表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚弱なヤクザの駆け込み寺  作者: 菅井群青
第一部
20/102

ショートケーキ



「さ、光田様、あーん」


「……いや、その自分で」


 あれから時折心が院にやってくるようになった。持参の弁当付きで待合室は賑わっている。光田の口の前に美味しそうなだし巻き卵がある。町田は羨ましそうにその箸先を見つめている。


「口移しが良かったんですね? では──」

「すみません、今すぐ頂きます」


 光田がすぐにかぶりつくと心が嬉しそうに見つめている。たまに誰かさんと同じダークサイドが出ることがあるが、光田を見る目は燃えるような愛でいっぱいで微笑ましい。


 町田と私たち三人は昼ごはんを済ましていたので心の差し入れであるショートケーキとコーヒーを頂いていた。幸はショートケーキが大好きだ。昔ケーキ屋に行けば必ずといっていいほどこればかり食べていた。一口掬って口に入れると幸せな気持ちになる。


「先生、そんなに好きだったのか」


「んぐ? ん、だーいすき」


 ケーキを頬張りながら微笑む幸を見て組長は額に手を当てて顔を赤くする。「あらあら」と心が微笑んでいるのが視界に入る。


「町田……」

「はい、分かってます。必ず町中のショートケーキを──」


「糖尿病で殺す気ですか?」


 ゆっくり食べていると組長が最後までケーキのイチゴを残していることに気づく……。


 もしかして、すごく好きだったりして。


 体が大きい分食べるスピードも早かった。最後にイチゴを頬張ると組長がうっすらと笑った。


 か、かわいい


 なんというか、ハマる。


 私も最後にイチゴを食べるタイプなのだが、餌付 けじゃないけど、組長にあげたくなった。


 フォークで自分の皿の上で転がっていたイチゴを指すと組長の顔の前に持っていく。


「な……せ、先生──」


 イチゴと私を交互に見て動揺しているのが見てとれる。


「組長、あーん、して?」


 首を傾げてフォークを差し出すとその手首を組長が掴む。なぜかイチゴから顔を背けている。俯いたままなので組長の表情は読めないがほんのり耳が赤いように見える。


「へ?」



「──さて、光田、もういくぞ」


 なぜか町田の声とともに弁当を食べていたはずの二人もあっというまに出て行く。「うふふ、幸さんもやりますわね」という謎の言葉を残して心は出て行った。


「先生……」


「あ、はい?」


「何って言いました? もう一回言ってください」


何って、イチゴをあげようとして……


「あーん、して──」


 組長がイチゴを口に含むと半分かじり幸の口の中へと口移す。突然口の中に押し込まれたイチゴを戸惑いながらも噛んで飲み込む。

 私が真っ赤な顔して飲み込むのを確認すると、組長は幸のサイドの毛を漉くように掻き上げるとそのまま頭をしっかりと手のひらで包み引き寄せると……唇を食べられた。


 パクッと──。


 舌を絡められると甘い生クリームと甘酸っぱい苺の香りが鼻を抜ける。

 組長は一度唇を離すと上唇を舐め、いやらしい笑みを浮かべる。


「……甘いな」


 その言葉に顔から火が出るんじゃないかと思うぐらい恥ずかしくなった。


 あれからテレビに出るショートケーキをみるとその時のことを思い出して真っ赤になってしまう。


 ショートケーキはキスの味になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