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幼馴染が熱を出した? どうせいつもの仮病でしょう?  作者: 小平ニコ


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第12話(パメラ視点)

「まあ、いつまでも甘ったれた小娘を説教しててもしょうがねぇ。ビジネスの話をしよう。安心しな、利子は高いが、法外って程でもねぇよ。あんたはひたすら真面目に働いて、じっくり負け分を返していけばいい。……お嬢さん、あんた、何か特殊な資格や、人に誇れるような能力があるか?」


「……ないわ」


「ひとつもか?」


「…………」


「そうか。じゃあ、職歴は? これまで、どんなところで働いたことがある?」


「……働いたことなんて、一度もないわ」


「一度も? 本当か? アルバイト程度のことでもいいんだ、それならなにか、一つくらいはあるだろう?」


 聞き返されても、ないものはない。

 私には、なんにも人に誇れるものがない。

 だって、ずっとずっと、ジョセフに寄生して生きてきただけだもの。


 これまでは、それを恥ずかしいことだなんて思わなかった。


 でも、ジョセフに頼ることのできない今の状況で、改めて自分自身に何があるのか考えると、本当に何もないことを思い知らされ、みじめでみじめで、両方の瞳からぽろぽろと涙がこぼれてくる。


 黒ずくめの男は、小さくため息を吐いて、口を開く。


「じゃああんた、今までどうやって生きてきたんだ?」


「それは、その、ジョセフの家に、居候して、えっと、世話を……」


「能無しの居候の分際でギャンブル遊びか、いい身分だな。あんたの世話をしてたジョセフさんとやらも、さぞ苦労しただろうぜ」


「ううぅぅぅ……」


「まあいい。実務能力や職歴がなくても、若い女なら、働き口はなんとでもなる。いい店を紹介してやるから、そこで頑張るんだな。あんた、顔は中の上ってところだが、体つきは健康的で、男受けするタイプだ。一生懸命愛想を振りまけば、利子分も含めて、一年ほどで負け分を払いきれるだろうぜ」


 若い女なら、働き口はなんとでもなる――

 体つきは健康的で、男受けするタイプだ――


 なんだか凄く嫌な予感がして、私は尋ねた。


「あ、あの、まさか、その働き口って……」


 男は、事も無げに言う。


「娼館だよ。心配すんな。うちの組織が運営してる店は、やばい客ははじくようにしてる優良店だ。安心して働けるぜ」


 娼館!?


 じょ、じょ、じょ、冗談じゃないわ!


 私が!


 この私が!


 きたならしい淫売になるなんて! 絶対にいや!


 私は立ち上がり、叫んだ!


「いやよ! いや! そんなのいや! いやいやいやいや! 絶対にいや! いやあああああぁぁぁぁぁ!!」


 こうやって駄々をこねると、ジョセフはいつも困ったような笑顔になり、私のワガママを聞いてくれた。そうよ、いつだって、なんだって、こうすれば私の思い通りになるんだから。


 しかし、目の前の黒ずくめの男は、つまらないおもちゃを見るような目で私を見下し、それから「ちょっと黙れ」と言い、パンッと私の頬を叩いた。


 私は茫然とし、叩かれたばかりの頬を押さえる。


 この大男が、本気で私を殴ったなら、今頃体ごと吹っ飛んでるはずなので、彼にとっては、ほとんど力を入れず、私を黙らせるためだけに叩いたのだろうが、それでも私は、凄まじい精神的ショックを受けた。


 だって、顔を叩かれるなんて、生まれて初めてだったから。


 三年前、路上でジョセフと取っ組み合いをしたとき。私は無遠慮にジョセフの顔を殴ったが、ジョセフは一度だって、私の顔を殴り返したりはしなかった。


 そう。


 どんなに怒っていても、心に余裕がなくても、ジョセフは絶対に、私を殴ったりはしなかった。……今更になって、ジョセフの優しさを知り、私は、泣いた。声を上げて、泣いた。


 黒ずくめの男は、もう一度タバコをふかし、やれやれと言った感じで口を開く。


「さてさて、売春がいやって言うなら、どうする? 能無しのあんたに、他に金を稼ぐ方法があるのかい? パン屋で働くか? お針子でもするか? 言っておくが、パン屋もお針子も、大変な仕事だ。根性なしの世間知らずにゃ、とても務まらねぇよ。しかも、大して給料が出るわけでもねぇから、負け分を完済するには、途方もない年月がかかる」


 わかってる。

 パンの焼き方なんて知らないし、針仕事なんて、したこともない。


 でも、売春だけは絶対にいやだった。

 見知らぬ男に触れられるだなんて、想像しただけで身の毛がよだつ。


 私はもう、恥も外聞もなく、土下座して、黒ずくめの男に哀訴した。


「お願いします、お願いします、売春だけは、許してください……他のことなら、なんでもしますから、売春だけは……どうか……どうか……」


 黒ずくめの男は、しばらく何も言わなかった。たぶん、時間にして、わずか一分程度だと思うけど、彼は、静かにタバコを吸い続けた。たったの一分でも、私にとっては、長い長い沈黙に感じられた。


 そして、黒ずくめの男は、やっと口を開く。


「わかったよ。そんなに嫌ならしょうがねぇ。嫌々やられちゃ、娼館の評判が落ちちまうからな。……もう一つ、あんたでもできそうな仕事を紹介してやるよ。ただし、もう二度とワガママはなしだぜ。『他のことなら、なんでもします』って、自分で言ったんだ。泣いても喚いても、取り消せねぇからな」


 私は、頷いた。

 売春以外なら、どんな過酷な仕事でも、耐えるつもりだった。

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