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レイハート公爵夫人の時戻し  作者: 風見ゆうみ


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3  王子と使い魔 ①

「あの」


 助けてくれた人物に礼を言おうとして振り返る。艶のある肩より少し長い黒髪を後ろに一つにまとめた若い男性が、私を見つめて微笑んだ。


「咄嗟に腕をつかんでしまった。余計なことをしてしまったのならごめんね」

「い、いえ。助けていただき、ありがとうございます」


 耳に心地好いバリトンボイスで囁かれ、私は自分よりも頭一つ分背の高い彼を見つめて礼を言った。

 どうして、この方がここにいるの?

 私が問いかける前に、部屋から出てきたソレイユが、私の背中を優しく撫でる青年の名を呼ぶ。


「イライアス殿下! どうしてこちらに? も、もしかして、私に会いにきてくださったのですか?」

「夜分遅くにやって来ただけでなく、勝手に邸内を動き回ってごめんね。ソラリア……、いや、今はまだレイハート公爵夫人か。彼女とどうしても話がしたくてね」


 私たちの前に現れたのは、イライアス・オビアン。

 バクタ王国の第三王子で、笑顔が可愛らしい美青年だ。

 一時期、ソレイユが熱を上げていたことや、彼とは年が近いこともあり、社交場で何度も話をしたことがあった。

 ……そうか。ソレイユが大人しくなったのは、ロガンと関係を持ち始めたからなのね。

 余計なことを考えていると、イライアス殿下が私に手を合わせて謝る。


「本当にごめんね。非礼はいくらでも詫びるよ。ただ、君に少しでも早く話したいことがあるんだ」

「……もしかして、ロガンとソレイユの件でしょうか」

「そうだけど、もしかして、二人のことを知ってたの? それなのに、何の対策もしていなかったってこと?」


 目を丸くするイライアス殿下を見た私は、自分が私の時を戻した人物が誰か分かった気がした。


「申し訳ございません。その話は後ほどさせていただきます」


 お客様が王子殿下なら、いくら失礼な時間帯だといっても、これ以上、待たせるわけにはいかない。しかも、王太子殿下も一緒に来ているというのだから余計にだ。

 執事にもっと詳しい話を聞いておくべきだった。人の話は最後までしっかり聞いておかなければならないと猛省した。

 ソレイユとロガンとは明日、改めて話をすることにし、とりあえず、二人を邸の隣にある離れに追い出した。


「ソラリア! 本当に誤解なんだ! ちゃんと話を聞いてほしい!」


 白いシャツを羽織ったロガンは、涙で顔をぐちゃぐちゃにして訴えていたが、私は一睨みしただけで返事はしなかった。

 開き直られるのも腹が立つが、悪いことをしておいてメソメソ泣いているところを見ると、余計に苛立ってしまう。

 泣きたいのはこちらのほうだ。

 この怒りと悔しさは明日にぶつけることにし、イライアス殿下と共に、応接室に待たせている王太子殿下の元へ急いだ。

 王太子殿下であるラックス様は、私と同じく黒い髪にワインレッド色の瞳を持っている。長身痩躯で黒い服ばかり着ていることや、吊り上がり気味の目のせいで、冷たい印象を受けるが、婚約者には優しいことで有名だ。

 イライアス殿下も私と同じ髪と瞳の色のため、彼らのおかげで最近は髪色と瞳の色だけで魔法使いだと揶揄する人はほとんどいなくなっている。

 今日来ていない第二王子殿下は、金色の瞳に青色の髪を持っており、王妃陛下の血を色濃く受け継いでいると噂されている。

 一定数の貴族はまだ髪や瞳の色にこだわりがあり、王太子には第二王子殿下を推すという声もあるそうだ。

 大事なのは外見よりも性格や能力だと思うが、偏見をなくすことは難しい。

 茶色のソファカバーが掛けられた二人掛けのソファに、足を組んで座っている王太子殿下の隣に、イライアス殿下は、きちんと足を揃えて座った。

 醸し出すオーラは違うものの、見た目は兄弟だとすぐにわかるほどに目つき以外はそっくりだ。

 イライアス殿下はいつも温和な笑みを浮かべているが、王太子殿下は家族と婚約者以外の前では、いつも不機嫌そうな顔をしており、今も私を睨みつけていた。

 今までは、攻撃的なオーラを出してくる王太子殿下が苦手だったが、今はそんなことを気にしている場合ではなかった。メイドがお茶を淹れて出ていき、三人だけの空間になった瞬間、とんでもない幻覚が見えるようになったからだ。

 イライアス殿下の頭の上に、フサフサの真っ白な毛の子犬がちょこんと座り、黒いつぶらな目を私に向けて、尻尾を左右に振っている。

 王太子殿下の頭の上には真っ黒な子猫がまん丸した目で私を見つめていた。

 かわいい。かわいすぎるわ!

