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最後に戻った記憶



 学院の門を出てすぐに、オトゥール侯爵家の馬車を捕まえて乗り込んだのは、サリオンとレベッカ、アスラ、レイナートの四人だった。

 できる限り急がせて王立公園へ向かった。

 確かに、距離があり、馬車でなければかなり時間がかかっただろう。

 馬車は公園の入り口で止まった。王家が管理している公園の中へ馬車を入れるわけにはいかなかったからだが。


「旧キリタリア教会は、この公園の向こうだというが」


 馬車から降りた四人が、公園の入り口に立ってそれらしい建物がないか見回した。

 公園の中を通り抜けた方がいいのか、と彼らが思ったその時、公園の木々の向こうから煙が立ち昇っているのが目に入った。


「えっ! あれって、なんの煙?」

「火事か?」


 レイナートが呟くと、サリオンはきつく眉をひそめた。


「まさか、旧キリタリア教会じゃないでしょうね⁉」


 レベッカが叫ぶよりも早く、サリオンとアスラの二人は公園の中へ飛び込んでいった。

 出遅れたレベッカが慌てて後を追おうとしたが、レイナートが腕をつかんで彼女を止める。


「火事なら、火を消すのが先だ! 救出はあの二人に任せて、俺達は火を消すぞ!」

「消すって、どうやって⁉」

「消防隊を呼ぶに決まってるだろ!」


 レイナートは、レベッカを再び馬車に乗せると、消防隊を呼びに行かせた。


「俺は、近くに人がいないか確認する。頼むぞ!」


 レベッカが乗った馬車を見送ったレイナートは、すぐに公園の周辺を見回った。

 アリステアを連れ去った奴らの目的は彼女を殺すことだ。

 わざわざ連れ去って殺すという方法をとったのは、奴らにはそうする理由があったからだろう。そして奴らは、彼女の死を確認するために、この近くで見ているはず。


(ああ、くそ! ──俺はまたしくじってしまった……!)


 陛下に任されたというのに。もうこれは詫びるだけではすまない。

 いや、あの娘を危険な目に合わせた自分が許せん。

 レイナートは、ぎりっと歯嚙みした。


(おのれ……聖護教団め! この世界からその存在を、完全に消し去ってくれる!)



 サリオンとアスラは、煙が上がっている方を目指して公園内を走っていた。

 嫌な気配は二人同時に気付いた。


「私がやる。おまえは、アリスの所へ向かってくれ」


 わかったというように、サリオンはアスラに向けて頷くと、走るスピードを上げた。

 それを阻むかのように、いきなり現れ襲い掛かってきた男の刃を、アスラが手に持っていた黒い棒ではじく。


「なっ! いつの間に⁉」


 前に出たサリオンを狙ったはずが、突然目の前に執事服姿のアスラが現れ攻撃を防がれた男は、驚いた顔になった。

 どう考えてもあのタイミングで、狙った相手との間に入り込まれるなどありえなかった。

 まるで瞬間的に目の前に現れたような感じだ。

 ただの貴族の坊ちゃんかと思っていた少年も、いきなり襲われたというのに足を止めるどころか、表情も変えずに走り抜けていった。

 ちっ、と男は舌打ちした。

 まさか、自分が子供相手に失敗するとは思わなかった。

 別に、相手が十代の子供だから舐めてかかったわけではない。常に仕事は全力でやる主義だ。

 たとえ、相手が女子供だろうと、年寄りだろうと手を抜くことは一切しない。


(とにかく、あのガキを追わなくては)


 教会には誰も近づけるなというのが、依頼主からの命令だ。

 だが、男はその場から一歩も動くことはできなかった。

 どう見ても自分の半分もない年齢と体格の、執事服の少年の攻撃を男は止められなかったからだ。


「ちょ……待て! 待てって、おい!」


 黒い執事服の少年が持つ、三十センチほどの黒い金属の棒が、恐ろしいほどの速さで何度も振り下ろされ、男が反撃する隙を与えなかった。

 手の動きすら見えないことに、男は絶句した。しかも、少年の顔はずっと無表情だ。

 ぞっとした。

 俺はいったい、何を相手にしているのだ?

 


     (アリステア)



(……なんだろう?) 


 少し息苦しさを感じたせいか、眠っていた意識が少し戻った。

 だが、まだ眠くて目が開けられない。

 私は今どこにいるのだろう? 学院の寮の部屋? なんだか、とても……熱い。

 閉じた瞼の奥が、何故か赤く染まっていた。

 


 あつい……よ……ここ、どこ?

