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転生少女は灰を継ぐ 〜その婚約破棄令嬢、うちの辺境でもらいます〜  作者: なづきち
章間一

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02 町歩き

 翌日はステラ様と侍女さんを辺境伯領にお招きして早速仕事……ではない、さすがに。ひとまず領主館の皆への紹介と、領都(といっても実際は町サイズだ)を軽く案内することにした。顔繋ぎは大事よ。

 臨時朝会として皆を招集し、ステラ様を家宰として登用することを伝え、「私の次、いや私より偉い人と思って手伝ってあげてね」とお願いしておく。現在領主館で働く彼ら彼女らは普通にお願いすれば聞いてくれるので助かっている。

 ……一応、婚約者になったことも伝えておいた。大半の人はビックリしていたけど「領主様ならありそう……」と謎の納得がされていた。なんでや。日頃の行いが良いのか悪いのか。

 そして後はよろしくと残して、町へと移動するために厩舎へと寄る。


「これは……魔物、ですか?」

「そうです。魔の領域に棲息するリノサウルっていう魔物ですね。試験的に飼育しています。あ、草食ですので食べられる心配はないですよ」


 厩舎に居たのは馬ではなく、馬より一回り小さい、二足歩行のトカゲ――恐竜のような姿をした魔物だ。馬も居るけれど、足場の悪い森が大半である魔の領域では向かないのよね。その点このリノサウルは足回りもよく力持ちだ。

 魔物と言っても全てが敵対的なわけではない。このリノサウルのように大人しい草食系なら十分に共存可能だ。……まぁ共存可能でも素材として有用なら狩られるんだけどね。


「他にも濃厚で美味しいミルクがとれるホーンカウや、丈夫な毛を持つアイアンシープなどの魔物も飼育テストしています。領地の新産業を目指しているので、この辺りもおいおい相談出来たらなと」

「そういえば、魔物の肉が最近になって流通しだしたと聞きましたが……」

「それは普通に狩猟ですねぇ。鳥や豚のように飼育出来れば安定供給も出来るのですが……現状はあまり進んでいないですね」


 魔物の中にも肉が美味しい種は結構居るのだけれども、鑑定アプレイザルさん情報によるとどうにも魔素濃度が肉質に関係しているらしくて。飼育場の濃度を高めようとしても魔素中毒の件もあってなかなか進められない。

 馬と同じくらいに賢く、私を主人と認識しているリノサウルが顔を寄せてくる。爬虫類が苦手な人は困るだろうけど、私からすれば可愛いものだ。顎を掻いてやってから、手綱を付け鞍を乗せる。人を乗せるのだと理解したリノサウルは膝を折って身を低くした。


「ステラ様、どうぞ」

「……この魔物に乗っていくのですか?」

「馬車で行くには少々道が狭いので。きちんと訓練しているので問題はありませんし、領主館関係者だと一目で分かって難癖が減ります」


 ステラ様みたいないかにもお金持ちな美少女は不審者ホイホイですからね……。

 恐る恐るステラ様がリノサウルに横向きに座ると、リノサウルは大きく揺れもなくゆっくりと立ち上がった。私は一緒に乗るのではなく、轡を取って先導する係だ。なお、侍女さんにも勧めたら丁重に断られたと付け足しておく。……まぁ侍女が騎乗することなんてそんなにないか。

 私たちはゆったりとした速度で歩みを進めていく。


「町の方に行きたい時は、ステラ様も侍女アンナさんも必ず護衛は付けてください。ここ数年で治安は良くなってきましたが、残念ながらまだまだ安全とは言い切れませんので」


 私の手が空いている時はお供させていただくけど、常時暇なわけではない。

 ここ辺境伯領は魔災のせいで荒れた地だった。養父様じーさまも色々と腐心してはいたけどなかなか手が回らず、私が暴力でもって無理矢理大人しくさせたのが本当に最近なのだ。そのせいもあって一部の領民には恨まれてるけど、暴れる奴らが悪いのでご機嫌取りする気はない。逆に脳筋には好評であるのが辺境伯領が辺境伯領たる悲しき所以。


「大通り沿いは比較的安全ですし、必要な物は大体揃います。逆に大通り以外の道は入らないようにしてください。一部がスラム化しています」


 出来れば全部綺麗に片付けたいし、実行に必要なお金も力もあるのだけれど……失った人心は早々に戻らない。スラムの住人はそういった手合いがほとんどであり、私も貴族不信の気持ちはわかるので強制執行はし辛い。せめて物資や金銭で支援しようにもなかなか受け取ってもらえない状態だ。

 まぁ、スラムの親分とは話を付けてあるし、致命的な事件は早々起こりもしない。けど、小さな事件は毎日のように起こっているので、ステラ様たちには気を付けてもらうしかない。


