四五〇円の幸せ(2023.5.23)
デパートの一階にある、お気に入りのフードコート。
仕事帰り、今日も行きつけのティースタンドに立ち寄って、東方美人タピオカミルクティーMサイズを注文した。ゴミ箱の隣にある人気の無い席に陣取り一息つく。スマートフォンをチェックすると彼氏からのLINEが来ていた。
『お仕事おつかれ様! 今どこ?』
いつものフードコートにいるよ、と返信する。すぐに返信が来て、近くにいるから今から来るとのことだった。タピオカミルクティーをすすりながら待つことにする。
「お待たせ!」
待ち伏せしていたんじゃないかってくらい早く来た彼は、夏の陽気で汗ばんだ額を拭いながら言った。
「今日は何飲んでんの? 鉄観音?」
「ううん、東方『美人』。紅茶みたいな烏龍茶」
「あら、それアタシのこと?」
わざとオネエ言葉を使ってみせる彼は僕とは対照的で、浅黒い肌にスキンヘッドのスポーツ系。運送会社のドライバー(彼)と事務職(僕)として知り合った僕たちは、職場にもオープンにして付き合っている。
「オレも東方美人飲もうかなー。ちーちゃんのオススメある?」
「えっと、ミルクティーも美味しいけど、暑いからフルーツティーがおすすめかなあ。イチゴかマンゴーが合うと思うよ」
「オッケー、じゃあマンゴーにするワ!」
またしてもオネエっぽいイントネーションで言った彼は、ティースタンドのレジに向かった。列に並ぶ彼の広い背中を眺めながら、出会ったときのことを思い出していた。うつ病で障害者雇用で入社した僕が、トランスジェンダーであることを、ホルモン注射のことを女性上司と話題にしていた日のことを。オネエ丸出しで会話に乱入してきた彼のことを。
『やだカワイイ! 鏡を見ているのかと思ったワ!』
そう、僕もほぼスキンヘッドの坊主頭なのだ。
昔はヘヴィメタルのバンドをやっていたから、髪を腰まで伸ばしていた。でもうつ病になって、お風呂に入れなくなって、ベタつく髪の毛に耐えきれなくて、坊主にした。その喪失感はとてつもなく大きくて、ずっと引きずっていたのだけど、彼と知り合ってから段々と前向きになれたのだ。スキンヘッドを誇らしげに光らせている彼と。
「お待たせー! 喉乾いてるからLサイズにしちゃった!」
彼が僕の向かい側の席に座る。
東方美人のタピオカミルクティーとナタデココフルーツティーで乾杯した僕たちは、笑いながら、職場であったことや最近ハマっていることなんかを話すのだった。




