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Mr.Enigma  作者: 浦辺 京
Episode2:Grasp all,lose all.
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Episode2 #1 One day at night

Episode2:"Grasp all,lose all"(邦題:亡者の末路)


 トークスの市街地の外れ。暗く沈んだ闇の中、ひんやりとした風が吹く。辺りは酷く静まり返っていて、誰の気配も感じない。10月も半ばを過ぎ、冬らしさを迎えたトークスの街。その冷たい闇の中に、一つの足音が響く。

 石畳で舗装されたその道路の上。そこを歩いていたのは、一人の男だった。シャギーのかかった黒いごわごわの髪。まるで鉄錆のような赤茶の瞳。着崩した黒のスーツに身を包んだその男はこつこつと規則的な足音を立て、歩いていた。何処から来て、何処へ向かおうとしているのか。それは男にしかわからないことだ。彼はただ、その道を歩いていた。

 ふと、足音が止む。どうやら、男は歩みを止めたらしい。冷たい風が、吹く。男は周囲を見回した後、スーツのポケットから煙草を一本取り出して、口にくわえた。そして、銀のオイルライターを懐から取り出して、火を灯す。

 ――その瞬間。一瞬だけ。その小さな光に照らされて"不吉な何か"のシルエットが、見えた気がした。しかし男はそれを気にする様子もなく、のんびりと煙草に火をつけてふかし、煙を味わうようにくゆらせた。

 そして、ふーっと勢いよくその煙を吐き出した後、男はその口元にひどく歪んだ笑みを浮かべて、一言。その虚空に向けて呟いた。

「そう急かすなよ」

 男の視線の先には――真っ赤にぎらぎらと輝く、複数の赤い大きな光が。

 それは、何かの眼だった。巨大な、複数の眼を持つ"何か"は、男の姿を見てぐるぐると音を立て、威嚇し始めた。今にも男を喰おうとその牙を剥き、口から涎をだらだらと流している。しかしそれを見ても、男は全く動じる様子などなく。再び煙草をふかした後、むしろ何かを楽しんでいるように笑って、そして。

「せっかくの良い晩に、上手い煙草が吸えるんだ。もうちょっと余韻を味わったって罰は当たらんはずだろう?」

 そう言った男のその手には、シルバーメタリックのリボルバーが握られていた。

 次の瞬間、いくつもの大きな光が閃き、鼓膜を破るかのように大きな銃声が、周囲の空気を震わせたのだ。

 びちゃり、びちゃりと水気を含んだ音が聞こえ、石畳を赤く染める。地響きを立てる勢いで、"何か"の身体が石畳に崩れ落ちる。地面に倒れたそれは、3mはゆうに超える巨大な6つの足を持つ化け物だった。六つ足であるが昆虫ではない。真っ白なその身体はむしろ動物のようであり、見ていてあまり気味のいいものではなかった。

 男は化け物が完全に事切れたかを確認するために、煙が立ち上る銃を携えたまま、つま先でこつんとその死体を蹴り飛ばしてみた。全く動かない。

 悪魔が、死んだ。その事実に、男の顔に笑顔が浮かんだ。

 その時、風が、吹いた。どんよりと重く、冷たく、そして湿気を多く含んだ風が。風に乗って、その血の生臭い臭いが運ばれていく。その様子を見て、男は更に笑みを深くした。恐らく、そう数分もしないうちに、"奴等"は更にやってくるだろう。

 男がそう考えているうちに、来客はあったようだ。じゃり、と石畳を踏む音が。重い足音が。鼻を突く異臭が。ぞろりぞろりと増える赤い眼が。それらを感じて、男は喉の底から声を出して笑う。

「……おーお。おいでなすったか」

 男がそう呟いたときには、彼の周りに無数の"何か"が。今度は先程のものより遥かに小さいが、先程の比ではない数の"何か"が、男を取り囲んでいたのだ。しかし男は気にする様子などなく、ただ、皮肉った笑みをその口元に浮かべて、再び銃口をその"何か"へと突き付けて。


「退屈はしなさそうだな?」


 次の瞬間、無数の銃声が、再び周囲の空気を大きく震わせた。

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