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動き出す者達

 「綺っちの部屋はここね」

館の3階に上り少し通路を歩き、ある部屋の前に止まった逢がその扉を開ける。

勧められた部屋を覗くと、思っていたよりも広い。

一般的に一人暮らしに使われるアパートなどの一室の2倍ほどの広さだ。

まぁ、室内の広さはその建物ごとに異なるが。

それを踏まえても明らかに広い。

「どの部屋もここまで広いのか?」

「個人部屋はどこも同じ広さですね」

「隣が私の部屋だから良かったら見てみる?」

館の3階部分は個人部屋として使われていた。逢が隣の部屋だということはすぐに分かった。いや、分からない方がおかしいのだ。

なぜなら逢の部屋の扉には可愛らしくデコレーションされたドアプレートが吊り下げられていた。

そのプレートには【逢の部屋】と書かれていたのだ。

他の部屋の扉にはドアプレートが無く部屋番号が書かれているだけでどの部屋が誰の部屋か分からない。

「今日はもう疲れたからまた今度にしておく」

逢の提案をやんわりと断わる。

「そっか〜、残念」

断られると分かっていたのか、おどけた口調で少しがっかりした様子を見せる。

何が残念なのか分からない。


 「それから夕食ですが、この館の近くに色々なお店があるので行ってみてくださいね」

「店に行っても今の俺は一文無しなんだが」

「それは心配いりません。会計時はそのお店に置かれている端末にご自身のスマホを翳すだけでいいので」

「それはまた凄いな」

素直な感想が溢れた。

「このハコニワではどこのお店に行ってもお金を払う必要がないんです」

「そもそもお金が存在しないからね」

お金が存在しない……か。

ハコニワは死後の世界。

常識に囚われてはダメだな。

「分かった、後で行ってみる」


 「それじゃ館の案内もある程度終わったしお開きにしよっか」

「そうだな、案内助かった」

「いえいえ」

「また何かあったらいつでも言ってねー」

正直、この世界―ハコニワの事を俺はまだ知らなさすぎる。

もっと知っていかなければ。

「ああ、そうする」

「じゃあねー」

そう言って手を振る逢とお辞儀をして歩き出す舞華を見送る。

「……行ったか」

ドアを開け逢と舞華が居なくなったのを確認する。

試したいことがあった俺は足音を立てずに館を後にする。






 「ここならいいか」

館から10分ほど歩いた所にちょうどいい森林を見つけた。

舞華が言っていた店群の裏路地などがないか探しに行こうとしていたが向かう途中で道外れに森林がある事に気づいた。

裏路地よりも森林の方が何かと都合が良さそうだと思いここに来ていた。


 「まずは……」

今のうちにやっておきたいことの最優先は俺自身の異能についてだな。

豪と想との戦いではなんとなく使用していた。

何が出来るのかを一から理解し、そしてどこが限界なのかを知っておかなければ、いざという時に対処するためにも。

スマホを取り出して時間を確認する。

「18時過ぎか」

夕食の買い出しなどを含めて19時頃には部屋に戻れるようにするか。

30分は使えるな。

そうして俺は自分自身の異能と向き合う。






 時刻は19時50分を回っていた。

部屋のベッドで横になりスマホで動画を眺めていた。

その時、スマホに一通のメールが届く。

件名は空白で誰からのメールかも分からなかった。

俺はそのメールを開く。


 ハコニワの住人へ。

ゲーム招待メール

日程

 3日後10時

場所

 ◾️◾️◾️◾️

 •ゲーム開始1分前に◾️◾️◾️◾️に転送

内容

 宝探し

 •エリア内に隠された宝を探し出し最終エリアに納品すること

概要

 •エリアは7分割されている

 •各エリアに設置されている転移盤を操作し携帯を翳すことで任意のエリアに転移可能

 •ゲーム進行に応じエリアが削除される

 •削除されるエリアは1時間前に通知される

 •削除されたエリアには転移不可能

 •削除されるエリアにプレイヤーが残っていた場合、削除と同時にランダムなエリアに転移される

 •削除されるエリアは1日1カ所


各エリアにランダムで特殊効果カードを用意

 •異能解除カード

  対象の異能強制解除(5分間) 10枚

 •異能強化カード

  自身の異能強化(5分間) 10枚

介入

 ゲーム進行に応じ通知

 

 これがゲームか。

メールを読み終えた俺は身体を起こし考える。

宝探しゲーム。

内容は読んだがクリア条件があっさりし過ぎている。

「殺し合い……」

漏れ出た言葉に妙に納得してしまう。

それに介入とはなんだ?