 崩れた建物。燃えている木々──多くの悲鳴が聞こえる。

 ああ、これって……芹那の、崩壊して炎に包まれた街に取り残された、七歳の時の芹那の記憶だ。

 泣くことも、声を出すことも出来なかった、まだ幼かった芹那の。


(熱い…………苦しい……誰か、私を助けて)

 

 姫さま──

 炎と煙の向こうから声が聞こえた気がして、夢の中の私は顔を上げた。

 それは、聞いたことのある懐かしい声。

 煙でぼんやりとしていたが、鎧を付けた三人の騎士の背中が見えた。

 大きな剣を背負った騎士が、私の方を振り返ると微笑んだ。


(姫さま!)


 三人の中で一番背の高い騎士も、満面の笑みを浮かべた顔で振り返る。


(姫さん!)


 そして、一番前を歩いていた騎士が高く右手を上げると、ひらひらと手を振るのが見えた。

待って! 待って、サラ! ギル!


「行かないで! ベル!」


 叫ぶと同時に私は覚醒し、パチッと目を開けた。

 視界に映ったのは、夢の中と同じ赤い炎と煙。まだ目が覚めていないのかと思ったが、すぐに否定した。肌に感じる熱さは夢ではなく紛れもなく現実のものだったから。


「……ここは、いったい⁉」


 何もない、ただ広い部屋だった。天井も高く、窓も見上げる位置にあった。

 私は、そんな見知らぬ場所の真ん中辺りに、両手足を縛られて横たわっていた。

 ここがどこなのかわからない。だが、このままだと、私は焼け死んでしまう。


「出口は……どこ!」


 まだ、それほど煙は充満してない。火にまかれる前になんとしてでも脱出しなければ!

 手首の縄は解けそうになかったが、足首を縛っている縄は少し緩んでいてなんとかなりそうだった。

 私は靴を脱ぎ、足を動かして縄をゆるめながら、指先で硬い結び目をほどいていった。

 縄が解けると、私はすぐに立ち上ろうと足に力を入れたが、急に頭がくらりと揺れ身体が傾いた。


「アリステア!」


 立ち上がり損ねて床に膝を打ち顔をしかめた私は、突然聞こえた自分を呼ぶ声に、ハッとして顔を上げた。

 気のせいかと思ったが、声が聞こえた方に顔を向けた瞬間破壊音がして、再び呼ぶ声が聞こえた。


「どこだ、アリステア‼」


 サリオン?

 私は、声が聞こえる方に向けて声を上げた。


「サリオン‼」


 視界が煙で塞がれていたが、黒い影がそれを左右に割るようにして駆け寄ってきた。


「アリステア!」


 私は、立ち上がってサリオンの方へ行こうと足を踏み出したが、その足が床を踏み抜いた。

 元から床板が腐っていたのか、バキッと音がして足元が崩れた。血の気が引き、私は悲鳴を上げる。

 サリオンがすぐに手を伸ばして私の腕を掴んだが、落下の勢いは止まらず、そのまま私の体は下へと

落ちていった。

落下のショックで一時的に意識を失っていたらしい私は、気づくと誰かの腕に抱きこまれていた。


「気が付いた?」


 間近に見える顔を見上げた私は、パチパチと目を瞬かせた。


「サリオン?」


 うん、と頷くサリオンの顔に、私はホッと息を吐き出した。

 床が抜けて落ちていく私の腕をサリオンが掴んだ所までは覚えている。

 その後、一緒に床下に落ちたのだろうか。


「ここは?」

「一応、崩れた床下なんだけど、どうやら空洞になっていたらしい」


 空洞? サリオンに抱きこまれていたので気づかなかったが、下はごつごつした土だった。

 視線を上げると、小さく赤い炎が見えた。あそこから落ちたのなら、四メートル近くあるだろうか。


「痛いところはないか? アリステア」

「私よりサリオンの方こそ、怪我をしてない?」


 私を庇いながら落ちたなら、怪我をしていてもおかしくない。

 心配そうに見つめる私に、サリオンは肩をすくめた。


「俺は大丈夫。怪我といっても、擦り傷程度だし。」

 言ってサリオンは、フッと息を吐いた。


「とにかく、上はまだ燃えてるから、消えるのを待つしかないな」

「…………」


 私は上を見、そして今自分達がいる場所を確かめるように見た。

 狭くはないが、周りはごつごつした壁に囲まれているので、穴の中という感じだった。

 燃えた木の破片が落ちてくることがあったが、途中で突起にでも引っかかるのか、下までは落ちてこなかった。

 その火があるためか、穴の中はぼんやりとだが明るい。

 それにしても、火が消えたとして、外に出るのはかなり大変そうだ。


「大丈夫だ。俺がここに入ったことはアスラが知ってるから」


 アスラが──それなら、と私はホッした。

 怖いのは、私達がここにいることを誰も知らない、知らせることもできないということだから。

 サリオンが、私の手を戒めている縄に指をかけると、さほど力を入れずにあっさりと引きちぎった。えっ、と思わず声が出た。サリオンって、こんなに力が強かったのか?

