前編
いつものように教会で日々の礼拝をしていると村長に呼び出された。
理由は大体予想できている。
昨日この村に突然現れた行商人風の二人組についてだろう。
普通に物の売り買いに来たのであればそれほど騒ぎにならない。
しかし彼らの要望は全然違った。
彼らはこの村に定住を希望しているのだ。
特にこの村に縁があるわけでもなく、いきなり現れて住まわせてくれと言い出すわけだ。
そんな重要な決定を二つ返事で返すわけにもいかず、とりあえず昨晩は村長宅の客間に泊めたらしい。
村長宅にお邪魔すると早速村長が出迎えてくれた。
「司祭様わざわざお呼びだてしてしまい、すみません。」
「いえいえ。村の事でお役に立てるのであれば本望です。」
村長に笑顔で返す。
この村の有力者と言えば、まず村長の名が挙がる。それに次ぐ形で私、正確にはこの村唯一の教会の司祭の名が挙がる。
私と村長がこの村での決まりごとの最終決定者という立場だ。
「さて、それであの二人についてなんですが、このままお引き取り願おうとも思ったのですが、それには少し問題がありまして。」
村長が頭を掻きながら、続ける。
「まず、あの二人組は男と女でした。ちゃんとは聞いておりませんが教会で正式に認められたわけではないですが自称夫婦だそうです。」
「まあ、そんな感じでしたね。」
「そして、一番厄介なのがその女の方が既に身重で、産婆の見立てではいつ生まれてもおかしくないのではとの事で。」
「なんと。」
「両親である二人を追い出して、道端で死産でもされたら目覚めが悪いですし、何よりこれから生まれてくる無垢の赤子になんら罪はありませんから。」
村長として合理的な考え方が出来る一方でこうして信仰の強い所もあるのが、この人が皆から好かれている所なのではと勝手な分析をしている。
「そこで彼らを此処に定住させるか、一時的に留め置くか、それとも直ちに出て行ってもらうかを決めるために、私と司祭様の二人で彼らをそれぞれ聞き取りを行いたいと思いまして。」
「それは良い案だと思います。ここまでの話を聞く限りただの駆け落ちの可能性が高そうですが、先のあの村の件もありますし。」
この村から離れた場所にある寒村。そこで今回の様に新たに定住した人物と元々居た住民との間で確執が発生し、結果その村の教会に火がつけられ完全に焼け落ちたらしい。
この村に流れ着いた彼らがその事件に関与していると言うわけでは無いが、用心に越したことはない。
「では、こちらの部屋に一人ずつ呼びますので、司祭様は中で待っていてください。」
そう言われて案内された部屋に入った。そこには応接用の椅子とテーブル、そしてお茶が用意されている。
「長くなりそうだ。」
独り言を呟きながら、苦笑した。
先に部屋に通されたのは男の方だった。村長が村人向けとは違うやや圧を強めた声色で質問を始める。
「まずは名前を教えてもらおうか。」
「マッテオです。」
「ではマッテオ君。君たちの要望はこの村に定住がしたい、間違いないかな。」
「出来ればそうしたいです。それがだめでも、せめて子供が生まれるまでの間だけでも。」
「それ以上は私たちが決めることだ。」
マッテオの妥協案を一言のもとに打ち切る村長。
「君も行商人ならば耳が早いだろうから、すでに知っている事とは思うがとある村で事件が起こってね。その村に新規で越してきた人と元から居た住民との間でいさかいが起こった。
この村を守らなければならない村長としての立場からすると、そのような事件が有った後にそうすんなりと新たな人を迎え入れるわけにはいかないのだよ。」
「それはわかります。」
マッテオは真剣に村長の言葉を聞き入る。もしかしたら根は良い人間なのかもしれない。
少し気になり話に割り込む。
「ところでマッテオ君。君たち二人がどのような理由から行商人を始めて、そしてこの新たな生命が生まれ出ようとするこの瞬間まで旅をしていたのかはわからないが、どうしてそれぞれの故郷を頼る事をしなかったのかな。」
「彼女に故郷と呼べる場所はありません。私は、故郷に砂を掛けるようにして出てきたので、今更戻っても故郷は私たちを受け入れてくれません。」
やはりただの駆け落ちかと内心思いながら続けた。
「しかし、君たちは新たな命を授かった。その事と共にご家族に誠心誠意謝罪すればまた受け入れてくれるのではないですか。」
「・・・それは無理です。私は故郷の村で人を殺し、教会に火をつけましたから。」