 犬か猫、どちらが好きかと言われたら、犬派かもしれない。でも、猫も大好き。

 幻覚が見えていることを悟られてはいけないと思った私が、緩む頬を叩いていると、王子二人が私の頭の上を凝視していることに気がついた。

 王太子殿下は呆れた顔をしているが、イライアス殿下はなぜか楽しそうな顔をしている。

 まさか、私の頭の上にも何かいるのかしら。いや、そんなわけがないわよね。だってそんな気配は全くしないもの。

 私は恐る恐るといった様子で、二人に聞いてみる。


「あの……、どうかされましたか?」

「いや、お前は奇妙な生きものを連れているな」


 王太子殿下は凛としたよく耳に響く声で、私の質問に答えた。


「奇妙……ですか」


 レイハート公爵家内でペットは飼っていない。生きものを連れているというのはどういうことなの? やっぱり、私の頭の上にも動物がいるんだろうか。

 疑問符が浮かんだ時、頭上から聞き慣れない鳴き声が聞こえてきた。


「ベェェー」

「べ、ベエ?」


 驚きのあまり声に出すと、イライアス殿下が吹き出した。


「レイハート公爵夫人に聞きたいんだけど、君は魔法についてどう思う?」

「魔法について……ですか?」

「うん。平民は別として、貴族の間では、魔法使いは野蛮な存在だよね」


 にこりと笑みを浮かべるイライアス殿下の頭の上では、白い子犬が「ヘッヘッヘッ」と舌を見せている。

 気になって仕方がないけれど、本人たちが気づいていないのにこの話をしたら、頭のおかしい人だと思われてしまうかもしれない。

 見えているような可能性が高いが、万が一ということもある。

 魔法使いだとバレて、一度も魔法を使う前に魔力を失いたくない。でも、嘘をつきたくはなかった。


「野蛮な存在だとは思いません」


 魔力があることを知られないためにも悪口を言うべきなのかもしれない。でも、どうしても口にできなかった。


「そうか。それなら良かった。二番目の兄はそういう考え方なんだよ」

「そうだったのですね」


 それは知らなかった。

 ……ということは、第二王子殿下は私にとって危険人物ということか。

 王太子殿下とイライアス殿下は仲が良いことで知られているが、第二王子殿下は二人と仲が悪いという噂も聞かないが、仲が良いと聞いたこともない。

 考え方の違いでお互いに避けているといったところかしら。それにしても、どうして二人はこんな時間に私の所へ訪ねてきたのか。

 そう考えた時、イライアス殿下の頭の上にいた白い子犬がふわりと飛び上がり、私に近づいてきた。

 かわいい! 

 ああ、駄目駄目。

 もし、殿下たちにこの犬が見えていなければ、私はおかしな目で見られてしまう。


「レイハート公爵夫人、ルピがごめんね」


 イライアス殿下が苦笑して私に謝った。

 ……ルピ?

 この子の名前かしら。


「あの、イライアス殿下、どういうことでしょうか?」

「君には見えているんでしょ?」

「……はい?」

「君の頭の上に、使い魔がのっているんだけど気づいてない?」

「つ、つかいま、ですか?」


 そんな言葉は初めて聞いた。


「どういうことなんだろう。今までレイハート公爵夫人と何度も会っているのに、使い魔は見えたことがなかったんだけどな」


 眉根を寄せて考え込むイライアス殿下に、王太子殿下が、私に視線を向けて答える。


「誰かに力を封印されていたんだろう」

「……そういうことですか」

「あ、あの、お二人は一体、何をおっしゃっているのですか?」


 困惑して尋ねると、また頭の上から「ベェェー」という鳴き声が聞こえた。



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