18 妹との絶縁 ①
ソレイユがどうして王城にいるの?
塔の上から落とされた人物がソレイユなのかどうか気にすることよりも、そっちの疑問が頭に浮かんでしまった。ソレイユはにこりと微笑み、まるで私の考えを読んだかのように話し始める。
「第二王子殿下のリット殿下からお誘いを受けたの。お姉様にいじめられた私を可哀想に思ってくださったのよ」
「リット殿下から?」
ソレイユとリット殿下が親しいなんて話は聞いたことがない。
彼女が熱を上げていたイライアス殿下とリット殿下の仲は良くないみたいだし、良くないことを考えていなければいいけど――。
「ベェェー!」
「ウォフ!」
ベェとルピの鳴き声で、私は思考を切り替えて、ソレイユを見つめる。塔から落とされた人物は、白いドレスを着ていた。
もしかして、ソレイユが塔から落とされたの?
「ごきげんよう、ソラリア様。お会いできて光栄です」
ソレイユの後ろから高くて可愛らしい声が聞こえた。
首を傾げると、子供かと思ってしまうくらいに背が低く、愛らしい顔立ちをした女性が顔を出した。
バクタ王国の貴族で、彼女のことを知らない人はいない。カーテシーをする彼女に、私もカーテシーをして微笑む。
「ごきげんよう、ミティ様。こちらこそ、お会いできて光栄ですわ」
「ご結婚、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
笑顔のミティ様から悪意らしいものは一切感じられない。私とロガンの件について、まだ何も聞いていないらしい。
実は結婚は無効になります。
とは、まだ言えず、お礼を言うだけにとどめておいた。
金色のふわふわの髪に薄いピンクの瞳を持つミティ・レレンス伯爵令嬢は、第一王子殿下の婚約者だ。
無愛想なラックス殿下も、彼女の前では笑顔を絶やさないため、猛獣使いと影で噂されている。裏表のないとても優しい人で、女性からも人気がある。
今日のミティ様は、ソレイユと同じく白いドレスを着ている。
あの時、塔から落ちたのはミティ様だったんだろうか。
酷い人間だと言われるかもしれないが、ソレイユは塔から落とされる側というよりかは、落とす側のイメージがある。
ただ、ソレイユがミティ様にあんなことをする理由がわからない。まあ、それを言い出したら、ミティ様がソレイユを落とす理由もわからないけれど――。
考えていると、ソレイユがミティ様に話しかける。
「ミティ様、お姉様は離婚なさるんです」
「えっ?」
「よろしければ城内を案内してくれませんか。詳しい話をお聞かせできますよ」
満面の笑みを浮かべて、ソレイユが言った。
なんてあつかましいことを言うのかしら。
たしなめようとした時、ミティ様が頭を下げた。
「申し訳ございません。ご一緒したいのは山々なのですが、この後は、ラックス様との約束がありまして……」
「大丈夫です。ミティ様の到着が約束の時間より少し遅れると、リット殿下からお話してもらいますわ。お姉様の話が気になるでしょう?」
「気にならないと言えば嘘になりますが、ラックス様との約束のほうが大事です」
ミティ様は躊躇う様子はなく、きっぱりと答えた。すると、ソレイユは目を潤ませる。
「ミティ様は、私とお話することが嫌なのですね」
「そういうわけではないのです。ただ、約束の時間に遅れるわけにはいきません」
ミティ様が焦った顔になったので、ソレイユは涙を拭って微笑む。
「ご安心ください。先程も申し上げましたが、ラックス殿下には伝えておきますので」
「それでしたら……」
ミティ様が折れた時、私が会話に割って入った。
「ミティ様、元妹が申し訳ございません。彼女の言うことは気にせず、ラックス殿下とのお約束を優先なさってください」
「……元妹、ですか?」
ミティ様がきょとんとした顔で私を見つめた。
ちょうどいい機会だから、ここで話をしておきましょう。
困惑した様子のミティ様に微笑みかける。
「ええ。私は彼女を家から追い出したのです。彼女にはもう、公爵令嬢という肩書はありません」
「お姉様、なんてことを言うのよ⁉」
ミティ様が言葉を発する前に、ソレイユは怒りで顔を真っ赤にして私に叫んだ。笑みを絶やさず、冷静に答える。
「ソレイユ、絶縁状をあなたに送りつけるから、必ずサインをしてね」
「そ、そんな馬鹿なことって……」
ソレイユの顔から笑みは消え去り、怒りで歯ぎしりをしながら、私を睨みつけた。




