1つの約束
現在俺は危機的状況に陥っている。たかが子供が助けてくれた年上の男の人に向かっていずれは忘れる一言を言っただけと思うかもしれない、だがこの場にいるのはただの親ばかおっさんだけだ。
「とりあえず落ち着け、刃物を人に向けるのは危ないからってわざわざハリセンを向けてくれる心遣いは感謝するが落ち着け」
「なんで初対面なのにそんなに懐かれてんだ!ルシエはルリアと違って人見知りが激しいのにこのロリコンが!」
助けてやった恩人に向かっていい度胸だな、俺もレベルが上がってそこそこ強くなったんだ。おっさん程度のスペックなら敵でもないぞ、なんて思っているとアイシャが横から俺の服を引っ張ってくる。何か用だろうか。
「えっと…ご主人様って小さい子が好きなの?」
やめろ、だから子供の戯言だろ。何故お前までそんなに動揺するんだ。その冷たい目をやめてくれ、犯罪者のような扱いを受けている気分になってしまう。
そもそも今回誰が悪いかと聞かれてもだれも悪くないだろう。まだルシエは6歳だしそんな判断力などあるはずもなく、純粋にこの短時間で俺に懐いてくれたと考えられる、そのこと自体に悪い気はしない。
「ルシエがお嫁さんになるの……いや?」
大きな瞳を潤ませながらこちらを見てくる。……おっさんとアイシャには後で適当に言っただけだと伝えればいいか。
「いいかールシエ。もしお前が大きく……そうだな15歳になった時まだ俺の嫁になりたいって思ってたら貰ってやる、もっともその頃には俺はもうちょい年取ってるけどな」
どうせ今だけ言っているだけだろうしそう遠くないうちにこんな約束があったことすら忘れるだろう。だがもし覚えていて気持ちが変わらなければ貰ってやるのもやぶさかでない。
「ありがとーお兄ちゃん!」
全く、本当に俺の何をそんなに気に入ったのやら。これも神様の頃から引き継いだ容姿補正かね。
「ただちゃんと可愛くいられたらな、俺だって選ぶ権利くらいあるんだぞ」
「うん!ルシエ頑張って可愛くなるね、お兄ちゃんから口説きたくなるくらい!」
俺の冗談めかしたセリフにルシエはにっこりと返す。なんというか逞しい子である、アイシャなんてその発言を聞いて唖然としてるぞ。
「だ、駄目だ。やめるんだルシエ。確かにこいつは命の恩人だしステータス隠してるとこ見ると腕もいいんだろうさ。だがきっと浮気しまくるタイプの人間だぞ」
「俺は浮気はしない主義だ、全部本気だからな」
「前もそんなこと言ってたけど……あれ本気だったんだ」
元創造神なんてどう考えても選ばれし肩書き。俺がハーレムを作って何の問題があるというのだろうか、なんだか誘導された気がしないでもないがそれでもハーレムも人生を楽しむ要素としては十分なものだろう。
これでルシエがやっぱりやめるとなってもまだ6歳児だから心もそこまで痛まない。そう思ったが彼女はやはりニコニコしたままであった。
「ちゃんと私のことを愛してくれるなら他にお嫁さんがいてもルシエは許してあげるよ」
ルシエはの部分をほんのりと強調しつつ一瞬彼女の目が俺の隣に移ったがすぐに俺の方に視線を戻した。
「あー、すまんな。うちの家内がそういう教育をしてるんだ……。俺浮気なんてしたことねーってのに」
なんというかおっさんが不憫だ。まあ彼女が懐いている間はこの店にちょくちょく通ってやろう、このなれなれしいおっさんが店主のおかげで今後エリクサーなどのレアアイテムも捌きやすいしな。
「なんで私あんな小さな子に牽制を。しかもあの目は挑発が混じっているというか、まさか舐められてる」
さっきからアイシャが被害妄想を拗らせて小声でぶつぶつとこんなことを言っている。牽制に関しては俺も感じてしまったが気のせいだと思いたい。この茶色の目がそんなことを考えているだなんて思いたくないのだ。それはそれで味があっていいかと思ってしまうところもあるのだが。
思いのほか雑談が弾んでしまい、そろそろ行かなければいけない時間となる。その間にドロップアイテムで売りたいものを選ばせて売れたらその何割かくれとだけ言って押し付けた。7割よこせと言ったのに普通に受けるとは思わなかったがよく考えたら人件費しか掛からないのでそれでも黒字なのだろう。
「正直助かったぜ、金がないからどっかに借りなきゃなと思っていたところだったんだ」
「別に構わんがおっさんはそれをこの街で売れるのか?」
エリクサーと昨日初めてゲットした王者のジェルはどちらも王都では人気があるがこの辺りだと需要がない。王者のジュエルは美容目的に使われるので貴族たちの化粧品などに用いられるからだ。
だがおっさんは俺の心配など無用とばかりに指を横に振っている、はっきり言ってむかつくが話は聞いてやるとしよう。
