬の作り方などもある。しかし基本的には『魔女の秘術は魔女にしかできない』という点が魔術と魔女の秘術を隔てている。
「じゃあ逆に、魔術にそういう要素がないってことか?」
「そうね。極端な話、道具とノウハウさえあれば魔術は一般人でも行使できるしね。でも基本的に数学や物理学の知識がないと魔術を組み上げられないの。ああ、あと……体系立ってオカルトを研究してるから、私達の魔女の秘術をもっと多くの人にも使えるように工夫する人も多いかも」
秘術と科学の違いというのはつまりそういうことか。
だからシドにもダフネ女史にも魔法の箒を作ることができる。
魔術は魔女の秘術の一部を自分たちの体系化した論理で組み直し、多くの人が使えるようにする。しかし魔術ではできないことが魔女にはできる。
「で、これが魔女の秘術の凄い所よ」
ウィステリアはそう言いながらバートの手首につる状の物を巻き付けた。見る限りだと植物を編んだ腕輪だ。
「……何が凄いんだ?」
腕輪をじっと見るバートに、ウィステリアは再び手を差し出した。
「さ、今度こそ握手!」
「……へ?」
バートはウィステリアの発言に驚いた。さっき握手をやむを得ない事情で断ったにも関わらず、また求められると思わなかったからだ。
「あー。さっき、握りつぶすと悪いからって言わなかったっけ?」
「ええ。知ってる。でも大丈夫!」
バートは何か釈然としないものを抱いた。なんせ目の前のウィステリアは屈託のない笑みを自信満々と言った感じで顔いっぱいに浮かべているからだ。
「……いいの?」
「いいから。握手してみて」
「…………」
もやもやしたものを抱きながらもバートは彼女の手を恐る恐る握りしめた。
「……あ、れ?」
バートは思わず素っ頓狂な声を上げる。それと共に、ウィステリアの顔に得意げな笑顔が浮かぶ。
「え……?」
バートも困惑しつつもつられて笑いそうになった。なぜならしっかり彼女の手を握りしめているにも関わらず、彼女の手を潰していないからだ。
「ふふっ」
「え……これ、どういうこと!? ちょっと、これはすごいよ!!」
ウィステリアは悪戯が成功したような顔をしている。これが魔女の秘術ということか。
「魔女の秘術で貴方の力をコントロールしやすいようにしたの。植物のツルで出来てるから切れやすいけど、これで当分生活しやすいはずよ」
感心するバートを見て、ウィステリアはニマニマと笑っていた。
――とりあえず当分そのツルで出来た腕輪をつけていて。またしばらくしたら新しいアクセサリを用意しておくから。
ウィステリアにそう言われ、バートはクリスと共に店を出た。
腕輪はリミッターとしての役割を持っているが、植物のツルを編んでできているために少しもろいらしい。
なので何かの拍子で馬鹿力を出してしまったら簡単に切れてしまうそうだ。
とはいえその腕輪があれば日常生活で困ることは当分ないだろうし、また切れたら用意してくれるとのことだったので、バートは安心した。
「魔女の秘術が凄いのは分かってたことだよな……」
店を出た直後、ぽつりとバートがつぶやいた。
魔法の箒にしたって魔女の秘術の賜物だ。姿消しのマントや血糊が自然に噴き出す仕掛けだって魔女の秘術なしには不可能なのだし、退魔師の仕事が如何に魔女の秘術によって支えられているかはよくわかる。
バートのしみじみとした呟きに、一緒に店を出たクリスはハハハと笑いを返した。
「まあ、でも普通に暮らしてると魔女の秘術なんて無縁だからね。色んな道具見るたびに驚くのは当然だよ」
「……大体の不思議な道具は魔女の秘術の力のお陰なのか?」
「そういう訳でもないよ。ホラ。レプラコーンだって不思議だけどさ、あれは多分ウィシーにも作れないと思う」
「あ、そうか……」
そう言われ、バートはジャケットの下に持っていたレプラコーンに触れた。
……そういえば。あの事件以降レプラコーンをくれたケヴィンに会っていない。
特に「会いたい」などとは思わないが、一目見ただけで自分をベネー商会の人間だと見抜いたりする辺りがただ者じゃないと思うのだ。あの若さ―どう老けて見積もっても30手前だろう―でウィリアムと友達、というのも気になるところだし。
――いや、それ以前に。
……そういえば。
バートがこの世界に入ってから、彼が今までに会ってきた人たちは今どうしているのだろう……?