 そういえば、帝国でかなり厳しい修行をしたと言っていた。


「ここは、どこなの?」

「知らないのか?」

「ええ……レヴィと一緒に図書館に行く約束をしていたから、待ち合わせていたサロンへ行こうとして」


 学舎を出た所で誰かに会って……あれは、私のことを魔女だと言ったアジャリア公爵令嬢の弟で。


「姉に説教され、自分が悪かったと謝ってくれたのだけど、その後の記憶が──」


 気がついたら、あの場所に寝ていたのだと私が言うと、サリオンはギュッと私を抱きしめた。


「無事で良かった………あと少し遅かったらと思うと、怖くてたまらなくなる」

「サリオン……」


 微かに感じた震えに、私は目を閉じてサリオンの腕に触れた。


「心配かけてごめんなさい」

「アリステアが謝ることじゃない。俺が──悪いんだ」

「サリオンが悪いなんて、そんなこと」

「アリステア……ごめん」

「だから、サリオンが謝ることなんてないわ」

「違う。俺が最初に間違えたから──気が付いた時に言っていれば良かったんだ」

「? なんのこと?」

「五歳の時、俺は二人の赤い髪の女の子に会った。一人は俺を池に落とし、もう一人はハンカチで濡れた髪を拭ってくれた。俺はハンカチで拭ってくれた赤い髪の女の子のことをずっと忘れられなかったんだ」


 私はサリオンの言葉に目を瞬かせた。


「最初はただ、笑顔が可愛いなと思っただけだったけど、あの時のことを思い出すたびに気になっていって──俺は、また会いたいと気持ちが強くなっていったんだ。ハンカチを返すという理由があるから、母に頼んで探してもらった。わかっているのは赤い髪とセレーネという名前だけ。結局、彼女がどこの誰かはわからなかったけど」


 サリオン、と私は彼の顔を見つめて名を呼んだ。


「あの時、貴方の言っていた気になってる人って、私のことだったの?」

「…………」


 サリオンは赤くなると、私から視線を外した。


「すまない…………ずっと忘れられなかったのに、俺は、すぐに気付けなかった……」


 私は、ふぅっと息を吐いた。

 すぐに気付けなかったのは仕方がない、と私は思う。

 出会った時の私は赤い髪だったのに、五年後に会ったら金色になっていたのだから。

 しかも、名前がまるで違っていたのだから、わからなくて当たり前だ。


「私も……後になってサリオンのこと思い出したのに、何も言わなかったわ。ごめんなさい」


 私がそう言って謝ると、サリオンは驚いたような顔で私を見た。

 そして、何か言おうと口を開いたその時、ついに建物が崩れたのか大きな音と共に、穴の中に火の塊が落ちてきた。

 さすがにあの大きさの物が当たれば、ただではすまないだろう。

 思わず私はサリオンにしがみついた。

 サリオンは、私を抱きしめたまま、落ちてくる赤い火の塊を見つめている。

 避ける場所はない。確実にあれは私達に当たる!

 だが、いつまでたっても衝撃は訪れなかった。

 不思議に思って目を開けて顔を上げたが、さっきまで見えていた赤い塊はなかった。それどころか、穴が塞がれてしまったようだ。

 それなのに、どうしてまだ明るいんだろう? と疑問に思い、今度は視線を下に向ければ、バラバラになった木の破片が私達を避けるように散らばって燃えていた。

 これは……どういうこと?

