7 初めての時戻し ①
しばらくの間、ロガンとソレイユは邸の外で、ぎゃあぎゃあ騒いでいたが、私が相手にしないとわかると、離れに戻っていった。
自室で朝食をとりながら、先ほどのことを思い出して考える。
お父様がなぜ私を憎んでいるのか。
時戻しを繰り返せば、本人に問うこともできるのだろうけれど、自分のために時戻しはできない。私が使えるようになった魔法は、使ってはならない。もしくは使わないほうがいい魔法なんでしょうね。
魔法使い狩りが行われたのは、魔法を使えない人間が圧倒的に多かったことと、時の権力者が魔法を使われることを恐れたから。今の世にもその考え方は根付いたままだ。
「お父様はもしかして、わかっていたのかしら」
つい声に出してしまい、今さらではあるが、慌てて口を押さえる。
「ソラリア様、どうかなさいましたか?」
パンナが心配そうな顔をして尋ねてきた。
「ごめんなさい。考え事をしていたわ。それよりもパンナ、さっきは話が途中になってしまったわね。良かったら話してくれない?」
かぼちゃのスープを飲み干して言うと、扉の前に立っていたパンナは、暗い表情で話し始める。
「先代の旦那様から、ある契約をさせられているのです」
「……契約? 雇用契約ではなくて?」
「はい。全ての使用人が交わしたわけではありませんが、ソラリア様とソレイユ様のことで別途契約をしているのです」
「私とソレイユのこと?」
どんな契約内容なのか、まったく予想がつかない。
「どんな内容なの? それに、パンナは契約をしたの?」
「いいえ。私は契約しておりません。契約内容がとても酷いものでしたので……」
「酷いもの?」
「はい。一つはソレイユ様とロガン様の浮気を正当なものだと認め、ソラリア様には伝えないことです。このことは、私と同じく契約しなかった者も、ソラリア様を傷つけないようにと口を閉ざしておりました」
その気遣いが私を殺すことになったのだから、ありがたいものでもあり、必要のないものでもあった。
「そうだったのね。私がショックを受けると思ったの?」
「はい。ソラリア様はロガン様とうまくいっているように見えましたので……」
「ロガンとソレイユはどれくらい前から浮気をしているの?」
「ソラリア様とロガン様が婚約して少ししてからかと思います。ちょうどその時に、ソレイユ様はイライアス殿下に思いを伝え、断られたのだと、ソレイユ様の侍女から聞いています」
「……知らなかったわ」
あれだけ熱を上げていたのに急に大人しくなったのは、そのせいだったのね。その頃はお父様は生きていたし、ソレイユに頼まれて、浮気を認める契約書を作った?
いや、それは理由にならないか。
話をしたくないけれど、ソレイユに確認をすべきか考えた時、離れのほうが騒がしくなった。何が起きたのか確認しようと窓に駆け寄って、離れの方角を確認する。
離れは庭園の向こう側にあり、本邸から歩いて三分ほどの場所にある。そちらの方角から、灰色の煙が上がっているのが見えた。
「どういうこと? 火事なの?」
パンナとの話を中断し、部屋を飛び出したところで、執事がやってきて叫ぶ。
「ソラリア様、大変です! ソレイユ様が離れに火を放ちました!」
「なんですって?」
「住む場所がなければ、本邸に戻れるだろうと考えたようです。そして……」
「なんなの? 早く言って!」
言い淀む執事を急かすと、彼は眉尻を下げて口を開く。
「自分にこんなことをしたソラリア様を悲しませようと、侍女など使用人の数人を火が激しくなった離れに閉じ込めたのです」
「そんな……」
私のせいで使用人たちの命が奪われるかもしれないの?
絶望を感じた時、頭の上で「ベェェー」と鳴き声が聞こえた。
使い魔は主人の頭の上にいるのが落ち着くらしく、ベェは用事がない時は、私の頭の上に鎮座している。
「ベェ?」
名を呼んだ瞬間、目の前から執事の姿が消えた。しかも、私の体はエントランスホールに移動しており、扉の向こうからは、ソレイユたちが「開けて!」と叫ぶ声が聞こえた。