「実は1か月後にこの街に勇者のお披露目がある、その時に王様に売りつければいいんだよ」
ふーん、てことはこのおっさんは王族とコネがある意外と凄い奴だったということだ。初対面の人間に対しては敬語を使えるように練習しないと打ち首にされてしまうかもしれない。
「まあお前さんはかかわらない方がいいさ、絶対礼儀なんて無視するだろう」
「否定できん……」
まあ一か月も先のことだし今考える必要もないだろう。ただエルフの奴隷を連れた平民冒険者なんて目立つことこの上ないので既に噂になっている俺に興味を持たれなければの話だ。
「また来てくれる?お兄ちゃん」
「おう、元気にしてろ」
俺は名残惜しそうなルシエの頭を軽くなでて彼らに手を振って別れを告げた。
-side おっさん-
レンの奴が帰った後俺たちは妻の作った飯が用意されている食卓に着き家族で飯を食う。
「あれ?ルシエご機嫌だね」
ルシエに話しかけたのは彼女の姉で今年13歳になる娘ルリアだ。自分のことを僕と呼び、さばさばとした印象を与える彼女は将来冒険者になりたいなどと言っている。当然俺としては反対だ、冒険者ってのは危険だし出来ればもっと淑やかに人生を送ってほしい。
今日は最初彼女もお礼を言いたいと言っていたのだが女性特有の事情で体調が悪かったからやめにしたというのが真相だ。今は体調が落ち着いたらしく顔色は問題なさそうだ。
「えへへ、お兄ちゃんがお嫁さんに貰ってくれるって言ってくれたの」
その言葉を聞いてルリアの口から綺麗な虹が表現されたが横を向いたため食卓が悲惨なことにならずに済んだ。うちの妻ディースも食事をする手を止めて俺の方に説明を求めて視線を送ってきた。
「あー、あれだ。この前のエリクサーの奴レンって名前なんだがな、レンの奴が将来の夢を聞いたらお嫁さんと答えてだな」
拙い、レンの奴の尊厳を回復する要素が見つからない。もしルシエの気持ちが変わらなかったときはどうする気なのか知らないが、もし将来ルシエが可愛くないなんて理由で拒否したらぼこぼこにしてやろう。
まだ出会ってすぐなのに何故か遠慮しないで思わせるのはアレの才能だろう。
「もしかして僕の命の恩人ってロリコンだったの!?」
「いや、大きくなってその時可愛くて気持ちが変わってなかったら貰ってやるとか言ってたな……。あいつ今度会ったらぶっ飛ばす」
よく考えたらこれ物凄い上から目線な話だなおい。ただその言葉を聞いてディースは安心したのかほっと溜息をついている。一応泣かさないように気を使ってくれたのがわかったのだろう。
「ルシエ、悪いこと言わないからその男はやめた方がいいと思うよ。僕がもっといい人探してあげるからさ!」
「や!お兄ちゃんがいいの」
よく考えればルシエがここまで意地になっているのは初めてかもしれない。まだ6歳だからというのもあるが人見知り以外手のかからないいい子だったからな。納得は出来んがあの野郎に何か感じるものがあったのかもしれん。
ただルリアの方が納得いかないようでうーうー唸っている。まあどうせあいつもアイテム売りたくなったら来るとか言ってたしそのうちルリアも会う機会があるだろう。ただレンは明らかにハーレム体質って感じの人間だからであってほしくないって気持ちも正直ある。
「まあルリア落ち着きなさい。そのうち機会もあるでしょうし。ところでどんな人なの?」
妻の一言に頷きながらルシエではなく俺を見る。まあルシエ視点だと信用できないかもしれんからな。
「あー多分強い冒険者だな、エリクサーを今日俺に5本預けたのに余っているって言ってたくらいだ。金はあんまり持ってないみたいだ、この前奴隷を買うのにほぼ全財産はたいたらしい」
「奴隷?エリクサー持つような冒険者の全財産使うような奴隷って」
「ああ、珍しいエルフの奴隷だな。今まで何人かエルフを見たことあるがあれ程綺麗なのは初めて見た。主人との仲もよさそうでいい子だったぞ」
奴隷にやさしいといういいポイントを出したつもりがルリアの表情は曇る。……どういうことだ。
「ルシエ、やめときなって。美人奴隷買ってる時点で浮気されるの確定だよ?母さんはああいうけど僕たちの父さんだって浮気してないしさ」
「や!」
結局食事の間ルリアのレンへの印象がよくなることは残念ながらなかった。ただルリアは口調は男の子っぽいところもあるが恩をあだで返したりはしないいい子だ、それに顔も知らないのでもめ事を起こすこともないだろう。
仮に起こるなら店の中なので俺が介入すれば誤解が深まることもないし大丈夫だ。俺は奴のことは一旦頭の隅に置いて日常へと戻っていった。