 いくつもの破片が燃えているのに、熱を感じない。

 それはまるで、私たちの周りに見えない壁が存在しているような感じだった。

 私はサリオンの方に顔を向けた。


「サリオン、貴方……もしかして、能力者なの?」


 私がそう聞くと、サリオンはびっくりしたように大きく目を見開いた。

 ああ、やっぱり……と私は小さく息を吐き出した。

 アリステア? とサリオンの困惑したような声に、私は彼の顔を見つめてニッコリと笑った。


「帝国にいた時、特殊な能力を持った人達がいるって聞いたことがあるの。まさか、サリオンがそうだったなんて驚いたわ」

 帝国で聞いたという私の言葉に、サリオンは、ああ、そうかと納得したように頷いた。


「……ごめんなさい。ちょっと疲れたみたい。目を閉じてていいかしら」

「ああ」


 私が目を閉じると、サリオンはゆっくりと私の頭を撫でた。

 頭を撫でられるのは久しぶりで、なんだかそのまま眠ってしまいそうになる。

 そういえばベイルロードが、よく大きな手で私の頭を撫でてくれた。


(…………)


 ずっと忘れていた記憶なのに、思い出せば一瞬なのだから本当に不思議なものだ。

 

──全て思い出した。

 この世界に転移するはずだった私が、まさか地球世界に転移してしまうなんて。

 何故そうなったのか、理由はきっとあるはず。

 いや、それよりも今、考えなければならないことは──


 この世界で最も歴史が古いのはガルネーダ帝国で、建国されてから一千年だという事実だ。

 だったら、この世界は、既に消滅の時を迎えようとしているのではないか。



(今度こそ私は破滅を……世界が消滅するのを回避することができるだろうか)




    (神聖騎士)


 あ~あ、と、溜息をつくベイルロードの背後には、帝国の兵士たちが控えていた。


「まったく。こりゃあ想定以上か」


 まあ、しょーがねえわな、とベイルロードはオレンジ色の髪をガシガシとかき回す。

 ベイルロードが立っているのは、シャリエフ王国との国境に近い場所にある峡谷の上だった。

 魔の森がある周辺の村は既に避難を終えていたが、魔獣の被害は広範囲に及んでいた。


「ベイルロード様!」


 他の村の様子を確認しに行っていたジュードが、兵を連れて戻ってきた。


「どうだった?」

「はっ。残念ながら一つは間に合わず全滅です。後の二つの村も魔獣に襲われていましたが、なんとか被害を最小におさえました」


 うーん、とベイルロードは腕を組み、右手で顎を撫でた

 彼が見下ろす先では、予想を超える数の魔獣サーバルが峡谷の出口に向かって前進していた。


「峡谷の出口には、あいつら三人が兵二百人と待機しているので、あの程度なら問題なく片付けられるでしょう」


 聖騎士は、人が持たない能力を持っている上に、皆、化物と言われるほどの戦闘能力を有している。

 あの数の魔獣なら、問題なく片付けられるだろう。


「ジュード」

「はい」

「奴らが巻き起こす砂塵でちーっとわかりにくいが、別の砂塵ができてるのがわかるか」


 えっ? とジュードはベイルロードの言う方向に視線を向けた。

 言われなければわからないほどかすかだが、確かに小さく砂埃が上がっている。


「あれは、まさか…………」

「今見えてるのが第一陣なら、ありゃあ第二陣って所か」


 いつもは落ち着き払った表情のジュードだが、これには目を見開き、ポカンと口を開けた。


「そ、そんな…………」


 あんな数の魔獣が出現するなど、想定していない。

 結界が弱まったとはいえ、あれほどの魔獣がいったいどこから湧いて出てきたんだ⁉


「まあ、奴らならあれくらい、たいして問題じゃねえだろうが──」


 少しくらい数を減らしてやってもいいか、とベイルロードは言うと、スッと右手を伸ばした。

 すると、彼の手にいきなり、二メートルを超える槍が出現した。


「お供します」


 ジュードが頭を下げ、そして顔を上げた時には彼の右手には、片刃で刃の幅の広い柳葉刀が握られていた。そして、我らも、と帝国の兵士たちは、手を胸に当て揃って頭を下げた。


 

 魔獣の一陣が峡谷の出口に向かった後、次の魔獣の群れが現れた、


「全て倒さなくていいぞ! 逃がしても向こうにいる奴らが片付ける!」


 だから、無理すんじゃねえぞ! とベイルロードは兵たちに言うと、ブン! と空間を切り裂くような音を立てて槍を振り上げた。

 先頭を走っていた魔獣サーバルが、後ろの二頭を巻き込んで吹っ飛んでいく。

 そして、ジュードが舞うように身体を捻ると、魔獣の首が宙を飛んだ。

 兵士達も剣を振るって魔獣と戦う。

 国境を警備する兵たちは、人間相手だけでなく魔獣を相手にするための訓練をずっと受けているため、誰一人怯まなかった。


「ん?」


 ふいにベイルロードの眉が寄った。魔獣の動きが急に変わったのだ。


「おまえら、下がれ!」


 ベイルロードが両手を真横に伸ばして、兵達を後ろに下がらせた瞬間、轟音と共に凄まじい砂煙が巻き起こった。

 まるで砂嵐でも起こったかのように砂で視界が塞がり、何も見えなくなった。

 ようやく砂煙が薄れ出すと、静かになった前方から二つの影がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。それは、先程まで戦っていた魔獣ではなく、鎧を付けた人間だった。