「なっ、」
私と村長は声を失った。目の前の人物の告白が真実だとすればそこにいるのは凶悪犯であり、村に受け入れるなんてとんでもない話ですぐにでも拘束するべき事だ。
「隠すつもりなんてないので全てお話します。」
そう言ってマッテオは話し始めた。
私には物心付いた時には両親が居ませんでした。
母親は私を生んだ時に体調を崩してそのまま亡くなったそうです。
父親は侵略者から村を守る戦いの時に戦場に散りました。父親はその功績を称えられ村から英雄の称号を贈られました。
孤児になった私は乳母でもあった親戚の夫婦の養子になりました。養親には子供が居なかった為、実の息子の様に可愛がられました。
村の人たちも、大恩のある村の英雄の子供として大切に扱ってくれました。
皆がちやほやしてくれたので、幼少期の自分は酷い性格をしていたと自覚しています。
それでも、少し大きくなればそれらの村の人からの優しさには全て「村の英雄の子供だから」という枕詞が隠れている事に気が付きます。
私自身がどうこうではなく、私の父親が英雄だから。
それに気が付いた時は、ショックだったのと共に自らの価値の無さを痛感しました。
私自身は誰にも必要とされていないのだ、と。
自然と村の人達と距離を取るようになりました。
村の人と顔を合わせたくないから、人の居ない森の中に居る事を好むようになっていきました。
養親から聞いた話だと、実の両親も森の中の散策が好きだったそうで、好むものは遺伝するのでしょうかね。
そんな森の散策の中で出会ったのが彼女でした。
人気の無い森の中で突然姿を現した彼女。自分以外に人が居るなんて思いもよらず、あまりに美しい見た目に最初は森の精霊かと思いました。
あまりに間抜け面で長々と見入ってしまったせいで、彼女の方から笑いながら話しかけてくれました。
「そんなに人間は珍しいですか、森の妖精さん。」
「あ、いや、僕はただの人間ですが、」
「冗談です。こんな森の奥深くで私以外に人が居るなんて思っていなかったので。」
「僕もそう思っていました。この辺はよく散策する所ですが人に出会ったのは今回が初めてです。」
「私は行商人である父と共に初めてここの近くの村に来ました。ちょっと時間が有ったのでこの森を散策していたんです。」
「そうでしたか。道理であまり見かけない格好だと思いました。」
「あ、自己紹介がまだでしたね。ラウラと言います。」
「マッテオです。しかし、この森の近くの村というと、もしかしてあちらのほうですか。」
「ええそうですけど。」
私が指し示したのは私の居る村とは反対方向。それに肯定したということはやはりお隣の国から入ってきたという事になります。
私たちが出会った森はちょうど国境の上にある為、両方の国から出入りが可能です。獣道程度なら有るので散策は可能ですが往来目的ではほぼ利用者はいません。
お隣の国は私たちの国に何度となく侵攻してきた敵国です。私の父親が亡くなった防衛戦の相手もまさにその国です。
「それがなにか。」
「あ、いいえ。多分問題にはなりません。私の住んでいる村が属する国とラウラさん達が立ち寄った村が属する国が別の国であり、
その2か国間が少しばかりきな臭いというだけで、われわれ庶民には関係の無い話です。」
「ああ。では、ここでマッテオさんと出会った事は内緒にしていた方が色々と都合が良いわけですね。」
「理解が早くて助かります。痛くもない腹を探られるのは避けるに越したことはありませんから。」
「でもそうすると密会っぽくて心が躍りますね。」
「そう言われると、確かに密会っぽいですね。」
私たちは笑いあって、そのまましばらくお喋りを楽しみました。
行商人の娘である彼女は、父親と共に色々な所を移動しているらしく、私には全く未知の土地の色んな事を話してくれました。
あっという間に時間が過ぎて日が傾き始めたため、深い森の奥であるこの場所に日が当たらなくなり気温が下がった。
「ではそろそろ、私は戻りますね。あまり遅くなると心配した父親がこの密会現場まで来てしまうかもしれませんし。」
「あ、だいぶ話し込んでしまってすみません。」
「とても楽しい時間でした。父親が大きな仕事を引き受けることになった関係で、当分はあそこの村に逗留する事になりそうです。」
「そうですか。では、また会える事があるかもしれませんね。」
