31 元婚約者の暴走 ①
私とイライアス様の結婚の話はトントン拍子に進み、十日後には結婚が決まった。
領民には新聞などを通じて理解を求めたところ、王命であるからか、特に批判はなく、おめでたいムード一色となったのありがたい。
レイハート公爵領内で随一の繁華街に視察に行ってみると、お祝いのイベントを計画していると、商店の店主たちから声を掛けられた。
相手がイライアス様だったから、すんなりと受け入れてくれたのだろう。
同時期にロガンとソレイユの浮気のことも公表されたため、一気にオウガ侯爵家の信用は落ちた。
ロガンの兄は、オウガ侯爵家を存続させるため、陛下に当主の変更を求めた。通常では現当主が亡くなってから跡を継ぐものだが、今回は不適任者として隠居させる形になる。
陛下は家族間での話し合いと、領民の許しを得られた場合のみと条件を付けて承諾した。
社交界で流れた噂では、いくら次男とはいえ、侯爵が甘やかしすぎたのは良くないという考えの領民が多いらしく、当主の変更は正式に認められるだろうとのことだ。
結婚を決めた日から、私はイライアス殿下のことをイライアス様、イライアス様は私のことをソラリアと呼ぶことに決まった。
名前の呼び方を少し変えただけなのに、お互いに意識してしまい、ルピとベェから呆れられてしまった。一緒に過ごしていけば、それが当たり前になる。今は、このドキドキを大切にしたいと思った。
そんな幸せムードな私の頭を悩ませたのはロガンだった。
ロガンは私とイライアス様の結婚の話に衝撃を受け、大量の手紙を送りつけてきたのだ。
私は読んではいないが、代わりに読んでくれたパンナやメイド長が言うには、私が自分以外の誰かと結婚なんてしたら生きていけないなど、死を思わせるワードが並んでいるそうだ。
ロガンとの付き合いは長い。彼にそんな勇気がないことは知っている 自分が痛い思いをすることを嫌がる人だ。だからこそ、他の人を傷つけようとするのではないかと心配になった。
いくら時戻しの魔法を使えるにしても、自分のせいで誰かが傷つくミスは、もう犯したくない。ロガンが馬鹿なことをしないように、見張りをつけることにした。
ソレイユは、レイハート邸の前で暴れただけでなく、イライアス様に結婚をやめるように直談判しようと、王城に乗り込もうとした罪で、騎士隊に逮捕された。
現在は留置所にいるようだが、リット殿下の手配で近いうちに保釈されると聞いている。
「リット殿下はどうしてソレイユを助けるのかしら。彼は女性が嫌いなのよね? それなら、ソレイユを見捨てるのが普通だと思うんだけど……」
「ベェェー」
今日の出来事を日記帳に書き終えてから、私は頭の上にいるベェに話しかけた。
夜も遅い時間で、ベェは目をとろんとさせていながらも、問いかけには答えてくれようとする。だが、残念ながら「ベェェー」と鳴いているようにしか聞こえない。
「ごめんね。ベェが何を言っているのか、まだわからないわ」
頭を撫でながら謝ると、べェは私の顔の前まで飛んでくると、背中のシルバートレイを、自分の胸の前に持ってきた。
「どうしたの?」
「ベェェー!」
ベェが鳴いた瞬間、シルバートレイの平たい部分に黒い文字が浮かび上がった。
「ど、どういうこと?」
「ベェ!」
困惑していると、浮かび上がっていた文字が切り替わる。
さっきは『リットはわるいやつ!』だったが、今は『ソラリアとおはなししたい』と書かれている。
「ありがとう! 私もベェとお話できるなんて嬉しいわ!」
「ベェェー!」
ベェは嬉しそうに鳴いて、私にすり寄ってきた。
「どうして今になって、シルバートレイに文字が浮かぶようになったの?」
こんな機能があるのなら、もっと早くに使ってほしかったとワガママなことを思った。
「ベェ!」
ベェは私から少し離れてシルバートレイを掲げた。すると、すぐに黒い文字が浮かび上がる。
『ソラリアがこころを閉ざしていたから』
「心を閉ざしていた?」
私は思わず聞き返してしまっていた。
「ベェ」
うんうんとうなずくように頭を振るベェを見つめて考える。
ロガンたちに裏切られて、人を信じられないと思った時もあった。そんな気持ちがベェたちのおかげで少しずつ解きほぐされて、今に至るという感じかしら。
「そうだったのね。色々とごめんなさい」
「ベェ!」
『いいよ~!』
ベェの明るい返しに、私の心は本当に救われた。ベェの可愛さと無邪気さに、私は助けられてきた。これからは、ベェにも恩を返していかなくちゃ。
それにしても、ベェが持っているものに限定されるのでしょうけど、シルバートレイってこんなに役に立つものなのね。
変な納得をしつつ、その日は夜遅くまでベェとのお話を楽しんだ。
それから二日後、私のもとにロガンがソレイユを襲おうとしたという連絡が入ったのだった。




