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ヒロトは、小学生の時と比べると別人だ。ぽっちゃりしているのをからかわれていたこと、初めて会った人は想像できないだろう。
友人もたくさんいて、その多くは剣道部員だ。剣道部はそこそこ強くて人数も覆いから、なんだか強そうな人たちが集まっているように見える。ヒロトはその中でもひときわ体も声も大きい。一度、剣道の授業でヒロトと先生が試合をするところを見たことがあるけれど、ヒロトが声を上げるたびに僕はその迫力で驚いた。先生相手にも圧勝だった。あっさり勝手しまわないように手加減をしているようにさえ見えた。
教室に集まっているのは、何人かの剣道部員とその友達だ。強い人の人の周りには強い人が、魅力的な人の周りには魅力的な人が集まる。僕らはその現実を毎日見せつけられている。
当時、マコトと一番仲の良かったのはヒロトだった。僕やミツヤと違って、ヒロトだけは穏やかで無茶なことをしなかったからだ。マコトのことを一番よく覚えているとしたらヒロトだと僕は思っている。
ヒロトは大柄だから、この狭い教室の中では顔を上げるたびにその姿が見える。休み時間も授業中もそうだ。話し声が聞こえ、会話の断片をきっかけにそれをきっかけに古い記憶の中に引き戻される。
もう動かなくなったマコトを目の前にした日のことも。
あの日のマコトは人形みたいだった。顔も体も、全く普通の人と同じふうに見えるのに、もう動くことはない。
『マコトのそばに置いてあげて』
喪服に身を包んでいるのはマコトの母だった。手には花のいっぱい入った籠を下げている。僕はその中から一本だけ取った。四角い棺の底に横たわるマコトの姿を見ようとするたびに、透明で巨大な腕でがっちり掴まれてしまったみたいに身動きが取れなくなった。怖かったからだ。
体はもとのままにあるけれど動かない。目を開けることもないし、馬鹿にされて怒ったりもしない。授業中に消しゴムを貸してくれることもないし、あの秘密基地の黒板で授業を始めたりもしない。ここにマコトはもういない。
マコトの母親は籠を落とした。床に転がった籠から献花が散らばる。周囲の人が慌て拾い上げる。マコトの母親は泣き出していた。両手で顔を覆い、その場で崩れ落ちてしまいそうになるのをこらえている。
思わず目をそらすと、棺を挟んでミツヤと目があった。きょとんとした表情で、どうしてマコトが目を開かないのがわからないみたいだ。一方のヒロトは、マコトの姿から目をそらずっと俯いたままでいる。マコトだけでなく、式の台座に飾られた写真を見ることも避けているようだ。顔色はどこか青みがかかっていて、ヒロトも数秒後にはマコトと同じになってしまうんじゃないかと思った。
ミツヤが手で合図を送ってきた。僕はまだ献花を手に持ったままだった。
見えない力に逆って棺に近づく。すでに棺の中は献花で満たされている。そこだけがまるで現実から浮かび上がった楽園のように見えた。マコトはその中で横たわったまま目を閉じている。その傍らに花を置く。
悲しいとは思わなかった。ただ、非現実に足を踏み入れてしまったような不思議な感覚だけがあった。マコトがもう動かないことも、その体が灰になって消えたことも事実だった。