「ええ、是非とも。またマッテオさんとの密会を楽しみにしています。」
その後も何度となく森でラウラと密会を繰り返しました。
今でもそうですが、私はその時真剣にラウラを愛していました。
やがてラウラのお腹に新しい命を授かりました。
彼女と話し合い、私は全てを養親に話しました。養親は驚きながらも喜んでくれました。
そこからはすごい速さで全てが決まっていき、あっという間に結婚式の日取りが決まりました。
ラウラの親族はそれぞれが方々で行商人を行っているらしく、日取り的に集まれそうな親族にだけ招待状を送りました。
ややあってその結婚式の日取りが近づくと、ラウラの親族の方々が私の村に少しずつ集まってきました。
私の住んでいた村は決して大きな村ではないので、宿屋的な場所がありません。
そのため、ラウラとラウラの親族用に教会の空いている部屋を貸してもらいました。
ラウラの父親も度々、隣の国から私の住んでいた村に大きな箱を持って現れてはそれを協会にいる親族の所に持っていっていました。
聞いたところ婚姻の道具を始め、久しぶりの親族への土産や商品だと言ってました。
結婚式が間近に迫ってきたある日の夕暮れ。
村の中でラウラの兄と紹介されたアルノルドさんに偶然出会いました。
「よう。未来の弟君。」
「こんにちは。アルノルドさん。」
「そんなにかしこまる事はないさ。もう少しゆるりと行こう。そうだ、親戚連中がある程度集まったからこれから酒盛りを始めるけど、良かったら顔を出さないか。」
「いやいや、部外者が居たのでは盛り上がらないでしょうから遠慮しておきます。」
「数日後にはもう部外者では無くなるだろう。それに弟になるマッテオ君がどんな奴か気になるし、親戚連中も興味津々だ。
人を一番上手く見定める方法は古来より酒を酌み交わすと相場は決まってる。」
「しかし私はそんなに飲めませんよ。」
「大丈夫。酔いつぶれて眠くなっても隣の部屋の布団は敷きっぱなしにしてあるから。」
「そんなの大丈夫の理由になりませんって。」
半ば無理やり、そのまま酒宴に参加させられました。
小さな村には宿屋もなければバーもありません。ですから酒宴の会場は彼らが教会から借りている部屋になります。
そこには普段は森の向こうのお隣の国の村に居るラウラの父親、コルネリオさんも居ました。
コルネリオさんは改めて親戚一同に私を紹介してくれました。
彼らがばらばらに村に到着した時に個別に紹介された時はあまり気がつきませんでしたが、一堂に会すると体格に恵まれた人が多い事に気が付きました。
彼らの話では行商人、特に危険地帯に出入りをしていると自衛が基本の為、体は鍛えているのは普通の事だそうです。
気を使いながらも色々と楽しい話が聞けた酒宴ではありましたが、何より彼らのペースが速くつられていつも以上のペースで酒をあおったのであっという間に酔いが回ってしまいました。
コルネリオさんに詫び言と共に隣の部屋の布団を借りる了解を得て、ふらつきながらもそこで少し仮眠を取らせてもらいました。
私は不意に真夜中に起きました。
今でもなぜ真夜中に目が覚めたのか不思議です。もしかしたら精霊か何かが危険を知られてくれたのかもしれません。
誰もが寝静まった真夜中にあって唯一明かりの付いている隣の部屋に再度顔を出そうと近づいたとき、扉越しに中から大声で下卑た会話が聞こえてきました。
「しかし親父もよくこんな旨い話を見つけてきたもんだ。」
「お前らみたいにただ暴れてるだけが能じゃないんだよ。」
「いまだによく分かってないんだけど、親父が密かに運び込んだこの大量に武器を使えば、この村なんかすぐに落ちるだろう。どうしていつもみたいにやっちゃダメなんだ。」
「お前なぁ、少しは頭を使うことを覚えろ。いいか、まずこんな湿気た村襲ったって、稼ぎは雀の涙だ。
更にはそんな事になればこの国の軍隊が動くだろう。国境周辺の村の状況にはいつだって敏感だ。結果、俺たちは1日と経たずに屍だ。
ところが、依頼主の要望通りに事を進めればその何十倍もの報酬が転がり込んでくるって訳だ。」
「依頼主の要望通りに。」
「そう、依頼主はこの土地とこの村が欲しい。しかしこの国とやりあうほどには軍備が整っていない。そりゃあそうだ10年近く前とは言えほぼ全勢力でこの国に攻め込んで、ぼろ負け。
がたがたになった国内をまとめ直すだけであっという間に10年近くが流れていった。そこから更に侵攻するための軍の立て直しなんかはこれからだ。」
