21 第二王子の企み
リット殿下は、金色の髪に青色の瞳を持つ美青年だ。
国王陛下似のイライアス殿下たちとは違い、リット殿下は王妃陛下に似た顔立ちで、まつげが長く美しい顔立ちをしている。
現在、二十一歳で婚約者はいるが、婚約者のことを気に入っていないらしく、婚約を解消するという噂を聞いたことがある。
「リット殿下にお会いできて光栄です」
私とミティ様が立ち上がってカーテシーをすると、リット殿下は鼻で笑った。
「僕は嬉しくないけどね。ああ、そうだ。ソラリア、ソレイユから聞いたが、結婚してすぐに離婚になったんだってねぇ?」
「……夫がソレイユと浮気をしていましたので、そうなりました」
「気づかないなんておかしくない? 馬鹿なんじゃないの?」
どうして彼が私たちの問題に首を突っ込もうとするのかわからない。
自分と仲が良くないイライアス殿下と仲良くしている私が気に入らないとか?
……今はそんなことを考えている場合じゃないわね。
「気づけなかった点については、おっしゃる通りだと思います」
軽く頭を下げると、イライアス殿下がリット殿下に話しかける。
「リット兄さんの言い方だと、浮気した人間よりも気づかなかった人間のほうが悪いといっているようにも聞こえますがどうなんですか」
「わかっているじゃないか。あ、でもな、恋人や夫、婚約者のいる女が浮気することは一番悪いことだ」
「男は浮気をしてもいいが、女は駄目だという理由はなんだ」
不機嫌そうにラックス殿下が尋ねると、リット殿下は笑う。
「女なんて子供を産むための道具じゃないですか。男に比べたら下等な生き物ですよ」
「その理屈でしたら、女がいなければ子供はできませんが」
相手にしなければいいのに、つい言葉を返してしまった。
だって、向かいに座るミティ様が悲しそうな顔をしたんだもの。
「男に食べさせてもらっているくせに文句を言うな」
都合が悪くなったのか、話をすり替えようとしている。
本当にくだらないわ。
「ラックス殿下、ミティ様にこんな酷い話を聞かせるわけにはいきませんわ」
「酷い話だって?」
リット殿下は不機嫌そうに眉をひそめた。
「言葉が過ぎました。申し訳ございません」
いくら事実とはいえ、王族に対してさすがに失礼な発言だったと思い頭を下げた。
「レイハート公爵代理、お前は謝らなくていい。俺もリットも発言は酷い。いや、それ以上に不愉快で女性に対して失礼な発言だ」
ラックス殿下はリット殿下を睨みつけたあと、優しい表情に戻して、ミティ様の手を取る。
「ミティ、二人の時間を邪魔されたくないから行こう」
「あ、はい」
ミティ様は急いで立ち上がり、私たちに軽く一礼して、ラックス殿下と共に去っていった。
二人の背中を見つめるリット殿下の目を見た時、彼がなぜソレイユを使って、ミティ様を排除しようとしたのかわかった気がした。
リット殿下は魔法使いを嫌っている。嫌っている理由はわからないが、隠れている魔法使いをあぶり出し、今度こそ絶滅させたいのではないだろうか。その案を通すためには、国王になるのが一番早い。
ラックス殿下がいなければ、自分が国王になる可能性が高くなる。ラックス殿下を潰す一手として、ミティ様の命を奪おうとしたのではないだろうか。
ミティ様に何かあれば、ラックス殿下は冷静な判断を下せなくなり、国王にふさわしくないと判断されると思ったのではないか。
他に気になるのは、ソレイユとリット殿下が繋がっている理由ね。
「グルルル」
「シャアァァッ」
テーブルの上でルピが唸り、ラックス殿下に付いていかなかったクロも毛を逆立ててリット殿下を威嚇している。
リット殿下が危険人物であることは間違いなさそう。
二匹が攻撃しないのは、変に怪しまれる状況を作らないようにしているからだろう。
そう考えた私は、飛んでいこうとしたベェを、自分のお腹に押さえつけるようにして抱きしめた。
「ベェ!」
ベェが不満そうに鳴いたが、悪いけど無視させてもらう。
「リット兄さん、彼女は公爵代理として働いていますし、あなたの世話をしてくれているメイドたちも女性です。彼女たちがいなければあなたは生活できないと思いますが?」
「……お前はいつも生意気だよなぁ」
「事実を言ったまでです」
イライアス殿下が鋭い眼差しを向けると、リット殿下は怯んだのか、私に視線を移す。
「ソレイユと絶縁するらしいな」
「何か問題でもありますでしょうか」
「あるねぇ」
リット殿下はにやりと笑みを浮かべて続ける。
「ソレイユと婚約しようか迷っているんだ」
予想外の発言に驚いたが、私は動揺を隠してリット殿下を見つめる。
ソレイユと婚約ですって? 今まで大した関りもなかったはずなのに、この人は一体、何を考えているの?
「父上から許可は下りているのですか」
イライアス殿下が尋ねられたリット殿下は、首を横に振る。
「まだだが、彼女は公爵令嬢だからなんとかなるはずだ」
「父が亡くなった時点で、ソレイユは公爵令嬢ではありません」
事実を伝えると、リット殿下は顔を真っ赤にした。
「揚げ足を取るな! 公爵家の娘だったことに変わりはない! だが、お前との絶縁は不利になる。彼女と絶縁するのはやめろ」
「申し訳ございませんが、ご要望にお応えすることはできません」
リット殿下の後ろにいる兵士たちが、私を見つめていることがわかった。
余計なことを言うなと言いたそうね。
「兄さん、父上がそんなことを許すわけがないでしょう。それに今の婚約者はどうするのです?」
「お前は馬鹿なのか? 婚約を解消するに決まってる」
アハハハと腹を抱えて下品に笑い始めたリット殿下の背後がざわめき始めた。城のほうから大柄の男性が、数人のお供を引き連れて、こちらに歩いてくるのが木々の隙間から見えた。
そんなことには気づかずに、リット殿下は笑いながら宣言する。
「僕は自分の願いは何があっても叶えるタチなんだ。絶対に思い通りにしてみせる」
「今の婚約者との婚約を解消し、ソレイユと婚約するとおっしゃるのですか?」
「そうだ」
「そんなことを許すわけがないだろう」
私の問いかけにうなずいたリット殿下の顔から笑みが消えた。
彼の背後に立ったのは、赤のロイヤルマントを羽織った、国王陛下だった。