「……」

今考えても仕方ないか。

思考を切り替え俺はこのゲームの立ち回りを思案する。






 しばらく考えているとベッドに置いたスマホの通知が鳴る。

 『皆さん会議室に集まってください』

という未莉亜からのメールだった。

このゲームについての作戦会議だろう。

正直、俺一人で考えていてもいい気がするが。

何か有用な意見が出るかもしれない。

しかしここで行かずに未莉亜に目をつけられると面倒だ。

「行くか」

小さく呟き、部屋を後にする。






 その部屋は異様な雰囲気に包まれていた。

何も知らない人間が見れば逃げ出してしまいそうな光景が広がっていた。

薄暗い部屋には5人の男が居る。

男たちは机を囲むように座っていた。

異様な雰囲気を作り出しているのは壁の一部にある物が物語っていた。

人間だった者の肉塊が壁にナイフで磔にされているのだ。

四肢があらぬ方向に曲がっていたり、肘や膝から先が切り落とされ肉塊付近に突き刺さっている。

胴体に60センチほどの穴が空いておりその穴に人間の頭が置かれている。






 「ボス、あれは少しやり過ぎなんじゃないっすか?」

一人の男が一瞬、磔になっている肉塊に視線を向けて口にする。

「佐伯、お前はいつも甘過ぎる。俺たちを舐めた奴に慈悲など無用」

スーツ姿の男が腕を組みながら佐伯―佐伯竜に言い放つ。その発言には威圧が込められていた。

「そうだねぇ、お私も陸斗ちゃんの意見に同意だねぇ。竜ちゃんももっと残酷になりなさいねぇ、楽しいわよぉ〜」

「へいへい、分かったから斎賀はそのキモい笑顔向けんなよ。反吐が出そうだ」

佐伯はわざとらしく舌を出し吐き真似をする。

斎賀―斎賀音羽はそんな佐伯の様子を見て恍惚な表情を浮かべている。

「お前らそんなどうでもいいことばかり喋るな」

「どうでもいいって〜?そんな酷い言い草しなくてもよくなぁ〜い」

「お前は特に話にならない」

「えぇ〜、ひどいよぉ〜。あ、もしかして那乃登ちゃん……照れ隠し〜。やだぁ〜か〜わ〜い〜い」

「ふざけるな、世迷言も大概にしろよ」

那乃登―都辺那乃登は斎賀に対して怒りを露わにする。今にも殴りかかりそうな雰囲気を纏っている。

「斎賀も都辺も静かにしろ」

「は〜い、陸斗ちゃんがそう言うなら、お私は従うわよぉ〜」

斎賀は陸斗―相宮陸斗の言う事には素直に従っている。斎賀は恋人を見るような表情で相宮を見つめている。

「あの死体の事はもういいっす。それよりボス、今回のゲーム俺らはどう動けばいいんすか?」

佐伯がこの場の支配者の男に声をかける。

「そうだな、俺はいつも通り一人で動く。お前らも好きに動け」

男は机に乗せた脚を組み替えながら端的に告げる。

男が一言発するだけでこの場の空気がさらに重くなる。

しかしそんな空気に怯える者は居ない。寧ろこの部屋に居る男たちの士気を上げている。

「了解っす」

「相変わらずすごい自信よねぇ〜。それでこそノワールのリーダー、廻ちゃんねぇ〜」

廻―灰道廻、ノワールのリーダー。

「一つ命令する、死ぬなら潔く死ね。ノワールの名を穢すな」

灰道は生気の感じない瞳でノワールのメンバーに告げる。

その命令は酷く冷たいものだった。

'潔く死ね'

それはつまり死にかけていても助けない、ということだ。

あまりにも血の通っていない命令。

普通ならば誰も納得しない。

しかし、

「もちろんっすよ」

「死ぬのならそこまでだったという事」

「死などに恐れる事はしない」

「そうよぉ〜、お私たちは廻ちゃんの道具。道具が壊れるってことは〜最期まで役に立ったってことだからぁ〜、お私たちは幸せに死ねるってことよねぇ〜」

佐伯、相宮、都辺、斎賀はノワールに骨を埋める覚悟を見せる。

「ふっ、期待してやるよ」

灰道は鼻で笑いながら満足気に頷いた。

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