「そんな状況でもここが欲しい、と。」
「そう。そこで兵士も必要なく、金もそこまで必要が無い俺たちに声がかかった訳だ。
まずラウラを使って適当な村人の親戚となってこの村の住人になる。そのうえでこの大量にかき集めた武器で村人を脅し、村長を変わってもらう。
いくら国がこの村の状況に敏感でも、外からの襲撃と、村人同士の内輪もめとじゃ、関心度も異なるだろう。」
「事は起こすけど、あまり関心を向けられないようにするってことだな。」
「そういう事だ。村長交代の書類にわざと内輪もめがあったと言う報告書を付けて送れば、せいぜい叱責の文書が追加されるだけで後は気にしないだろう。
後は依頼主が攻める準備が出来た時に、村長の権限で村ごと依頼主に帰順する。それだけで大量の金が舞い込んでくるって訳だ。」
「じゃあその新しい村長は親父がやるのか。」
「いやいや。そこは適任者が居るだろう。我々の作戦の一番の協力者で村の英雄の子、そして、俺の義理の息子になるマッテオ君だよ。」
「相変わらずひでぇ事を思いつくな、親父は。あの繊細そうなぼうずの事だ、そこまで追い込んだら下手したら自死するぞ。」
「その時は名前だけそのまま使わせてもらうだけだ。どちらにしろただのお飾りだ。生きていようが死んでようが関係は無い。」
「じゃあこの村の村長を親父の傀儡君に変えてからは、ある程度は好き放題して良いって事か。」
「まあ、村が滅びん程度にな。金品を奪おうが女を襲おうが村長は何も言えんさ。」
気が付かれないように扉の前から立ち去り、ある程度距離を取ってから大きく深呼吸をしました。
怒りやら悲しさやらで鼓動が速くなり、耳鳴りがしました。
無駄に騒ぎ立てても何も解決しない。無くなりそうな理性を必死に保って、自分に出来ることを考えました。
彼らに対抗するためには手ぶらでは心許ない。かと言って家まで戻って狩猟用の弓と矢を持ってくるのは明らかに怪しまれる。
記憶の奥底から教会の倉庫について思い出しました。
国境付近にあるこの村。その住民にとってそれこそ最後の砦となり得るかもしれない教会の倉庫には、申し訳程度でも弓と矢、そして剣が置いてある。
目的地を定めてそこに向かう途中に、ラウラにあてがわれた部屋を訪ねました。
真夜中で有る事もあって、ラウラの寝息以外聞こえてこないその部屋の扉を数回ノックして、彼女を起こしました。
「こんな真夜中にどなたかしら。」
「すみません。僕です、マッテオです。」
「ああ、なんだ。どうぞ入ってきて下さい。」
「いえ、このままで。お伝えするだけですから。」
扉を開けてラウラと顔を合わせてしまったら、どんな表情をすれば良いのかわからない。そんな気持ちから扉越しで伝える事にしました。
「僕は、あなたと親族の方々が画策している凶悪な計画を知ってしまいました。
知ってしまった以上はこの村の住民として、厄災を持ち込んだ張本人として絶対に阻止しなければなりません。例え、あなたの親族の方々を殺める事になっても。
そうなればあなたが嘆き怒る事は十分に理解しています。私だって、養親が殺害されればそうなるでしょう。
その上で一つだけお願いがあります。
この教会はこれから非常に危険な場所になります。だから、あなたには逃げてほしい。
私のただのわがままです。私はこの期に及んでも未だにあなたを愛しています。
全てが済んでこの村の危機が取り除かれた後であれば、あなたの復讐の刃を喜んでお受けします。」
「・・・私は、」
「では急ぎますので。」
私は卑怯にもラウラの返答を遮って逃げ出しました。どうせわかりきっている返答を聞く勇気がありませんでした。
続いて同じく教会内で寝ていた司祭様を起こして、有無も言わせず教会の外に出てもらいました。
倉庫に行き武器を携えた後、全ての出入り口に固く錠を掛けて、逃げ道をふさいで行きました。
松明で彼らのいる部屋から遠い場所から火を付けて回りました。
彼らが気が付いた時には既に避難経路が火の海になるように。
最後に彼らの居る部屋の前まで来ました。相変わらず大騒ぎの歓声が上がっていました。
気が付かれないように少しだけ扉を開けて、コルネリオが持ち込んだ武器が入っているらしい木箱に向けて松明を投げつけました。
失敗した時の保険として、その木箱だけは何が何でも炎で包みこんで中の武器を使えなくする必要があった為です。
