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虚弱なヤクザの駆け込み寺  作者: 菅井群青
第一部
21/102

光田の捕獲



「光田様」


「ご機嫌よう光田様」


「あら、奇遇ですわね光田様」


 光田様光田様光田様……


 ああああ……俺の平穏な日々カムバック!

あの衝撃な口付けの後、心は事あるごとに光田の行く先々に出没した。


 むかいの◯◯◯、路地裏の△△……こんなところにいるはずもないのに


 あぁ、あの名曲のフレーズが俺の頭の中を流れる。とにかく見た目は可憐で可愛いかもしれないが中身が問題だ。あの女は俺を骨の髄までしゃぶるつもりだ。それだけは避けたい、なんとしても。光田はコンビニに寄るといつものコーヒーの缶を手に取る。その手を誰かがそっと握った。


「あら、光田様……こんにちは」


 ストーカーだなこりゃ。一瞬怯むが今日という今日は言ってやらねばいけない。


「心ちゃん、あのですね、大変申し訳ないんですけど俺はあなたとどうこうなりたいわけじゃなくて──」


「分かっています。その気がないことは」


 心が真顔で答えたことに驚いた。まっすぐで嘘偽りないその黒い瞳に自分が恥ずかしくなり顔を逸らす。こんな彼女に遠回しなんて通用しない。


「……俺は好きな女はいてへんけど、これから大事にしたい女はあんたじゃないと思う。ごめん」


 そういうと俺はコーヒー缶も買わずにコンビニをあとにした。しばらく歩き、立ち止まる。再び歩き始め、止まるを繰り返す……。

 あれでよかったのか?泣かせたんじゃないか?いや、待て待て何流されてるんだ?気にすることないじゃないかこれで解決だ。うん、そうそう。


 心の笑顔に、手の絆創膏を貼り付けて持ってきた重箱の弁当、あの甘いキス……


「光田様……」


 愛しく呼ぶ声が光田の耳から離れない。


「あー……! くそっ!」




「離してください」


 心が腕を振るが男はビクともしない。それどころか心の顔を覗いて嬉しそうだ。近所の大学生だろう。顔に僕軽さだけが取り柄と書いていそうだ。


「いや、可愛いねぇ。どこかのお嬢様なんでしょ?今からいいとこ行こうよ、ね?」


 傷みすぎた髪にダボダボのズボンに金のチェーンといういかにもTHEチャラい男が心を壁へと追いやり口説いている。周りの人間は巻き込まれてはいけないとさっさと通り過ぎていく。男が心の頰に触れようとした時にチャラ男が急に横へと吹っ飛んだ。


「やめとけや、お兄ちゃん」


 光田が強烈な蹴りを食らわしたらしい。チャラ男は振り返り殴り返そうとするが光田の風貌を見てピタリを動きを止めると凄い勢いで立ち去って行った。胸元の刺青を見て本物だと気付いたのだろう。話が分かるやつで有難い。

 光田は心に近づくと声を掛ける。


「心ちゃん、大丈夫か? 怪我は?」


「……あ、りま、──せん」


 心の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。そのまま心が光田に抱きつくと黙って光田は背中をポンポンと叩いてやった。

 落ち着いて泣き止むと心はふふっと笑い出す。緊張が解けたのだろうか。


「二度目、です。助けていただいたのは」


「二度目?」


「三ヶ月ほど前に不良に絡まれているところを助けていただきました。その時は私淡いブルーのセーラー服で……イベントで着ていたんです」


 確かそんなこともあったような……? そうか、あん時の。


「あの時ですわ。私が光田様に恋をしたのは……ずっとずっと探してようやく司さんの側近だと分かった時には嬉しかった」


 心の告白は思いの外俺の心を揺らした。なんて顔でなんて事いうんだこの子は……。こんなの、可愛すぎるだろ……。


「ですから、逃がさないと思いましたわ。徹底的に周りを囲み、私しか見えなくなればいいとも……」


「ん?」


 あれ? なんか方向性間違ってない? 聞き間違い? サタン降臨してない?


「光田様が好いてくださるまで、諦めませんわ。とりあえず体から離れなくしてみせますわ」


「ちょちょちょ……待て、落ち着け──順番間違ってると思うけどな、お兄さんは」


 心はコンビニの駐車場ということも忘れて光田の唇にかぶりついた。歯列が邪魔だと言わんばかりに舌でこじ開け物足りないのか顎を掴み角度を変える。


「んあ、好き、ですわ」


 ……ったく……


 合間に愛の言葉を紡ぐ心の体を光田は支えた。背中に感じる光田の温もりに心が少し笑った気がした。

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