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神の見捨てたエリュシオン  作者: 雨屋二号
第1章 中央交易都市ローインクレー
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第7話 魔術と称号

「アロット君、バルファローネ様ってどんな方なんですか?」


 広い屋敷の中をシルリアに案内されながら、フェリシアが小さな声でアロットに聞いてきた。

 シルリアに聞いた方が早いだろうが、それはそれで失礼に当たるかもしれないと気を回している。

 四大都市の一つ、ローインクレーの管理者……知らない者は余程の世間知らずで、巡礼の騎士として不甲斐ないのではないか、と。


「俺も詳しくは知らない。知っているとしたら魔術称号くらいか」

「もしかして、さっき言ってた上位三称号の一つだったりします?」

「その三つが何か分かるか?」

「は、はい。下から紅赫伯(ルビルクス)蒼師位(サイリウス)銀聖将(シルキオン)ですよね? でも、もう一つあったはずですよ?」

魔王(マグナギウス)だな」


 しっかり覚えていたのでアルテとのやり取りを思い出し、もっと大袈裟に褒めてあげるべきか悩んだが……今この場ではやめておいた。


「まあ、魔王(マグナギウス)はどうせ銀聖将(シルキオン)の中でも特に強い者がなるってだけで実質銀聖将(シルキオン)と考えてもいいだろう」

「そ、そうなんですか?」

魔王(マグナギウス)はその時代でただ一人、最強──全ての魔術を修めたなんて言われるような者の称号だからな」

「いまいちわからないんですが、銀聖将(シルキオン)ならどのくらい凄いんですか?」

「どのくらい……そうだな……、銀聖将(シルキオン)程の実力者ならドラゴンも一人で討伐できるだろうな」

「ドラゴン……厄災級のモンスターというのは知っているんですが、ピンと来ませんね……」

「それは仕方ない」


 厄災の象徴とも呼ばれるドラゴンというモンスターも、名前ばかりで実際に見たことがある人は殆どいない。

 グランクレイグの西の荒野に現れたという話も聞いたことはあるが、それすらも眉唾でしかない。


「魔術称号は他にも下に続くが、とりあえず紅赫伯(ルビルクス)から上を覚えておけばいい、その称号から上は別次元の魔術の使い手だ」


 端的に説明を切り上げる。

 魔術の使えないフェリシアにうまく説明できなくてアロットは少し困っていた。

 魔術に長けた者であればあるほど、銀聖将(シルキオン)の格の違いは一目見ればわかるものだがフェリシアではわからない。

 すると、前を歩いていたシルリアがそのまま二人の会話に入ってきた。


「バルファローネ様の魔術称号は蒼師位(サイリウス)になります」

「そ、そうなんですね」


 内緒話のはずが前を歩くシルリアには丸々聞こえてしまっていた。


蒼師位(サイリウス)と言っても、バルファローネ副師団長の魔術は見たことないんだよな」

「前線に出られるお方ではありませんので」

「と、おっしゃいますと?」

「バルファローネ様は治癒魔術の達人ですから。治癒だけで蒼師位(サイリウス)の称号を得たといっても過言ではないほどの使い手です」

「たしか、治癒魔術が使えるのは希少なんですよね」


 治癒が使えるだけで魔術称号は高くなることが多いが、それでも上位三称号に入るのは相当の実力の持ち主でないとありえない。

 シルリアの口ぶりからバルファローネの治癒魔術のレベルの高さがアロットには想像できた。


「アロット君も治癒魔術が使えますよね?」

「随行魔導師として、騎士のサポート用の最低限の魔術は使えるからな」

「でしたら、アロット様ならご理解いただけると思います」


 シルリアは扉の前で立ち止まる。


「バルファローネ様の治癒は腕や足などが切断されても即座に繋げることが出来る程です」

「アロット君にはできないんですか?」

「出来てたまるか。……傷口を塞ぐだけなら出来ると思うが、繋げるのは難しい」


 お手上げと言わんばかりに手のひらを上げて見せる。

 それだけの治癒魔術をアロットが使えたら、随行魔導師などやらなくても相当の階級が魔導師団でも得られただろう。


「ではリゲルさんの傷というのも」

「はい。バルファローネ様のお力により、リゲル様は一命を取り留めました」


 それにしては元気だったな。と、アロットはリゲルのことを思い出したが、瀕死の重傷を負ってもあのレベルまで回復させられるからこそ蒼師位(サイリウス)の称号なのだ。

 アロットも治癒ができると言っても、多少の傷を塞ぐことが出来る程度だ。


「こちらでバルファローネ様がお待ちしております。どうぞお入りください」


 シルリアが扉を開けて中に入るのに続く。

 フェリシアが小さい声で「あれ、ノックとかしなくていいんでしょうか……」と呟いて、アロットも確かにと思った。


「バルファローネ様。巡礼の騎士フェリシア・ブレイクハート様と、随行魔導師アロット・クランツ様です」


 招かれた部屋はバルファローネの執務室だ。

 大きな窓は開かれ、そよ風が部屋の中に入り込んでいる。

 扉を開けた瞬間、風の通り道が机の上に置かれた書類の束をばたばたと鳴らしたが、書類は一冊の古い本を重しに風に飛ばされることはなかった。

 机の向こう。開いた窓の前に立つ恰幅のいい男こそが魔導師団の副師団長の一人にして、このローインクレーの長。

 副師団長兼中央統括官──ポルトラック・バルファローネである。


「来たか」


 魔術名家の中でもグランクレイグ創設に携わった一族の一つ、バルファローネ家の現当主。

 裕福そうな体型に立派な髭をさすりながら、綺麗に髪をかき上げた茶色の髪と瞳の男はアロット達を出迎える。

 フェリシアは少し緊張したような顔つきでゴクリと唾を飲み込むと、アロットの方は…………


「……蒼師位(サイリウス)級の治癒でも肥満は治せませんけど」


 耳を疑うような言葉がシルリアの口から聞こえて、バルファローネよりも隣に立つメイドの方に気を取られていた。

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