そうすれば後で村人たちが総出でかかれば、丸腰の彼らを倒すことぐらいはできるでしょうから。
蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった部屋の前から急いで逃げて、彼らが避難で使いそうな道の先に急ぎました。
元々その村に住んでいた私はその教会の造りは頭に入っていますが、彼らはそうでないでしょう。そのため一番わかりやすい順路で逃げてくる事が予想できました。
大騒ぎとなっている彼らの部屋から廊下をそのまま突き進むと、教会堂の翼廊に出るのでそこから教会堂の正面出入口を目指すと思われます。
偶然にもその翼廊は礼拝堂として村の英雄たる父親の墓標が安置されていました。
「あなたの英雄と称えられた勇気を、数百分の1でもいいので私にお与え下さい。」
父親の墓標に祈りを捧げて、その翼廊に陣取って弓を番えて飛び出してくるのを待ちました。
飛び出した所を射抜く。狩りの獲物でももう少し複雑に動きますので、それに比べると難易度は低かったと思いました。
一矢打ち出す毎に、彼らが一人また一人とその場に倒れこむ。その亡骸はすぐに火に包まれていく。
「私の父親はこんな気分が悪くなる事を戦場で繰り広げ、英雄という称号を手に入れたのか。」と余計な事をわざと考えて、意識しないように感情に乗せないようにして弓を引き続けました。
数名がその場に折り重なるように倒れた後は誰かの叫び声も足音も聞こえなくなり、ただそこらじゅうで火のはぜる音だけが聞こえてきました。
全てが終わった事を確認して、私はその場にへたり込んでしまいました。
自分はなんという重罪人だろう。人を殺し、教会に火をつけた。
その罪はたとえ告解をしたとしても赦されないものだろう。だからせめてここでこのまま自分の犯した罪の火で焼け死のう。
私は父親の墓標に成功の感謝と自死の謝罪をして、その身を炎が包むのを待ちました。
「結局、その後はラウラに強引に外に引っ張り出されたので、最後の望みは叶えられませんでしたが。」
マッテオは声のトーンを上げておちゃらけて結末を付け加えた。
確かにそのままマッテオが炎に包まれていれば、彼はここに居るはずがない。
「その後は村に置いてあった持ち主の居なくなった彼らの馬車を借りて、お隣の国の村にあるコルネリオの隠れ家に向かいました。彼の遺した金銭を拝借し私たちの旅費に充てました。
もしかしたら彼らの残党やあの教会での生き残りがいたとして、その中に私に仇討ちを考える殊勝な心意気の人が居るかもしれません。
そのような追手をやり過ごすため、私たちはしばらく馬車の上で野宿を繰り返しました。今着ている行商人風の格好もその一環です。
結果としては私を追いかけてくるような人物は見当たらず、ただの杞憂で終わりましたが。」
「そして野宿生活をしているうちに、お腹の子がいつ生まれてもおかしくない状態まで育った、と。」
村長が言葉を挟んだ。しかしその表情は少し強張っている。それはそうだろう。ただの駆け落ち程度の話かと思っていたら、飛び出してきたのはにわかには信じられない殺人に放火。
「そうです。話を聞いていただいた上で再度お願いさせて下さい。
聞いていただいたように私は重罪人です。たとえ告解をしても決して赦しはいただけない事はわかっています。
私はこの村にはふさわしくなく、追放されて当然だと思っています。
しかし、ラウラとそのお腹の子にはなんら咎はありません。
ですからその寛大なお心と御慈悲でラウラとそのお腹の子をこの村に住まわせてくれませんか。」
必死な目をして訴えてくるマッテオに対して、村長は頭を掻きながら答えた。
「・・・結論については彼女の方からも聞き取りを行った後に、私たち二人で協議して決定する。とりあえずは君は下がって待っていなさい。」
「わかりました。」
そういうと、マッテオは部屋から出た。その姿が扉の向こうに消えた後に二人して大きく息を吐いた。
「いやはや。予想以上に壮大な話が聞けましたな。」
「そうですね。仮に彼の話が全て本当だとすると、彼の言う通りある程度は温情な判断をしてあげても良いかもしれませんね。」
「その為には彼の話が本当かどうか、彼女の話を聞いてその辻褄があうかどうか見定めなくてはなりませんね。」
「口裏合わせの可能性ですね。それを見破るのが一番大変だと思いますが。」
二人して苦笑して、喉の渇きを癒した。