 大通り沿いに歩くこと十五分ほど、私たちは商業区へと辿り着いた。

 様々な種類の店が立ち並び、露店もそこかしこに出店されている、この町で一番賑やかな場所だ。怒号もちょいちょい飛んでいるのはご愛敬。

 ぶつからないよう人波をかき分けていると、ある店の前で声が掛けられる。


「おや、クロノアちゃんじゃないか。そんな綺麗な子を引き連れちゃってどうしたの?」

「マルさん、おはよう。ンフフ、とっても綺麗な子でしょう? 今日はこの子とその侍女さんに軽く町案内をしてるんだ」


 パン屋の女主人マルおばさん。店を構え、軒先にも用意した売り場で道行く人々に焼き立てパンを売り込んでいる中年女性である。

 朝食は食べたのだけど、香ばしい匂いが漂ってきて我慢が出来なくなってしまった。バターロールを三つ購入する。


「ステラ様、侍女アンナさんもどうぞ。先ほど言ったホーンカウのミルクで作られたバターがたっぷり練り込んであって美味しいですよ」


 このマルさんは私に協力して色々と試作してくれるありがたい人だ。ホーンカウ製バターだけでなく、リガの実から作った酵母、各種フルーツから作ったジャムなど、魔の領域産素材をいい感じに商品にしてくれる。

 毒なんて入ってないですよ、という意味も込めて私が先に食べると、ステラ様と侍女さんも戸惑いを浮かべながらも口にしてくれた。


「……美味しい」

「……ですね。ふわふわもっちりとして、口の中で芳醇なバターの味わいが広がって……侯爵家で食べているパンより美味しいかもしれません」

「あらやだお嬢さんたち、口が上手いわね! よかったらこのクッキーも食べてみてね!」


 二人の賛辞に気を良くしたマルさんがクッキーの入った袋を押し付けてきた。もちろんクッキーにも魔の領域産素材が使われている。

 目を白黒させながら侍女さんがクッキーを受け取っていると、隣の露店から威勢の良い声が届く。


「よぅ、うちの串肉も食ってくれよ! クロノアの考案した豆ソースがいい具合に絡んで絶品だぜ!」


 肉屋のダッドおじさんだ。この人にも魔物肉のベーコンやらソーセージやら、あとはタレとかを試してもらっている。

 豆ソースと言っているけど、いわゆる醤油もどきである。麹作りの技術がまだ未熟なのだけれども、そこは素材の良さで補っている。これで技術が追い付いたらどれだけ美味になるのか、先がとても楽しみだ。

 ステラ様と侍女さんに小さめの串を渡し、私自身は大きめの串にかぶりつく。うん、美味しい。


「……クロノア様、色々と食べ物を開発しているのですね……?」

「美味しい食べ物は活力になりますからね」


 ただ食べて栄養補給するだけじゃ物足りない。美味しく食べた方が幸福度は高くなる。

 それに魔の領域の素材の価値が高まるとよその領に高く売れ、皆の懐が温かくなる。食べ物だけじゃなく他の分野でも活用出来るので、考えることはいっぱいだ。

 そうしている内に、あれもこれもとそこらの露店の人が食べ物を押し付けてきて、両手がいっぱいになってしまった。もちろん対価は逐一払っている。皆私がお金持ちなことを知っているし、お金をきちんと回すことの重要さを説いているからだ。そのお金目当てにあえて押し付けてくる強かな商人もいるけど、許容範囲内である。

 食べ物の露店が並ぶ場所を抜けて落ち着いたところで、荷物をリノサウルに括りつける作業中に、ステラ様がしみじみとした声で呟く。


「クロノア様は随分と領民と近く、慕われているのですね」

「私が平民だった頃からの付き合いですからねぇ。権威を翳したところでマイナスにしかなりませんし」


 これが辺境伯領における貴族への対応のスタンダードになったらそれはそれで問題が発生するのだけども、そもそも辺境伯領の領民は力を第一に掲げる習性があるから、よそから貴族が来たところで早々に阿ったりはしない。……実際に揉めたこともあるけど、心情的には「あなたたちが一体何してくれるんです? 地位で魔物倒せます?」と領民側の味方だ。そして慕われているように見えるのは……全部力のおかげである。ウフフ。

 もうしばし歩いたところで、広場と十字路が見えて来た。


「更に奥に進むと宗教区と職人区、右手側に農業区がありますが、そちらはまた追々で。今日はこちらの狩人組合ハンターギルドでの紹介がメインです」


 私は角にある大きな建物を差す。狩人ハンターはこの辺境伯領において貴重な人材なので、それなりに良い扱いはしますよ。というか、大きくしないと魔物素材が溢れることになる。大きさの大半は解体場と倉庫だ。


「私自身が狩人ハンターを兼任しているのもありますが、軍人だけで魔物を制することが出来ない以上、彼らとも密接に連携する必要があります。ステラ様も関わることが多くなるでしょう」


 狩人ハンターは軍人と違ってお金目的で狩人ハンターをやっているけど、魔物を間引きしてくれることにより魔災の規模が小さくなるのだ。

 私はリノサウルからステラ様を降ろし、併設されている厩舎に預けてから、二人を引き連れて狩人組合ハンターギルドの建物へと入って行った。

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