 彼らが身に着けているのは、この世界では珍しい部類の真っ白な鎧である。

 そして、胸の辺りに描かれている青い紋様も、見たことがないものだった。

 帝国の兵士達は、突然現れた二人の白い騎士に動揺したが、ただ一人、彼らを率いて魔獣と戦っていたベイルロードだけは、平然としニヤニヤと笑っていた。

 二人の謎の騎士は、互いの顔がはっきり見える所まで来ると、ピタリと足を止めた。

 対照的な二人だった。

 一人は二メートルを超える大男で、整っているが、どこか人好きのする顔立ちだった。

 驚くのは、その短くピンピンと立っている髪の色で、染めていない限り有り得ないような濃い緑色をしていた。

 だが、大男の太い眉も髪と同じ色なので、元々の色だと思うしかなかった。

 もう一人の男は、白い肌の人形のように美しい顔をしていた。

 そのせいで、女ではないかと疑うほどだ。

 だが、隣の男が大きすぎるせいで小柄に感じるが、百八十を超える長身で、体つきも明らかに男だった。そして、肩の所で切り揃えられた男の髪色は、やはり有り得ない水色だった。

 驚くべきことは、もう一つ。彼らが持つ武器だ。

 大男が手にしているのは、男の背丈よりやや短いだけの大きな黒い弓だった。

 持ち手が太く、かなりの強弓ではないかと思える弓だ。腰に剣を差してはいるが、弓が彼本来の武器だろう。

 隣に立つ男の武器はもっと凄い。

 背に斜めに差した剣は男の背丈ほどもある大剣で、その幅も広く、およそ人間が振り回せるような代物とは考えられなかった。

 弓を持つ大男が、ベイルロードに向けて空いてる手を上げた。


「よお、ベイルロード! 待たせちまったな!」


 腕を組んで立っていたベイルロードは、ニッと口端を上げた。


「そんなに待っちゃいねえよ。たかが一千年だ」

「ベイルロード──姫さまはどこだ? 戻って来られているのか?」

 

 当然だろう、とベイルロードは大剣の騎士の方を見て、ふふんと鼻を鳴らした。


「約束だからなぁ。あの子が破るはずはねえだろが」


 おおっ! と二人の騎士は喜色の色を浮かべる。


「まあ、姿は変わったが、中身はそのまんまだ」


 そうか、と二人の騎士はホッとした顔になる。


「早くお会いしたい!」


 だな! と大男は嬉しそうに笑って拳を振った。


「もう、すぐにも名前を呼んでもらいたいぜ! ギル~、ってな!」


 再会を喜ぶ三人だったが、強い振動を足元に感じた途端、表情を消した。


「第三陣が来たか」


 ベイルロードは、ブンッと持っていた槍を振った。


「じゃまあ、残りを片付けるとするか」

「おうよ! 邪魔者はさっさと片付けて、姫さんに会いに行こうぜ!」

「…………」


 水色の髪の男は、無言で背中に手をまわし大剣を抜いた。


 さあて、行くぜぇぇぇ!

 我らの神子姫の──セリーナ姫の元へ!




────────────────────


レガール編はこれで終わりになります。

次からは最終章となりますので、よろしくお願いします!(これから書き溜める)

その前に、繋ぎ的な話を入れるかもしれませんが。

レガール編は、起承転結の〝転〟に当たります。

次のテラーリア編で完結となりますので、最後までお付き合い頂けたら幸いです。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観もキャラクターも魅力的で、とてもおもしろかったです 伏線もいっぱいで、少しずつ明かされていく千年ぐらい前の事も知りたかったです [一言] 最終章が読めなくて、本当に残念です もっ…
[一言] ワクワクしながら読み込んで、話の中に巡った伏線を回収しながら大詰めというところで‥‥ 素敵なお話でした。ありがとうございました。 お悔やみを申し上げます。
[一言] テラーリアってテラリウムの意味なのかしらね なんだか避難所か何かのように作られた世界っぽい
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