14 妹の悪巧み
そうだった。ソレイユのことを忘れていたわ。
お父様はソレイユとロガンの間に子供を作らせ、私をお飾りの妻にさせたかったみたい。
以前は、ロガンがその約束を破って、私と関係を持っていたのでしょう。だから、子供ができたとわかって、ロガンは子供だけを殺そうとしたってところかしら。
それにしても、お父様とロガンはどんな約束をしていたのかしら。
「ソラリア様、お身体が冷えてしまいますので、中にお入りください」
パンナに促されて振り返ると、一緒に見送っていた使用人たちはほとんどいなくなり、兵士とパンナと執事だけになっていた。
「そうね。そうするわ」
私は邸内に入る前に執事に指示をする。
「ソレイユはあの部屋から出たいみたい。この邸内に彼女の居場所はないから、オウガ侯爵邸まで送る手配をしてちょうだい。それから、もし、彼女が帰ってきたとしても中に入れないで」
「承知いたしました」
執事は恭しく頭を下げると、兵士を連れて離れに向かって歩いていった。
「ベェーベェー」
部屋に戻り、自分だけになったところで、ベェが急に泣き始めたので、慌てて頭上を見上げた。白いもふもふの塊がいつもよりも大きく見え、私は目を瞬かせる。
ドレッサーの鏡で確認してみると、困り顔のベェの横に、なぜかルピがいた。
「ど、どうしてルピがここにいるの? あなた、さっきはイライアス殿下と一緒にいたじゃない!」
イライアス殿下が馬車に乗り込んだ時には、彼の頭の上に座っていたのに!
「ウォフ!」
ルピはやっと気づいてもらえたと言わんばかりに、尻尾を振った。
「一応、イライアス殿下は知っているのよね?」
ルピは私の話していることがわかるはずなので確認した。
「くぅぅ」
元気に吠えてくれるかと思ったが、ルピは体を小さくさせ、ベェの後ろに隠れてしまった。
「伝えていないのなら、イライアス殿下のところに戻りなさい」
「クゥン」
ベェの後ろから顔を出して私を見つめる、ルピは本当に可愛い。だけど、甘くなってはいけない。
「イライアス殿下が心配するわよ」
いやいやと言うように首を振るので、心を鬼にして、もう一度帰るように伝えようとした時だった。扉がノックされたので返事をすると、入ってきたのはソレイユの侍女だった。
私と年の変わらない、気の強そうな顔立ちの細身の侍女に、私から先に話しかける。
「あなたが望むなら、ソレイユに付いていってもいいわよ」
「いえ。私はソラリア様にお仕えしたいと思っております」
ソレイユの侍女は迷うことなく、笑顔で答えた。
彼女はサービングカートを押してきており、その上には青い花が描かれた白いティーカップと、同じ柄のティーポットが載っている。
大きな皿には一口サイズのクッキーが並べられ、ルピが嬉しそうに尻尾を振った。
お茶を淹れるのはメイドの仕事だが、侍女がやってはいけないわけでもない。ただ、彼女が持ってきたお茶は、怪しすぎて飲む気になれない。
「私に何か用?」
「お茶をお持ちいたしました」
「……ありがとう。テーブルの上に置いておいてくれる?」
飲む気はないが、怪しんでいることを今はまだ知られたくない。
「承知いたしました」
媚びているのか、満面の笑みを浮かべてソレイユの侍女はうなずくと、テーブルにカップなどを移していく。
ふわふわとルピが近づき、クッキーの匂いを嗅いだあと、ティーポットに近づいた。ふんふんと鼻を動かした瞬間「ウォフ!」とティーポットに頭突きした。
ガチャンと音を立ててティーポットが倒れ、中身がこぼれ出す。侍女は慌ててティーポットを起こして、私に謝った。
「申し訳ございません。淹れ直してまいります」
テーブルの上に広がった紅茶と唸っているルピを見て、私は自分が死んでしまった時のことを思い出した。
怪しいと思っていたけど、この飲み物にも毒が入っていたのね。
「このお茶の茶葉はどこのもの?」
「……ソレイユ様がソラリア様の好きな茶葉だからと言って、ここを出る前に私にくださったのです。どこの茶葉かはソレイユ様に聞いてみなければわかりません」
「茶葉はまだ残っている?」
「はい」
「では、悪いけど、ソレイユを追いかけて、その茶葉で淹れたお茶を飲むように言ってちょうだい」
「は……、はい」
侍女は困惑した様子でうなずいた。私はにっこり微笑んで促す。
「ほら、速く追いかけて。今ならそう遠くには行っていないはずよ。片付けはパンナにしてもらうわ」
「承知いたしました!」
侍女は返事をすると、急いで部屋を出ていった




